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発光石と結晶

 ハンモックで眠るミュートの寝息がガスマスク越しでもよく聞こえた。ラッセルは石を麻袋にしまうと、話を続けた。


「しかし発光石は使い捨てだった。20発ほど撃てば『弾切れ』。石は黒く焦げ、光線は撃てなくなってしまう。だから御神陵に大量に廃棄されていたのさ。これが分かったとき、俺たちはラザール帝国に勝った、と思ったんだ」


 ラッセルはまるでそう思ったときに戻ったかのように笑みを浮かべた。しかしすぐに悔しい表情に戻った。


「どうしてですか?」

「発光石はイャスでしか採れない。つまりこれは世界中でイャスだけが手に入れられた力さ。俺たちはこの力を売り、巨額のお金を手に入れて連邦の不平等な力関係を変える。そう考えていた。しかし予想しなかったことが起こった。御神陵の中で装飾だと思われていた宝石が、実は人工的に作られた発光石の結晶だと分かったんだ」


 キーオーはハッとした。それはもしかして今、自分のザックの中にあるものではないだろうか。


「それは《神々の心臓》と呼ばれていた。この発光石の結晶は普通のものと違い、光線を永遠に放ち続けることができるらしい。ラザール帝国の軍務学者がそのメカニズムを解明すれば、簡単に複製が作られてしまうと思った。そうなればイャスで採れる発光石はその価値を大幅に下げることになる。正直、俺は神様を恨んだ。どうしてどこまでも力のある者たちの味方をするのだろうかと。だが俺の願いが通じたのか分からないが、《神々の心臓》はジャーナリストのオードラス・ジグスによって盗まれてしまった。しかもジグスは捕まったが、結晶はまだ見つかっていない」


 やはりそうだったのか。キーオーはラッセルの話を複雑な気持ちで聞いていた。あの宝石はとんでもない力をもつ殺戮兵器の一部だ。しかし叔父さんが盗み出し、キーオーに託したことによってラッセルたちイャス共和国の人たちは救われた。罪人と言われている叔父さんに協力することになんとなく後ろめたさがあったが、キーオーはラッセルの話を聞いて思いを改めることができた。自分のしていたことはやっぱり正しかったんだ。


「結晶が見つからなければ、ラザール帝国はじめ連邦の首脳陣は俺たちを頼るしかない。それで一度白紙になった発光石の取引を再び持ち掛けられた。その商談のために俺たちは王都へ行くのさ。必ず契約を掴みとってみせる」


☆☆☆


 その夜、キーオーは眠れなかった。宝石の正体、叔父さんの動向、アバンチュール弁護士との面接。あらゆる不安が同時にきて、彼の心を溢れさせてしまったのだ。ハンモックから降りて床で座り込んでしまったキーオーに、トイレにおきたラッセルが言った。


「眠れないならデッキに出てみるといい。今は雲がかかっていないから月が綺麗にみえるはずだ」


 月という言葉を聞いて、キーオーはリスルを思い出した。彼は寒さをしのぐためのマントを羽織ると、音を立てないようにゆっくりと廊下に出た。

 ゴウロン号の中は広い。3等客室の廊下はガス灯のみで薄暗く、キーオーはデッキに上がる階段を見失ってしまった。仕方なくそのまま船の先頭方向へ進むと、次第に廊下が明るくなってきた。後ろから3等客室、2等客室、一等客室と先頭に近ければ近いほど等級が上がっていくのだ。

 先頭まで貫くような大きな廊下に出ると、遠くに一等客室の廊下が見えた。さすが一等だ、昼夜明かりが灯っている。床には赤いじゅうたんが敷き詰められ、客室の扉には高級な装飾が施されていた。

 すぐ先には2等客室があった。廊下の作りは3等と変わらない錆びた鉄だったが、ラッセル曰く2等にはベッドがあるらしい。キーオーはすり足で2等客室の廊下まで歩いた。すると2等と3等の間に、不思議な空間が広がっていることに気づいた。


(ここはなんだろう……?)


 廊下の幅が少し広くなり、ここの部屋の扉だけ鉄格子がついている。その扉の前には椅子があり、そこには軍服を着た男が一人腰掛けて眠っていた。少し年配の連邦軍人のようにみえる。男は腕組みをし、耳を澄ますと聞こえる程度の微かな寝息を立てていた。

 ここだけなんとなく不穏な雰囲気なのは、ここが軍艦時代の取調室だったからだろうか。軍人を起こさないようにこっそりと近づくと、鉄格子の付いた扉に小さな覗き穴が開いているのをみつけた。キーオーは好奇心から息を殺し、中を覗き込む。

 しかし中の様子は暗くてよく見えなかった。どうやらこの扉の向こうにももう一枚扉があるようで、さらに同じように鉄格子がかかっている。

 その二枚目の扉の穴に薄らながら何かが見える。キーオーは目を凝らしてそれを覗いてみようと試みた。やがてゆっくりと暗闇に目が慣れると、キーオーはその「何か」を見ることが出来た。しかしすぐに、見なければよかったと強く後悔した。

 そこには何者かの目があった。それも赤い目だ。人間なのか獣なのかもわからない。ただじっとこちらを見つめ動かなかった。まるで獲物を待つ肉食獣の如く、キーオーを睨んでいる。


(やばい、なにかいる!!)


 キーオーはすぐさまその場から立ち去ると、2等客室の階段からデッキに登った。一瞬のうちに恐怖が心を支配する。この船には発光石よりも重大な積み荷が載せられているに違いない。


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