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夜空の駆け引き

 緊迫した空気が船内に流れる中、ユーアはシュライダにシオンとリオン、そしてリト婆さんを船内で一番安全な倉庫に避難させた。


「大丈夫、すぐに終わるさ」


 震える子供たちにユーアはそう言った。いくら戦場に慣れているとはいえ、ここまで緊迫した状況になったのは初めてだ。姉弟は不安げに目を合わせた。すると後ろからリト婆さんが二人を励ました。


「心配しなさんな。わしらは一人じゃない。頼もしい仲間たちがいる。みんなを信じよう」

「う、うん」


 リト婆さんの言葉にシオンたちは頷く。それを見ていたシュライダがゆっくりと立ち上がり、静かにユーアに言った。


「ユーア。3人を頼む」

「ですが、大佐。その傷では……」

「大丈夫だ。チュウゴのお茶のおかげで痛みが大分と引いた。リータたちだけに砲撃を任せるわけにはいかない。それに相手の武器が気になる」


 シュライダはさっき小船に放たれた攻撃が、既存のどの武器とも違う衝撃だったのを覚えていた。もしかしたら連邦の新兵器かもしれない。だとすればこの眼で実際に確認し、ジークの同胞に伝えなければ。

 リータとバリオはそれぞれ船の両舷についている機関砲を構え、暗闇の中に潜む攻撃者を探していた。一瞬、人影のようなものが見えたが、今は物陰に隠れられて見つけることができない。

 リータのいる左舷の機関砲にシュライダが早足でやってきた。


「敵兵は見つかったか?」

「いえ。攻撃の規模からして大型の機関砲だと思ったのですが、それらしいものはデッキに見当たりません。敵勢力はおそらく、携帯型の短銃をもっている一人だけで、残りは民間人です。その敵も今は物陰に隠れています」


 敵は一人、しかも短銃だと? シュライダはリータの報告に驚いたが、彼を信じることにした。リータの索敵能力はジーク軍の中でも屈指のものだ。


「デッキの上で何か動けばすぐに撃て。民間人だったとしても構わない」

「わかりました」


 シュライダはリータにそう指示すると、靄のかかるデッキに目を光らせた。


(しめたぞ。相手は反撃を恐れて攻撃をしてこない。向こうは撃墜するために引き金を引かなくてはならないが、こちらは逃げ切るまでの時間を稼げばいい)


 そんなシュライダの思惑通り、ラッセルは焦っていた。デッキにある排気口の後ろに隠れながら、次第に遠くなっていく小船の音に耳を澄ます。早く撃たなければジークの奴らに逃げられてしまう。しかし相手は殺しのプロ。こちらが引き金を引く前に、頭を貫かれてしまえばすべてお終いだ。


「ちくしょう……ここまでか」


 諦めるか、それとも戦うか、ラッセルは悩んでいた。戦うにしても、これじゃ赤いライクンを仕留めた時と同じ『賭け』じゃないか。キーオーとバスケスの仇をとるという使命を背負った孤独な戦い。それがこんなにあっけなく終わってしまうとは……。


「どうしたんだ、旦那?」


 悩んでいるラッセルに、隣に隠れていた乗客が心配そうに話しかけた。そうだ。俺は一人じゃない。ゴウロン号の頼もしい仲間たちがいる。一人で出来ないことも、みんながいれば乗り越えられる。


「旦那。俺に考えがあるんだ」


 乗客はラッセルにある作戦を提案した。風が強いデッキの上でなら、それは確実に成功しそうだった。


☆☆☆


『まもなく山の裏側に入るわ。あと30秒ほど持ちこたえて』


 コックピットにいるチェクがそう言うと、小隊のメンバーは少し安堵した。


「さすがチェク。見事なフライトだ」


 バリオはそう冗談を言う余裕もみせる。しかしその瞬間、デッキの排気口の裏から黒い人影が飛び出してきた。すぐさまリータは機関銃を引き、その影を蜂の巣にする。


「仕留めた!」


 リータが喜びの声を上げた刹那、なんとその反対側からラッセルが光線銃を構えて現れた。


「なにっ!」


 リータとバリオが機関砲の照準を合わせる間もなく、ラッセルは銃口から人知を超えた光を放つ。そしてそれは見事に右翼へ命中し、船はコントロールを失って回転をはじめた。


「やった! 当たったぞ!」


 ゴウロン号のデッキではラッセルと乗客たちが歓喜の声をあげた。リータが撃った人影は人間ではなく、発光石を入れていた麻袋だった。それが風に吹かれてまるで人のように見え、おとりとしてリータたちの目を欺いたのだ。乗客の提案した作戦は大成功だった。


「……お前たちの仇はとったぞ」


 ラッセルは二人を弔うように静かに呟いた。

 ジークの小船は力のない蚊のように空中を舞ったあと、煙をあげて山肌へ落ちていった。そこは連邦領、シルーテル高原であった。 


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