結末と決意
ラッセルが目を開けたとき、部屋の景色は何もかも変わっていた。冷たい外気が部屋中に充満し、正面には夜空が見える。蘇った古代の光線が、彼の前にあったものすべてを焼き尽くしたのだ。赤い目のライクンだけでなく、鋼鉄の壁や廊下、さらに向こう側にあった客室まで吹き飛ばしてしまった。ゴウロン号は光線によって真横に貫かれ、側面には大きな穴が開いていた。
ラッセルは状況を理解し安堵の一息をつくと、そのまま力が抜けたように地面に尻をついた。死を免れた安心感と比例して、体中に鳥肌が立っていく。それが外からの寒さのせいだったのか、それとも想像をはるかに上回る力を手にした恐怖と野心から来たものだったかは本人ですら分からない。
「……みんな、無事か?」
千切れてしまったハンモックの上でブレースとミュートが折り重なって倒れている。二人とも気絶しているようだったが、命に別状はなさそうだ。ミュートのガスマスクにはバスケスの返り血が付いていた。
「よかった」
ラッセルは安心したように独り言をつぶやいて振り返った。しかし次の瞬間、彼は言葉を失うことになる。窓の近くにいたキーオーの姿がない。おそらく光線銃の衝撃で、窓から足を滑らせて外に落ちたようだった。
「そんな……」
ラッセルは自分の不甲斐なさを悔やんだ。もっと俺がしっかりしていれば、キーオーだって助かったのに。
「なんだ!? 今の衝撃は?!」
しばらくの沈黙のあと、乗客たちが次々とラッセルのもとに集まってきた。想像もつかない有様となってしまった廊下や客室を見て驚き、慌てふためいている。光線で貫かれた鉄板は、爆薬とは違い綺麗に丸く削り取られたかに見えた。その中心で座り込んでいるラッセルに、乗客の一人が尋ねる。
「あんた、いったい何者なんだ?」
「石工さ……」
ラッセルは放心しながらそう答えると、銃の中にある発光石を覗き込んだ。石は黒く焦げ、かつての澄み切った青からは想像も付かない焦土のような色をしている。発光石1つにつき、1発が限界なのだろう。これを製品化して連邦に売れば、イャスの人々はもっと豊かになれるはずだ。
「石工だって? 嘘だろ」
「噓じゃないさ。それより、ジーク軍の連中がこの船にいる。一人は片付けたが、おそらくコックピットも乗っ取られているだろう」
「なんだって!」
それを聞いた乗客たちは戦々恐々し、パニックになりはじめた。しかしラッセルは自信を取り戻し、鉱山会社の次期社長らしく立ち上がって声をあげた。
「みんな落ち着け! 今こそ、連邦領民の団結の力を見せつけよう。俺だってただの石工だが、ジークの赤い目を倒した。それは俺が最強の武器を持っていたからと、どんな絶望的な状況でも最後まで諦めなかったからだ。もう誰も失うことなく、全員で生きて帰ろう。そのためにはみんなの協力が不可欠だ。まずは船が沈まないように、コックピットを奪還しなくては」
ラッセルは熱い言葉で、怯えていた乗客たちを鼓舞した。すると乗客の中からも彼に賛同し、戦う意思を持つ者たちが現れはじめた。
「僕、操縦免許を持っているから、このタイプの船だったら操縦できます!」
一人の青年が手を挙げてそう言った。続けて隣にいた少女が
「私、看護師だから怪我人は任せてください」
と裾をまくる。
「それならここの二人を頼む」
ラッセルに呼ばれて、少女はブレースとミュートのもとに急いだ。こんなに頼もしい乗客たちに囲まれているなんて、ラッセルは心強かった。これならジークの恐ろしい連中も追い払えるかもしれない。
看護師の少女は傷の手当をしながら、ラッセルに尋ねた。
「3等客室の定員は5人のはずです。あとの2人は?」
「死んだ。一人はまだ子供だった。その女の子のお兄さんだった少年だ」
「嘘、なんてこと……」
少女は言葉を失った。乗客たちも理不尽なキーオーの死に怒りをあらわにする。
「ジークの奴ら、許せない!」
ラッセルは発光石をいくつかポケットに入れ、その一つを銃に装填すると言った。
「みんな。仇をとろう。俺について来てくれ」