作戦開始
救出作戦が始まった。まずはリータとチェクが偵察に向かい、看守の更衣室に忍び込んでスライノア監獄の詳細な地図を手に入れた。
「なんて甘い警備体制なのかしら」
チェクが丸められた地図を手にして言った。彼女は机の上に不用意に置かれた新人看守用と思われる監獄の全図を見つけたのだ。
「囚人たちが脱獄するなんて誰も考えていないのだろう。こっちとしてはありがたい」
リータはそう言って笑うと、チェクとともにトロッコの車両基地へと戻った。キーオーたちの前で地図を開き、作戦を練る。
「二人ともよくやった。それにしてもかなり詳しい地図だな。上下水道の配管や簡単な配電図まで載っている」
シュライダは二人を褒めると、持ってきた地図を見て驚いた。
「おそらく看守の教育とメンテナンス用を兼ねているのだと思います。建物は立派ですが管理体制は杜撰ですね」
リータが言った。シュライダは地図を見渡し、地下二階部分を指さす。
「留置所は地下二階に集中しているな。この部屋のうち、どこかにオードラスが捕まっているはずだ」
地図には留置所と書かれた部屋が4つ記されていた。一部屋が大きいため、この規模の監獄にしては部屋数が少ない。キーオーは不思議に思い、シュライダに尋ねた。
「留置所はたった4つだけ? 意外と少ないですね」
「たぶん洗脳装置もここにあるのだろう。だから一部屋が大きい」
シュライダは指で留置所を叩きながら、ここへ向かう階段や廊下を探した。スライノア監獄は地上五階・地下五階の建物で、地上の看守棟は近代的な均整のとれた間取りをしている。対して地下のエリアは複雑に入り組んでおり、鉱山のような作りになっていた。ただし幸いなことに地下二階には4つの留置場と真ん中を貫く廊下以外、部屋はなさそうだ。
「次は囚人たちを監視している部屋だな」
「中央看守室ですね」
シュライダの言葉にチェクが地図の一部を指さして言った。地下三階にある大きな部屋がそれだ。
「ここを制圧するのは至難の業だ。さっきチェクが言ったようにトロッコを使い、鉱山でトラブルを起こして看守を地下におびき出そう」
戦場慣れしているシュライダ、リータ、チェク、ユーアの四人は短時間でスライノア攻略の計画を立てていった。制圧するべきは叔父さんが捕まっている部屋と、囚人たちを操っている洗脳装置がある中央看守室だ。加えて脱出ルートの確保も必要だった。囚人たちを解放しても、監獄から出られなければ意味がない。それにシオンとリオン、リト婆さんを危険な任務に付き添わせるわけにはいかないからだ。
「よし、三つのグループに分かれよう」
シュライダが小さいながらもはっきりとした声で言うと、みな彼のほうに向きなおった。
「リータとチェクには看守の陽動と中央看守室の制圧を任せる。重要な任務だ」
「わかりました」
リータがそう言うと、チェクは早速弾倉のチェックを始めた。
「シオンとリオン、それにユーアは婆さんを連れて脱出ルートを確保してくれ。地下四階の使われていない換気ダクトから森の中に出られるはずだ。頼んだぞ」
リオンは小声で親指を立て、
「任せてよ!」
と笑った。
「俺はオードラスを助けに行く。キーオー、一緒に来れるか?」
シュライダの赤い目が戦士のそれに変わった。あの時、ゴウロン号で見た目つきと同じだ。しかし今のキーオーには、彼の目をしっかりと見つめ返す覚悟ができていた。
「はい、もちろんです!」
「その意気だ」
シュライダはそう言ってキーオーの肩を叩くと、
「作戦開始だ! 生きて帰るぞ」
と言って立ち上がった。




