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巨大監獄の盲点

 シュライダの合図で一行はトタン下の車両基地から散った。リータとチェクは基地に残り、全身を使って一台のトロッコを押し出す。


「行くぞ」


 長く使われていなかった錆びた車輪が軋んで音が鳴る。二人はそのままトロッコを分岐器の上まで押し進め、鉱石を運び出している本線のレールに乗せた。


「チェク、緊張しているのか?」


 トロッコに体を預けて俯くチェクにリータが尋ねた。自分たちが失敗すれば、仲間が死ぬかもしれない。


「ええ、少しね」

「大丈夫、上手くいくさ」


 リータはチェクをそう励ますと、二人はトロッコを押し込み、手を離した。スライノア監獄の坑道は緩やかな傾斜になっており、地下方面へは重力によってトロッコを押さなくても勝手に下っていく。

 甲高い音を立ててゆっくりと進み始めたトロッコを見て、二人は目を合わせた。


「よし! 次に移ろう」


☆☆☆


「トロッコの暴走です!」


 中央看守室で昼食をとっていた若い看守二人のもとに、別の看守が飛び込んできた。


「囚人どもが手を滑らせたのか?」

「いえ、未使用のトロッコが坑道を下っています!」

「なんだと?! あれほど使っていないトロッコの管理を怠るなと言っただろ!」

「申し訳ありません。しっかりと鎖でつないでおいたはずなんですが……」


 看守は苛立ちながらも食器を置き、上着を羽織った。


「まあいい。とにかく今はトロッコを止めることが最優先だ。事故が起きたらまずい」


 看守たちは食事を中断し、慌ただしく準備をはじめた。上官のファフォン曹長が部下の二人に指示を出す。


「マグラブ軍士、アフーラ軍曹。ただちにトロッコを停止させろ。俺はここに残って囚人どもの動きを止める」

「承知しました!」

「それから、このことは絶対にババフィンア看守長には言うな。もしも看守長に知られたら、俺たちも囚人どもと同じように裸になって石を掘る羽目になるだろうからな」


 若いマグラブとアフーラは生唾を飲み込んだ。


「わっ、わかりました」

「もう行け! 急ぐんだ!」


 そう言われた二人の若い看守は慌ただしく部屋を出て行った。階段を二段飛ばしで下り、地下五階を駆けていく。そしてリータとチェクが隠れている車両基地の横を抜け、動いているトロッコを追いかける。


「成功ね、上手くいったわ」


 慌てて走っていく看守を見てチェクは安堵した。シュライダの予想通り、監獄の地下には看守が三人しかいないようだ。

 中央看守室に残ったファフォンはすぐに囚人の動きを封じる手はずをとった。看守室の制御盤には「0001」から「9999」までの数字が書かれており、それぞれの横にランプが灯っている。その半数くらいが緑色に点灯し、それ以外は消灯していた。緑色は囚人が繋がっている鎖を表し、消灯しているものは使われていない鎖だ。

 ファフォンは制御盤の鍵を使い安全装置を外すと、ボタンを捜査してすべてのランプを赤色に変えた。これで鎖に繋がれている囚人全員に電流が流され、囚人たちは苦しみと恐怖から動きを止める。


「これをやると作業効率が落ちるんだよなあ。まったく、昨日のトロッコ当番は誰だよ……」


 ファフォンは頭を抱えて制御盤を睨んだ。電流を流された囚人はしばらく動けなくなってしまう。遠い目をしながら、ファフォンはババフィンア看守長への言い訳を考え始めた。


「今日までに未踏区画25まで掘り進めないといけないのに……」


 そう独り言をつぶやいた瞬間、何者かがファフォンの後頭部を銃床で殴った。


「うっ……」

「くたばれ」


 小さな声を上げて倒れたファフォンにチェクはそう言った。そのまま彼をロープで縛り、掃除道具入れに押し込む。ついでにサーベルと短銃を没収し、チェクは黒いベストに短銃をしまった。


「看守の人数は少なくても通報装置はいたるところにあるからな。なるべく見つからないほうがいいだろう」


 リータは制御盤をぐるりと見渡して言った。ひとまず電流を停止し、ランプを赤から緑に変える。チェクが看守室のドアを開け廊下の様子を伺っていると、先に地下二階に偵察に出ていたシュライダとキーオーが戻ってきた。


「中央看守室は抑えたか?」

「ええ、もちろんです」

「よくやった」


 シュライダとキーオーは看守室に入り、鍵が置かれている壁掛けのラックから留置所のスペアキーを探した。さすが世界一の監獄だ。ラックの大きさが黒板ほどはある。それぞれにネームプレートがついてはいるが、管理が杜撰なために同じラックに二つ鍵がかかっていたり、空になっているラックがある。これは大仕事だな。シュライダは覚悟を決めて鍵の細部をチェックしていった。


「マスターキーはないんですか?」


 彼と同じように鍵を調べているキーオーが尋ねた。


「監獄だ。あるわけがない」

「あっ、そうか。そうですよね」


 つまり二人は大量にある鍵から、地道に探している一本を見つけなければならなかった。鍵には「1-1」といった番号が振られており、左側の数字が階数、右の数字が部屋数を意味している。

 キーオーたちが偵察にいったとき、地下二階にある留置所で使われているのは一部屋だけだった。窓はないため中の様子までは伺えなかったが、その部屋に確実に叔父さんがいることはわかった。なぜなら部屋の前に、叔父さんの青い髪が落ちていたからだ。

 そこは地下二階の二番目の部屋。つまりスペアキーには「2-2」と書かれている。


「ありました!」


 銀色の文様とにらみ合いながら、キーオーはついにその鍵をみつけた。叔父さんとの再会を隔てているものは、もう扉一枚だけだ。


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