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イャスから来た石工

 ゴウロン号での空旅はとても快適なものだった。離陸の際に一瞬だけ揺れはしたが、安定飛行に入るとその揺れもほとんどなくなった。それは地上で暮らしているのと何ら変わらないレベルである。しかしスピードはゆっくりで、王都まで二日かかると言われても納得のいく遅さだった。

 やがて日が落ちて夕食の時間になる。食事が出るのは一等客室だけなので、3等のキーオーたちは食料を持参しなくてはならなかった。キーオーはザックの中から小さなクッキーをとりだしてミュートに食べさせた。

 孤児院を出る時、急いでいたので弁当を持ってこられなかった。それにお金もない。キーオーは空腹でお腹が鳴り始める。


「おい、お前らの飯はそれだけか?」


 ラッセルは心配そうにキーオーたちに言った。彼らは大きな鍋に火をつけようとしている。


「はい。ゼ・ロマロ産の生姜クッキーです。滋養強壮にはこれが一番なんです」

「なに強がっているんだ。ほら、お前らの分もある」


 ラッセルたちは鍋を囲むとキーオーとミュートを呼んだ。


「えっ、いいんですか?」

「当たり前だろ。俺たちは稼いでるんだ。これくらい奢ることくらいどうってことないさ」

「あ、ありがとうございます」


 ラッセルの優しい言葉にキーオーは胸が熱くなった。憎かった国だが、連邦には親切な人が多い。バスケスたちが野菜を切り、ラッセルが鍋に味をつけた。香辛料や塩をあまり使わない、山の味付けだ。最後に砂糖を加えて甘みを出す調理法は、キーオーに故郷であるアムチャット味を思い起こさせた。鍋はイャスの郷土料理である「スーパ・シーバ」というらしい。ミュートも故郷の味に似ていたらしく、今日は嬉しそうによく食べた。キーオーもラッセルたちもその様子を微笑ましそうに見守った。


☆☆☆


 ハンモックにミュートを寝かしつけると、ラッセルはキーオーを近くに呼んだ。彼は噛み煙草を嗜みながら、食後のひと時を過ごしていた。


「ごちそうさまでした。本当にありがとうございます」

「気にするな。明日の朝飯と昼飯もごちそうしてやる。それより、妹さんはどうしてガスマスクが外せないんだ?」

「国境付近でジークから催涙ガス攻撃を受けたみたいで。それがトラウマになってしまっているんです」

「かわいそうに……。王都には出稼ぎに行くのか?」

「はい、そんなところです」

「俺も娘も妹さんと同じくらいの歳だが、今はありがたいことに学校に行けている。だがラザール帝国ではお前たちのような子供が、安い給料で働かされている。イャス共和国ではありえないことだ」

「そうなんですか。同じ連邦でも随分と違うんですね」

「その通り。同じ連邦でも国が違えば文化も違う。法律も歴史も違う。イャス共和国では犯罪でもラザール帝国では許されることなんか沢山ある。

 50年前に連邦が生まれた時、そんな異なる国々が集まりながら、平等で戦争のない新たな共同体世界を作る。そう宣言されたんだ。ラザール・フラシリス・デラルの3大国が出した連邦設立宣言に、俺たちの国を含む小国たちは夢を抱き、次々に連邦に併合していった。本来、連邦というものは大きな国も小さな国も同じ権限を持ち、そこに上下関係は生まれない。しかし今の連邦は事実上3か国の独裁だ」


 ラッセルはあたりを見回して、少し声のトーンを下げた。


「連邦の政治は王都にある連邦議会で行われる。議会のメンバーは各国代表7人と、選挙で当選した連邦議員たちだ。7人の代表はそれぞれが平等な権限を持ち、当たり前だが議員たちより偉い。大国3か国の代表は3人で、それ以外が4人。一見するとこれならバランスがとれているように思えるが、実際は違う。もう何年も前から、大国3か国は俺たちイャス以外の小国の王族に自分の国の皇族を嫁がせて、操り人形に変えている。俺たちが知らない間に、大国3か国に連邦議会は乗っ取られてしまっていたのだ。

 しかも議員たちは決まって人口の多いラザール帝国の出身者ばかり。だから俺たちが何を言っても、議会は話を聞こうともしない。いつまでもジークとの戦争は終わらないし、格差や貧困もなくならない。3か国は連邦を『戦争をなくすために作った』と言っているがそれは嘘だ。連邦という国家制度そのものが、3か国が小国を支配するための言い訳だったのさ」


 理想的のようにみえた連邦の制度が、権力者たちのまやかしによるものだと知って、キーオーは悔しさをにじませた。やはりこの国はどこかおかしい。理不尽な制度のせいでリスルをはじめとした子どもたちが傷つけられている。ラッセルは続けた。


「俺は連邦を変えたい。そのカギがこの鉱石なんだ」


 ラッセルは大きな袋から石を出して手に掴んだ。少し青く霞んでいるが、何の変哲もないただの石だ。キーオーは不思議そうにその姿をみつめた。


「この石は何なんですか?」

「こいつをイャスでは古い言葉で『トンラィデ』と呼んでいる。今の言葉に直すと、そう……『発光石』ってとこだな。こいつは光に当たると僅かな熱を帯びる。不思議な鉱物さ。一年前、ラザール皇族の御神陵からこの石が大量に見つかるまで、俺たちもヘンな石だなとしか思っていなかった。しかしこいつは世界を揺るがすとんでもない大発見だったんだ」

「いったい、なんだったんですか?」

「そこにあった発光石たちは黒く焦げていたのだが、調査で俺たちの国で大量に採れるものと同じであることが分かった。この石は磨いて強い光を当てると、まっすぐな光を放つ。しかしただの光ではない。その威力は連邦軍の使う小銃よりはるかに強力なものだ。これこそが古代文明の壁画に登場する謎の光線。すなわち古代のレーザー銃のメカニズムだったんだ」

「光の銃……?」

「そうだ。これはまだ試作品だが……」


 ラッセルはそう言うと鞄から金属で出来た銃のようなものをとり出した。銃口のあたりが大きく開き、

まるで何かを入れるかの様にすっぽり空いている。


「この銃には電球がついていて、引き金を引いても光が出るだけだ。だが発光石を通すと、この弱い光がすべてを焼き払う光線に変わる。しかも光線だから通常の銃よりも射程が長い」


 バーンと、ラッセルは銃を撃つまねをした。


「発光石は光エネルギーを拡張させ、強大な別のエネルギーに変えることが出来る代物だったのさ」


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