幼馴染と、ただ冒険がしたかった聖騎士の話。
「───遅い」
僕の頭上から放たれる、冷たい言葉。僕の振るう剣を見ての、冷静な批評。今日もやたらと眩しい太陽が、僕と彼女を、じりじりと照らし続けていた。
頭を上げると、そこには無表情に見える目で、僕をじいっと見つめている幼馴染レーナの姿がある。
レーナ。僕の幼馴染で、《聖騎士》。初恋の人。
……仕方ないと、僕は思うのだ。最初こそ、僕は燃えに燃えていた。滾っていた。彼女に少しでも近づけるように。
だけれど、無理なのだ。彼女は固有スキル【聖騎士】を持っている。けれど、僕には一介の剣士として役立つスキルを持っていない。
「……もう、無理なんだ」
ふと。口から零れ出た僕の弱音。それは、間違いなく、僕の心の底からの本音だった。すると──。
パシッ。僕の頬を、彼女の手が叩いた。
「そんな弱音は、聞いていない」
彼女は無表情で、ただただ、僕の目を見つめていた。まだ挫けるなと。諦めるなと。
いつの日か、僕は言った。「君に並びたてるように、努力する」と。けれど、それは夢物語だった。
「───諦めないで。ほら、エントなら、まだ、やれる」
そうして彼女は、僕の剣を拾うと、僕の手をぎゅっと握り、剣を握らせてくるのだ。
彼女の瞳は、とても冷たい印象を抱いてしまうけれど、その手は、温かかった。あの頃と変わらない温もりを放っていた。
彼女の根本は、なにも変わっていない。あの頃と変わらず、僕を信じている。
ただ、中身は変わっていなくとも、外側が変わってしまった。彼女は《聖騎士》で、僕はただの《冒険者》。
彼女にとって僕は、幼馴染に付随している冒険者であるのだ。彼女にとって、外側は重要ではなかった。
「さあ、手に取って。そうして、私と一緒に、冒険を───」
彼女は、ずっと信じている。いつの日か、僕と一緒に冒険をするのだと。
『大きくなったら、一緒に冒険、したいね』『……うん』
ふと、脳裏に過ぎる情景があった。それは、いつの日か、交わされた言葉だっただろうか。
「……もう、やめよう」
「え?」
「レーナと僕とじゃ、立っている位置が違う。……もう、分かっているんだろう」
「……」
「約束、守れなくて、ごめん。だけれど、僕は……」
僕は、彼女の顔を見ることができなかった。見上げると、あの頃を思い出して、もう、決して戻ることのできない日々が、眩しくて。
「……僕は、一緒に行けないけれど、応援してる。聖騎士として、頑張って」
そうして、僕はその場を逃げ出し、彼女からも、逃げ出した。
……僕に、なにかスキルがあれば、彼女の隣に、立てたんだろうか。
───
カランカラン、と。私の手から彼の剣が滑り落ちる。拾うことは、もうしない。
彼が、居なくなってしまったから。
「……」
私は、空を見上げた。じりじりと、眩しい太陽が、私を照らしている。
《聖騎士》なんて、いらなかった。スキルなんて、凡庸で良かった。
私はただ、彼と冒険がしたかった。共に夢を誓い合った幼馴染として。
けれど。
この世界は認めない。私が《聖騎士》を得てしまったから。
この世界は認めない。彼が《固有スキル》を得ていないから。
ゆっくりと、目を閉じる。こうして目を閉じていると、共に夢を語りあった、あの日々を思い出す。
この胸で木霊し続けている、輝かしい思い出。
『……エ、エント君、危ないよ、枝を振り回しちゃ』
『レーナちゃんは、姫様だ、僕が守ってあげる』
私がお姫様で、彼は騎士だった。何度思い返しても色褪せることのない、ごっこ遊び。いつの日か、それが本当になればいいなと思っていた。
私を照らしていた、太陽が雲に覆われていく。私には、暗闇だけが残された。




