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玻璃色の世界のアリスベル  作者: 作務衣大虎
第二章  パッショナートな少女と歩く清夏の祭り
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第38話 パッショナートな少女の刻むのは熱き血潮の滾り

 音の確認が終わって、ボーカル兼ギターの南美さんのアイコンタクトを合図にして、リシェーラさんがシンバルを打ち鳴らし、力強いビートが会場に響き渡った。


 女の子の切ない恋心を描いた唄を乗せて、活力に満ち溢れた旋律が大気を震わせて、僕の全身を叩きつけてくる。


 アリスのベースが鳴らす響きとリズムに、血液が音を立てて駆け巡り――。


 リシェーラさんがドラムを激しくビートを刻む度に、鼓動が激しく全身へと響いていく。


 静かに聞き入っていた会場の人達は、いつしか彼女たちの奏でる旋律に引き込まれ、歓喜の声が上がり、次第に熱気が包み込んでいく。


 ずっと彼女達の音楽に聞き入っていたかったのだけど、省吾と愛花もジャンプしているのにつられて僕も歓声を上げながらジャンプし始める。


 そしたらもう僕は一気に興奮を抑えきれなくなった。


 滾る血液の脈動、はち切れんばかりの心臓の鼓動、心の奥底から溢れ出てくる情熱の赴くままに歓声を上げる。


 曲も終盤に近付くに連れ、会場の熱気も最高潮に達して、観客のジャンプで地響きさえ起きたほどだ。



 一曲目が終わるも、会場の興奮は冷めやらない。

 舞台に立つアリスさん達からは、驚きを隠せないながらも、あまりの会場の歓喜の声に笑みが零れるのが見える。


 熱気と興奮に包まれ、ボーカル兼ギターの南美さんが徐に口を開いた。


「えっと、皆さん。種子島軽音楽部です。残念ながら事情があって今日このステージには、ベースの美優とドラムの紗香はいません。今日いる正式なメンバーはボーカル兼ギターの私、南美と、キーボードの遥香で、ベースとドラムは臨時でこの二人にお願いしました」


 汗びっしょりでまだ息を切らせながらも、南美さんは言い切って晴れやかな笑顔を見せた。

 南美さんからマイクを手渡されたアリスは、いつになく緊張した面持ちのまま、ゆっくりと口を開いた。


「ベ、ベースのアリスですっ! 始めまして、本番まで殆ど時間が無かったから、ちゃんと弾けているか、代役が務まっているかどうか不安だけど、瀬一杯頑張るので、みんな思いっ切り演奏するので聞いてくださいっ‼ そして続いては――」


 今度はリシェーラさんへとマイクが回る。


「ドラムのリシェーラよ。本当はあまり乗り気じゃなかったの。実は私、音楽を幼い時からやっていたけど、その時から奏でるのは上手いけど、表現力が足りないってずっと言われていて、だからいい思い出が無くて、だけどそんな私に、もう一度音楽への情熱を取り戻させてくれた男の子と、皆がいて………」


 興奮のあまり、リシェーラさんは息を詰まらせた。

 深呼吸して落ち着かせるリシェーラさんの様子を心配しつつ見守っていると、不意に愛花が肘で小突いてきた。


「情熱を取り戻させてくれた男の子って、宙人の事じゃない?」

「まさか? そんな場面なんて一度も無かったよ?」


 本当に身に覚えがない。リシェーラさんに言った言葉だって、『自分も心の赴くまま』だとか本当に当たり前のことしか言ってないように思える。


「多分、それは愛花の勘違いだよ」

「……朴念仁」


 何でため息交じりに罵られなければならないんだろう。まるで訳が分からない。

 愛花から謂われない罵倒を受けるも束の間、呼吸を整えたリシェーラさんが沈黙を破る。


「その人達のお陰で私は今ここにいる。だからみんなの想いと私の想いを乗せて精一杯演奏させてもらうわ。だからみんな聞いてください」


 偶然、舞台に立つリシェーラさんと目が合った。

 零れるような笑顔を向けるリシェーラさん。


 まさか……流石にそんな筈、ないない。自意識過剰にもほどがある。第一僕が好意を抱かれる理由が分からない。


 続いてキーボードの遥香さんはリシェーラさんから帰ってきたマイクを手に語りだす。


「残念だけど曲は二曲までしか用意できませんでした。ごめんなさい。そしてこの場をお借りして伝えたい事があります。実はボーカル南美が今度転校することに――」


 瞳を涙で滲ませながら、最後に手渡されたマイクを胸に南美さんは大きく息を吸って叫んだ。


「これで最後の曲になりますっ! みなさん聞いてください――」


 南美さんの言葉を合図に始まる最後の演奏。


 ポップで明るい調しらべに乗って、甘酸っぱい女の子の恋心を唄った詩がハートに響いていく。


 再燃する会場の興奮は、再び大地の胎動を呼び起こし、歓喜の声に大気が打ち震える。


 次第に夜の帳が下りていく、けど会場はまるで昼のような活気に満ち溢れ、思わず勘違いしてしまいそうだった。


 舞台の上で音楽に熱中する二人、とても晴れ晴れと熱い笑顔をして、そんな二人の姿が僕には会場のみんなの心を照らす真夜中の太陽に見えた。


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