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異分子の運命

「離してください!」


 宝石の入ったザックを背負ったキーオーを、ムバイルの男たちが囲い込んで捕まえた。両腕をつかまれながらも抵抗するキーオーを、白髪の老人が睨む。ムバイルの長で、アーサの祖父にあたるソロンは、空から現れたキーオーは『神の裁き』にかけようと躍起になっていた。


「この凶暴性。まさしく異分子じゃ。こやつをムクヌンクへ連れて行け! そこで神の裁きを受けさせる」

「お祖父さま、それだけはおやめください!」


 彼らの後ろでアーサが叫んだ。


「罰はアーサが受けますから!」

「アーサさん!」


 キーオーは訳も分からないまま、アーサの名前を呼んだ。すると後ろから屈強な男がキーオーの頭を叩いた。


「気安く姫様の名前を呼ぶな。この異分子が!」


 キーオーは彼らの態度に苛立ちを感じたが、抵抗することを諦めた。そして冷静さを取り戻し、目の前にいるソロンに尋ねる。


「これは一体どういうことなんですか?」

「異分子に話すことなど何もない」

「それがムバイルの方々のやり方なんですか。俺はさっきアーサさんから、ムバイルの教えでは命は全て同じ価値だと教わりました。なんて素晴らしい考え方だと思ったのに……」

「だからこそだ! 悪い考えをもつ命は、良い命に生まれ変わらなければならない。貴様が悪人かどうかは神様が裁きを下さる。黙ってわしらに付いてこればいい」

「駄目!」


 ソロンの言葉を遮ってアーサが声をあげた。


「あの裁きは形だけなのです。結果は決まっているの!」

「うるさい! 異分子を籠に乗せろ!」


 アーサの言葉を遮るようにソロンは男たちに命令した。キーオーは強引に腕を抑えられ、木で作られた囚人用の籠に入れられる。籠の中は狭く、キーオーは足を曲げて背中を丸めるしかない。籠の外を見ると、アーサとソロンが口論を続けていた。


「よく聞くのじゃアーサ。こやつは終末の光を放つことができる異国の民なのじゃ。ムバイルに、いや世界に破滅をもたらすと言い伝えにある、破滅の一族じゃ」

「ですがお祖父さま。その言い伝えが真実になるとは限りません。お祖父さまたちはあの人のことをよく知らないし、知ろうともしていないではありませんか!」


 しかしアーサの説得をソロンは聞こうともしない。


「おい、何をぐずぐずしておる。早く連れていけ!」

「お祖父さま! キーオーさん!」


 ムバイルの男たちに担がれ、籠が動き出した。キーオーは洞穴を抜け、森の中へと運ばれていく。何度も籠の外へ出ようと試みたが、扉は堅く閉じられ開けることが出来ない。おそらく外からのみ開けることが出来る仕組みなのだろう。キーオーはあきらめ、仕方なく籠の中で待つことにした。神の裁きとはいかなるものなのだろう。アーサが言っていた「裁きは形だけ」という言葉も気になる。


「ガタッ……」


 籠が大きく揺れた。相当険しい道を登っているようだ。その後も何度か籠が揺れ、キーオーは狭い籠の内部に頭をぶつけてしまわないように両手で頭を押さえた。


☆☆☆


 シュライダ小隊が墜落現場から北東へ進み続けると、徐々に草木が生い茂る森へと変貌していった。


「ここから先がムバイルの領地だ」


 地図を見ながらリータがそう言った。自然に出来たものなのだろうか。木の根が複雑に絡まり、まるで外界とムバイルを区別するかのように壁ができている。ここから先はいっそう道が険しくなり、空気も薄くなるようだ。重傷を負ってチェクとユーアに担架で運ばれているバリオや、シオンとリオン、リト婆さんが耐えられる保証はない。しかしここを抜けなければ、故郷に帰ることはできない。小隊の誰もが思い思いに決意を固めた。


「さあ、行こう」


 シュライダの合図で、木々で出来た壁の隙間を抜け、ジークの領民たちはムバイルの領地へと足を踏み入れた。先頭のシュライダが剣で道を開き、その後に案内役のリータが続く。さらにシオンとリオンが文句一つも言わずについてくる。二人はむしろ探検を少し楽しんでいるかのようだ。

 リータにはバリオの怪我の容態だけが気がかりだった。幸いムバイルの森は実り豊かで、食料に困ることはなさそうだ。それに森も開けていて、道に迷うこともないだろう。しかし彼の怪我だけが小隊に緊張感を与えていた。雨などのアクシデントで行程が遅れれば、命に係わる状態になりかねない。異国の地を踏みしめながら、リータは無事にムバイルの領地を抜けられることだけを祈っていた。


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