真実の告白
孤児院に帰ったキーオーはすべてをバンクスに打ち明けた。自分がアムチャットの出身であること。オードラス・ジグスは叔父で、彼が盗んだ宝石を今も持っていること。そして家族や村の仲間たちを連邦軍に殺されてしまったことまで、包み隠さずに語った。
バンクスはキーオーの話を聞き終えると、慈しみに満ちた眼差しで言った。
「キーオー、よく話してくれたね。あなたが真実を打ち明けるのに、どれほど辛くて怖い思いをしたのか、私にはよく分かるわ。ありがとう」
「もちろん、連邦軍のしたことは今でも許せません。でもこの街にきて、バンクスのおばさんやみんなに助けてもらって気づいたんです。国境が善悪を決める物差しじゃないって」
「まったくその通りね。でも、連邦領民として軍のしたことについては謝るわ。本当にごめんなさい」
バンクスは少しの間、深く頭をさげた。キーオーはバンクスの優しさと贖罪の心に胸をうたれた。悲しみや痛みが少し和らいだ気がする。
「おばさんが謝ることではないんです。それにジークだって、アムチャットだって連邦に対して酷い事をしています。ミュートをあんな目に遭わせたのはジークですし、ジークの兵士をかくまっていたのはアムチャットです。どちらの国が悪いとかではなく、相手のことを考えずに一方的に敵だと決めつけることがいけないんです。みんながそれに気づけば、戦争なんてなくなるのに……」
キーオーは悔しい顔をして言った。アムチャットやゼ・ロマロで残酷な現実を何度も見てきた彼は、この考えが理想論であることくらい痛いほど分かっている。だが同時に、戦争や貧困によって悲しみがはびこる今の世界をキーオーは絶対に許せずにいた。自分はやはり、露命の命をみんなのために使いたい。その思いはアムチャットにいた頃より強くなっていた。
「この宝石は連邦にとってもジークにとっても、きっと重要なものだと思います。アムチャットで叔父から石を渡された時、ジークのフクロー女王に届けてくれと頼まれました。でもこの石がジークへ行くことによって戦争がさらに激しくなるとしたら、その頼みは聞かない方がいいのかもしれません。あの時は叔父さんやアムチャットが俺のすべてだったけど、今は違います。できれば叔父さんに会って、石を盗んだ理由を聞きたいです。すべて理解したうえで、この石をどうすればいいのか、国や家族の意志ではなく自分の意志で決めたいんです」
キーオーの強い志に今度はバンクスが胸をうたれた。彼女は事務室に顧客名簿をとりに行くと、その中から一枚の名刺をとりだした。
「あなたによく似ている子を私は知っているわ。アバンチュールというここの卒業生で、今は王都で弁護士として働いている。叔父さんはスライノア監獄に投獄されるのよね?」
「はい。来週には王都から移されると新聞に書いてありました」
「だったら急いだほうがいいわ。スライノア監獄は終身労働刑の罪人が入る刑務所で、連邦では死刑よりも重い刑なの。一度スライノア監獄に入ったら出てくることはおろか、面会すら二度とさせてもらえない。あなたの叔父さんが去年スクープしたことが事実なら、特別な方法で囚人たちを改造しているって話だしね」
キーオーはスライノア監獄の話を思い出して怖くなった。早くしないと叔父さんも廃人に変えられてしまうかもしれない。
「でも拘留中なら別よ。たとえスライノア監獄へ行く罪人だとしても、拘留中なら弁護士さえ手配すればどんな人間だって面会はできる」
「本当ですか?!」
「ええ。私も昔、罪を犯してしまった卒業生に会うことができたから間違いないわ。それにアバンチュールは凄腕の弁護士だから心配しないで。彼女ならきっと、あなたの力になってくれると思うわ」
「でも弁護士さんを雇うお金も、王都へ行くお金も俺にはありません……」
「それなら心配いらないわ。ちょうど昨日アバンチュールからアシスタントを採用したいって手紙が届いたの。一緒に王都までの往復航空券も入っていた。キーオーを推薦する旨を伝えておくから、王都に着いたらその名刺に書かれている事務所に行きなさい。大丈夫、あの子はあなたのことを気に入ると思うわ。とてもそっくりだもの」
バンクスにそこまで言われて、キーオーはアバンチュールという女性弁護士に会ってみたくなった。バンクスから渡された『アバンチュール法律司法事務所』と書かれた名刺をひっくり返すと、王都の港から事務所までの道筋が記されていた。
「何から何まで、本当にありがとうございます。この恩は一生、忘れません。必ずチャンスをつかんできます」
キーオーは喜びで震えながらバンクスに頭を下げた。本当にこの人には感謝してもしきれない。
「うん。健闘を祈っているわ。頑張って」
バンクスは満足げにほほ笑むと、キーオーに往復分の航空券2枚を手渡した。すると突然、ジャックが興奮気味に部屋に入ってきた。
「キーオー、おばさん! 大ニュースだ! 特捜戦艦が市場の上に停泊している。特捜部が、ルーク様がこの街に来られているんだ!」
何も知らないジャックの言葉にキーオーとバンクスはドキッとした。普段、国境付近で活動している特捜部がこんな内部のゼ・ロマロにまでやってくるなんて珍しい。もしかしたら石の持ち主がキーオーだと知られたのかもしれない。ドーソンが鑑定のために石の写真を王都に送っている。
ジャックに連れられてキーオーが孤児院の外に出ると、ゼ・ロマロの港町を覆うように、かつて見た特捜部の戦艦が空に浮かんでいた。どの船よりも巨大で禍々しく紅白に塗られたその姿は、キーオーにアムチャットでの惨劇を思い起こさせた。




