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トロッコの車両基地

 シュライダたちが監獄を調べて、わかったことが二つある。一つは巨大な坑道を中心にして、大木の根のように細い坑道が広がっていること。二つ目は囚人たちが寝食をともにする牢獄棟と看守棟以外には、看守が全くいないということだった。

 囚人たちはよそ者であるキーオーたちを気にすることなく、トロッコを押していた。リータは見つからないように壁際を先導したが、囚人たちはこちらを警戒する様子もない。もしかしたら洗脳済みで既に自分の意志は消えているのかもしれない。


「このまま行けば、見つからずに地上へ出られるはずだ」


 鉱山トロッコの車両基地まで進むと、リータがそう言った。トタン屋根で覆われた車両基地は看守や囚人の姿もなく、外からは見えない。シュライダ小隊はトロッコの間に身をかがめ、作戦を練った。


「だがおそらく、ここから先には看守がいるだろう」


 シュライダが額に汗をにじませて言った。ここまでは緊張しながらも、比較的容易に突破できた。問題はここから先だ。


「鉱山でトラブルを起こして、看守の目を逸らせないでしょうか?」


 チェクが提案する。たしかに名案だ。


「そうだな。それがいい。よし、このトロッコを使おう」


 シュライダは右手で使われていないトロッコを触った。例えばトロッコ同士を追突させられれば、作業が止まり看守の目を逸らすことができるだろう。


「みんなあと少しだ。頑張ろう」


 シュライダはそう言って部下と子供たちを励ました。リータやチェクたちはともかく、シオンとリオンやリト婆さん、それにキーオーは疲れが顔に現れている。自分たちがジークに帰ることも大切だが、この青髪の少年を何としても無事に故郷まで届けてやりたい。シュライダはそう思っていた。


「はい、大佐」


 リータの声に呼応するように、みんなは頷いた。するとトタン屋根の向こう側から人間の声が聞こえた。はっきりとした男たちの声。囚人ではなく看守のようだ。全員が身をかがめ、動きを止める。


「403のグループは未踏エリアまで掘り進めたか?」

「はい。遅れもなく順調です」

「それはよかった。戻ってきたら昼飯をとらせてやれ」

「分かりました」

「それにしても、まるでアリの巣を見ているようだな」

「はははっ、そうですね。俺たちが何も言わなくても囚人たちは働きますから。見てください、あれなんかまさに働きアリの隊列ですよ」


 看守は若い男二人のようだった。シュライダは銃を構えつつも、こちらの存在が悟られていないことに安堵した。チェクやユーアは悔しい顔をする。ここの看守たちは囚人を玩具にしているのだ。


「うん、傑作だ。そう言えば明日、新しい働きアリが増える。ここにいる有象無象とは違う、名の知れたアリだ」

「昨日アフーラ軍曹から聞きましたよ。例の売国ジャーナリストでしょう?」

「知っていたか、そうだ。あのオードラス・ジグスだ」


 叔父さんの名前が出て、キーオーは固まった。


「午後からババフィンア看守長が直々に矯正プログラムを施される」

「看守長が直々に。それは楽しみですね」

「あのいかれた中年オヤジが裸で言うことを聞くようになるんだ。俺も今夜は眠れねえよ」

「はははっ、先輩も結構きついこと言いますね」

「これがなきゃ、こんな地獄で働かないさ。さあ、正午の監視は終わりだ。俺たちは先に飯にしようぜ」

「わかりました」


 二人はその後も談笑をしながら、看守棟の中へと消えていった。

 キーオーは叔父さんが今スライノア監獄にいて、このあと洗脳される事実をはっきりと理解した。チェクが思い出したかのように沈黙を破る。


「オードラス・ジグスって、確か王都の情報屋が言っていた……」


 するとキーオーがチェクの言葉を遮った。


「俺の、叔父です」

「叔父さん?! でもたしかオードラス・ジグスって連邦領民ではないような……」


 リータは驚いてそう言ったが、彼の青い髪と瞳を見てすべてを悟った。


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