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ジークの赤い目

 赤い目の男を先頭に、ジークの兵士たちは真っ暗闇な階段を進んでいた。足音は全くせず、まるで幽霊のようだ。特に赤い目の男はその殺気と相まって、まるで死神のようだった。だが強烈な威圧感とは裏腹に、彼は少年のような背格好をしていた。背中に差した剣の鞘は、彼だけ腰の高さまである。

「赤い目のライクン」。それが彼の通り名だった。生まれつきの赤い目と赤い髪に、獣のように突き出た八重歯。そして感情をほとんど表に出さない冷酷な表情。そのすべてが、他の兵士と同じベスト着ていても、彼に圧倒的な存在感を与えていた。その捕食者たる風格はキーオーですら動けなくしてしまうほどだ。しかし何と彼はキーオーよりも若く、まだ14歳になったばかりであった。

 ライクンは吐息さえも船のエンジン音に織り交ぜ、狩りをする獣のように廊下に降り立った。光が疎らな船内でも、彼には遠くまではっきりと見通すことができる。


「左が一等客室。右が2・3等客室だ」


 ライクンは瞬時に廊下の構造を認識し、他のメンバーに報告した。彼の背後にいる眼鏡をかけた兵士が、


「では、作戦通りに行こう」


と号令をかける。するとライクンが


「待って。兄さんの匂いがする」


と鼻を動かしてから足を止めた。


「本当か?」

「うん、間違いない。向こうにいる」


 眼鏡の兵士は驚いた。自分には鉄と火薬の臭いしか分からない。


「リータ、急ごう。兄さんが危ない」


 ライクンは冷静にそう言った。しかしリータと呼ばれた眼鏡の兵士には、彼が焦っていることが分かった。ライクンとは長い付き合いだが、これまで「危ない」という単語を彼の口から聞いたことがない。リータは人差し指をくるくると回して他の3人を近くに集めると、囁くような声で指示を出した。


「作戦変更、イャスの要人は後回しだ。まずはシュライダ大佐を助けよう。ユーアは俺たちと一緒に来てくれ」


 すると3人のうち、スキンヘッドで大柄な男が静かに答えた。


「わかった」

「チェクとバリオはコックピットを頼む」

「わかったわ」「おまかせあれ」


 紅一点のチェクと鉢巻をまいたバリオも、リータの指示にそう応じる。

 5人は3人と2人に分かれ、それぞれ別々の方向へと急いだ。ライクン、リータ、ユーアの3人は、2等と3等の間にある取調室を探した。そこにシュライダ大佐が捕らえられているはずだ。

 リータはライクンが冷静さを失ってしまわないかと心配していた。いくらジークの英雄とはいえ、彼はまだ14歳だ。連邦軍を殺すことには慣れていたが、仲間の命が危険な状況には慣れていない。しかも今危機に瀕しているのは、ライクンにとってたった一人の兄、シュライダ大佐の命である。

 本人は冷静を装っているが、相当な重圧がこの若者にはかかっているはずだ。リータはあまりにも重すぎる兄弟の運命を恨んだ。戦争さえなければ、ライクンだって別の道を歩んでいたかもしれない。


☆☆☆


 一方、チェクとバリオは豪華な一等客室を素通りし、その先にあるコックピットを目指していた。宮殿のように装飾された扉の向こうから乗客のいびきが聞こえてくる。バリオは


「連邦領民はのんきな奴らだなぁ」


と独り言を言うと、先を急ぐチェクに話しかけた。


「しかしチェク。ゴウロン号はマラーク社製だし、型も古い。本当に操縦できるのかい?」

「バリオ、私をなめてるの? 私は6年間、連邦の特捜部で飛行訓練を受けたのよ。連邦の元軍艦はもちろん、ムバイル族の小船でも問題なく操縦できるわ」

「確かに。チェクがミスったところなんて一度も見たことがないな」


 バリオは笑って、この女パイロットの主張を受け入れた。

 チェク・スーン。腰まで伸びたポニーテールが印象的な彼女は、ジーク軍きっての名パイロットである。バリオも何度か任務を共にしたが、その操縦技術は一流だ。

 チェクは連邦を裏切り、二年ほど前にジークへ亡命してきた。だから彼女は他の4人とは違い、浅黒い肌に綺麗な黒髪をしている。しかし亡命以前の経歴については、ほとんどが謎のままだった。連邦の特捜部にいたことは話してくれたが、なぜ連邦を恨み、ジークへの忠誠を誓ったのか。親しくなった今でもバリオはよく知らなかった。おそらく、仲間の中でもシュライダ大佐しかチェクの真実を知らないはずだ。

 やがて二人はコックピットの扉の前にたどり着いた。錆びた鉄の扉はかたく閉じられており、その奥からまたも寝息が聞こえてくる。

 チェクとバリオは顔を見合わせると、静かにベストのポケットからガス弾を取り出した。そして音もなくゆっくりと、扉の隙間からガス弾をコックピットの中へと転がす。


「かわいそうだが、いい夢を見てもらおう」


 バリオがそう言うと、チェクは腕時計で時間を計りはじめた。


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