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悪になる覚悟

 特捜部の戦艦をスライノア監獄の上空に付けると、アイリスは無線でババフィンア看守長を呼んだ。


「オードラス・ジグスは見つけたか?」

『まだです』

「敵の数は?」

『わかりません』


 アイリスは苛立ちながら無線機を置き、


「……役に立たん男だ」


と呟いた。その声は微かにババフィンアに聞こえていたようだ。


『ですが特捜部閣下、監獄内の出入り口は管理用のダクトなども含めて全て封鎖いたしました。これで奴らはどこにも逃げられません』


 アイリスはため息を吐くと再び無線機をとり、


「ご苦労」


と続けた。


『ジーク人に煽られて囚人たちが反乱を起こしました。我々も危険な状態です。まず看守めを救出していただけませんでしょうか?』


 ババンフィアの噓くさい遜った態度には辟易したが、アイリスはその頼みを聞き入れることができなかった。「看守諸共皆殺しにしろ」というエドカ元帥の命令に背くことになる。


「駄目だ! 貴様らは責任者であろう。監獄に残り特捜部とともに戦え!」

『……』


 何も言わない間があった。ババンフィアの悔しそうな顔が目に浮かぶ。


『畏まりました、特捜部閣下』


 これまで連邦軍内で上手く立ち回り出世してきたババフィンアも特捜部の命令にはお手上げだった。

 アイリスは特捜戦艦を看守棟の上空に静止させ、部下たちに機関銃架へ配置につくように命令した。機関銃架は戦艦の「腹」の部分にあり、上空から地上の敵兵を狙う際に用いられる。まるで厚い果肉にまとわりつくサボテンの棘のように至る所から突き出て鉄の雨を降らせる。

 次々と銃架へ向かう兵士たちの中で、ルークはまだ動けずにいた。見かねたアイリスが彼を急き立てる。


「どうしたルーク、早く配置につけ!」

「丸腰の囚人や同じ連邦の看守を撃つなんて、やっぱり俺にはできません」


 エドカ元帥からの極秘命令を伝えたとき、ルークだけが納得できずに顔をこわばらせた。華やかなイメージの特捜部だがこうした穢れ仕事もある。ルークにとってははじめての経験だった。

 アイリスはそんなルークの思いをよくわかっていた。自分もはじめて無慈悲な命令を受けたとき、連邦の国家理念に反していると感じ、命令を拒絶したくなったからだ。アイリスは上官ではなく先輩として、諭すようにルークに語り掛けた。


「私もこんな命令には従いたくない。だがオードラス・ジグスを逃がせば、何の罪もない連邦の人たちに危険が及ぶ。ジグスだけじゃない、ここにいる重罪人が一人でも脱獄すれば何万人もの人が命を落とす可能性だってある。囚人たちが看守服を奪って、看守に変装して逃げてきたら特捜部の隊員だって危ない。理不尽かもしれないが仕方のないことだ」


 アイリスはルークの肩に手を掛けると、彼の目を見て続けた。子供のころと違って、ルークの方が一回り身長が高かった。


「ルーク。私たち特捜部はヒーローじゃない。悪人なんだ、私もお前も」


 ルークはその言葉にかつてゼ・ロマロでアイリスから言われた「悪になる覚悟」を思い出した。ルーク一人じゃない。アイリス自身も一緒に悪に染まってくれると言っている。

 そんなアイリスの思いが、ルークの葛藤する心を少しだけ動かした。


「……わかりました。機関銃架へ向かいます」


 ルークを最後に特捜部の隊員たちは総員が機関銃架についた。集団脱走が確認され次第、アイリスの命令で攻撃を開始する手はずになっている。

 アイリスは特捜戦艦のデッキでスライノア監獄を見下ろしながら、何とかババフィンアたち看守が囚人たちを制圧してくれることを願った。ルークに偉そうなことを言ったアイリスだったが、彼女自身の心も本部からの命令と自分の信念の間で彷徨っていた。


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