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青髪の叔父と甥

 気まずい沈黙が支配する中、キーオーは静かに語り始めた。


「俺は生まれながらの連邦領民でも、移民の子でもありません。アムチャットで生まれ、アムチャットで育ちました」


 自分が極北系の血を引く連邦領民でも移民の子孫でもなく、アムチャットの民だと正直に打ち明けるリスクの大きさをキーオーはよく分かっていた。ジーク人はアムチャットを見下していると母から教えられてきたからだ。

 しかしこの人たちと何日間か行動をともにしてきて、そんな母の教えが信じられなくなっていた。ジーク人は、少なくともここにいる人たちは、世界を変えるために必死になって戦っている。


「雨季のころ、村に突然現れた連邦の特捜部によって、村民全員が殺されました。今思えば、奴らは叔父を追ってアムチャットにやってきたのだと思います。叔父は捕まり、俺も殺されかけて川に落ちました。そしてゼ・ロマロの港まで流れ着き、アルダ孤児院のバンクス夫人に拾われたんです」

「ああ、なんということじゃ……」


 リト婆さんはキーオーの過去を思い悲嘆にくれた。彼女が涙を浮かべて顔を伏せる中、キーオーは続けた。


「ゼ・ロマロにいたころに学んだのは、国や民族で人を判断してはいけないということです。今でも特捜部のしたことは許せませんが、同じ連邦でもアルダ孤児院のバンクスさんや仲間たちにはとても感謝しています。ジークの皆さんも今は連邦領民の俺をムバイルから助けてくれて、ここまで連れてきてくれました。本当にありがとうございます」


 感謝を現しつつも、なんとなくよそよそしいキーオーをリータは慰めた。


「君がジーク人でも、連邦領民やムバイル領民でも俺たちは助けたさ。危機に瀕している人を助けるのは軍人として当然のことだからね。それよりも叔父さんのことが心配だ」


 リータの優しい言葉にキーオーは少し安心した。すると今まで黙っていたシュライダが口を開いた。


「オードラス・ジグス。俺も詳しくは知らないが、彼は女王陛下の古い友人でアムチャット出身のジャーナリストという経歴を生かして、ラザール帝国の国家機密について探っていたと聞いたことがある。それに王都の情報屋とも親交があったらしい」

「つまり連邦をスパイして捕まったってこと?」


 難しい言葉がたくさん出てきて話が飲み込めていないリオンがシュライダに尋ねる。


「ああ、そうだ。だが悲しいことにジークではオードラスを連邦の二重スパイだと疑う者もいてな。逮捕されたと伝えられた時も誰も助けようともしなかった」

「そんな、ひどい……」


 今度はシオンが言った。キーオーも口には出さなかったが同じことを思っていた。シュライダはそんな彼を見つめ、諭すように言った。


「酷い事だよな。俺が思うにジークの上層部は叔父さんをトカゲの尻尾切りにしたんだ。オードラスが盗んだ『神のなんとか』とかいう連邦の軍事兵器は見つかっていないし、あれはオードラスが勝手にやったことでジークには関係ないと言い切れば、世界から非難されることはない」


 キーオーはザックの中にある青い宝石の重みを感じた。確かに元々あれは叔父さんからジークのフクロー女王に渡してほしいと託されたものだった。でもジークに利用されていただけだとしたら、命をかけて石を盗んだ叔父さんの思いや、そのせいで死んだ両親やセイルが報われない。

 それにこれはイャスで採れる発光石の結晶で、とてつもなく危険な兵器だ。ジークがもし発光石の力を使ったら、連邦の民間人にも被害が及ぶだろう。やはり叔父さんに会うまでは、自分が持っていることを隠しておいたほうが良い。キーオーはそう考えた。リータやシュライダたちは信用できるが、他のジーク人は分からない。国や民族で人を判断してはいけないからだ。


「みんな、やるべきことは分かっているな」


 一通り話し終えたあと、シュライダは言った。リータ、チェク、ユーアの3人とそれぞれ目を合わせてから、幼い姉弟とリト婆さん、そしてキーオーを見た。チェクは一度頷いてから、キーオーに言った。


「キーオー。私たちはジーク人として、あなたに対しての責任を果たすわ」

「それって、叔父さんを助けてくれるってことですか?」


 ずっと敵国だった人たちの頼りになる言葉にキーオーは救われた。するとチェクの代わりにシュライダが答えた。


「いや、違う。オードラスを含め、スライノア監獄にいるすべて囚人を解放するんだ」


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