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赤い目との再会

 事態が動いたのはそれからしばらくしてからのことだった。キーオーは静寂に耳を澄まし、地底湖に水滴が落ちる音や、チェクたちが薬草を潰す音を夢うつつに聞いていた。やがて洞窟のどこからか人の声と足音が聞こえてきた。どうやら二人の男たちのようだ。


「リータ!」


 チェクは薬草を潰すのをやめ、立ち上がった。


「チェクか?」


 別の声が聞こえた。それはムバイルの領地で助けられた男の声に似ていた。


「ここよ」


 チェクがヘッドライトを灯し、洞窟を照らしだす。


「あ、いた。あそこだ」


 男たちがこちらの場所を確認すると、チェクはライトを消した。二人はゆっくりと明かりに向かって歩き、チェクやキーオーたちと合流した。二人とも右手に銃を抱え、黒いベストを着ている。一人はムバイルの領地で助けてくれた男だ。


「君も無事だったんだね。よかった」


 リータはキーオーを見るなり安心したようだった。キーオーは小さく彼に頭を下げる。


「はい。ありがとうございます」


 もう一人の男は足を少し引きずっていた。すぐにチェクが薬を持って駆け寄る。


「シュライダ大佐、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。止血はもう済ませたから、消毒だけしておきたい」

「太ももですか?」

「そうだ。油断していたらムバイルに足を射抜かれた。大したことはないし、火傷の痛みも引いてきたから、鎮痛剤はバリオのためにとっておいてくれ」

「わかりました。消毒液だけ準備します」

「チェクは休んでいろ。自分でできる」


 男は襤褸切れ(ぼろきれ)で太ももを縛っていた。血の滲んだところが黒いくなって痛々しい。そのままキーオーが視線を上に向けると、男と目が合った。そこにはあの『赤い目』が光り、こちらを睨んでいた。キーオーの頭にライクンの姿とゴウロン号の取調室で見た赤い目が蘇る。しかし男は優しく、


「……怪我はないか?」


と言い、キーオーの頭を撫でた。


「俺はシュライダ。この小隊の隊長だ。お前が家に帰れるように全力を尽くす」


 この言葉のあと、赤い目に対して感じていた恐怖は少しずつ和らいでいった。チェクやリータ、リト婆さんたちに出会ってジークのイメージが大きく変わったのも一因だった。


「キーオーです。ありがとうございます」


 シュライダ小隊の面々が揃うと、彼らはキーオーを囲んで再び自己紹介をした。副隊長兼参謀のリータ、紅一点でパイロットのチェク、衛生兵のユーア、双子の姉弟のシオンとリオン、最年長のリト婆さん、そして隊長のシュライダ。あともう一人、重傷を負っているバリオがいたが、彼は鎮痛剤の効果で眠ったままだ。

 リータと双子の姉弟は手際よく夕飯を準備した。ジーク軍の野戦糧食は『ペパ』という特殊な穀物が使われている。ペパはお湯に戻すと膨れ上がるが、水では膨らまないのでレーションにはもってこいの代物だ。こうして出来上がったペパに甘めのソースをかけ、木の実を挟んで食べる。チェクが言うには連邦の野戦糧食よりもはるかに美味しいらしい。


「連邦の軍用食は味のしないエネルギーバーだからね。ジークのペパは普通に美味しいでしょ?」

「はい。ゼ・ロマロで食べたベーグルを思い出しました」


 キーオーはその味に感激を覚えながら、ランタンを囲んでみんなで食事をとった。シオンとリオンも最初は警戒していたが、食事を共にするころにはキーオーと打ち解けていた。リト婆さんの横に座りながら、


「オレの作ったペパとシオンの作ったペパどっちが美味しい?」


なんて聞いてくる。


「リオン! 茹でるだけなんだからどっちも一緒でしょ!」

「そんなことない! オレのには愛情がこもってるから」

「シオンも愛情こめたもん」


 キーオーはそんな二人のやり取りをみて笑った。まるでゼ・ロマロのアルダ孤児院にいるようだ。シオンは寝ぼけてキーオーを王子様と呼んだことを覚えていないようだった。二人は子供らしく無邪気に振舞う。

 対照的にシュライダたち大人の表情は硬いものだった。敵国の真ん中で、しかも重症のバリオを抱えているのだから無理もない。明日のことを考えることで頭がいっぱいなのだろう。

連邦領民であるキーオーを人質にして、連邦軍と交渉することもできたはずだ。しかしそれをしなかったのは彼らの優しさなのか、それともただ単純にキーオーが連邦領民に見えないからなのかは、まだ確実に判断はできないでいた。確かに彼らは優しいが、ゴウロン号を襲ったのは紛れもなく今食事を共にしている人たちだし、キーオーを助けるためとはいえムバイルの男たちも何人か殺している。

 キーオーはふと、船で会ったあの赤い目の少年がいないことに気づいた。同じ赤い目だが、シュライダとは明らかに違う。シオンたちよりは年上で、リータやチェクよりはずっと若かったはずだ。


「あの、みなさんのチームって、これで全員なんですか?」


 キーオーの質問に誰もがペパを口に運ぶのをやめ、それまで賑やかだったシオンとリオンも波が引くように静かになる。すぐにこれは聞いてはいけない質問だったなと、キーオーは後悔した。

 短い沈黙のあと、シュライダが言った。


「一人は死んだ。連邦の新兵器、レーザー銃によってな……」


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