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日ノ御子戦記〜うさうた〜  作者: おはよう太郎
PR22 エピローグ
46/47

PR22 the ending


 たった一夜で日本の全域を襲ったこれほどまでに大きな規模の災害は、過去人々の記憶にはなかっただろう。ーーその異質さも含めて。


 あの光の柱がゲートから溢れ日本各地で夜空に立ち昇った後、鬼魔ノ衆(キマノス)の出現が予知されたポイントではもう何も起こらなかった。


 人々が恐怖に怯えた長い長い夜が明けた。



 日本列島鬼災(きさい)と呼ばれ。日が昇りきった頃にその脅威は終息したと政府から宣言された。


 その発表を受け、被災各地での消化活動や被害に合った人々の救出作業が本格化した。鬼魔ノ衆によって倒壊した建物や家屋を背景に、鎮痛な表情のTV局のレポーターたちが現場の状況を視聴者に伝え始めていた。

 事前に避難できていたことが大きく影響して、驚くほどに人的被害が少なかった。ここまでの発表で、非戦闘員、つまり民間人の死亡者数はなんと(ゼロ)。重軽傷者は全国規模でそれなりの数になりそうだが、破壊が及んだ市街地の悲惨な映像から見ても信じがたい数字である。


 そうして、人々はそれぞれの(ホーム)へ帰れることとなった。


 だが各地は水や電気のライフラインは分断され、いまだ混乱の渦中にあったし、不確定情報も交錯していた。

 人々は心の隅に不安を残したままだった。

 未経験で未曾有の大災害である。

 これで本当に終わったのか?…と安堵できずにいる人々も多かった。

 それでも、手を取り合い、励まし合い、そして助け合うことができた。

 それは、あんなに怖ろしい鬼魔ノ衆(バケモノ)にボロボロになりながらも果敢に立ち向かう御子たちの姿に勇気づけられたからなのだろう。


 ーーそれと、あの光。


 突然、地表から天に向って噴き出し、最後には光の雪華を降らせたあの神々しい光の柱。


 人々は思った。

 あれは一体何だったのだろう?…と。


 これに関して今のところ政府からの発表は何もなかった。

 あれは御子たちの奥義だ、とか、政府が隠し持っていた秘密兵器だ、などなど。

 そんな噂や憶測が絶えなかった。


 ただ、人々がパニックを起こさずに未知なる怖れを振り払えているのは、御子とその光のおかげだった。

 もしもまた鬼魔ノ衆が現れたとしても、御子とあの光の柱が救ってくれるだろうと思えた。

 あれは…

 そんな希望を持たせてくれる光の柱だった。


 救助復興と治安維持は自衛隊や警察消防が担い。

 特務0課は事後警戒と情報収集に務め、稼働できるSMT914はゲートの痕跡がないかを探した。


 特0隊員と御子たちは長時間の戦いで負傷し疲弊していたが、それでもゲートの手掛かりを必死に探し回った。

 あってはならないが、また鬼魔ノ衆がどこかに(ゲート)を開けて現れてくれないかとすら願うほどに。


 半壊した特0中央司令本部で指揮を執る副司令官の二條いちみに通信が入る。


東雲(しののめ)だ」

「東雲さん!司令は?!」

「まだ手術中だ…」

「…そう」


 東雲の、はぁ…と深く重い嘆息が予断を許さない状態だと伝えてくる。


「…ゲートは?」


「…だめ…一つ残らず消えてしまったわ」

 いちみも深く重い嘆息を吐かずにはいられない。


 あの光の柱を放出した直後、ゲートはその役目を終えたかのように全て閉じてしまっていた。


「そうか…」

 東雲は、またひとつ重い嘆息とともに肩を落とした。


 結局、何も発見できず。

 ゲート探索は、政府の収束宣言から6時間後にいったん打ち切りとなった。


 誰も紫兎を迎えに行くことができなかった…



 そうして日本列島鬼災から一ヶ月が過ぎた。


 秋も深まり、銀杏(いちょう)の街路樹は黄色に染まり始めていた。


 とある大きな総合病院のロビーを抜けて、花束を抱えた神薙(かむなぎ)舞子と水天宮(すいてんぐう)レイア、そして神津珊瑚(かみつ さんご)は、消毒液の匂いが微かに漂うエレベーターに乗り込む。


「……それでね、そこの餡蜜パフェが絶品って噂なの」

「えっ、そうなの?、お見舞い終わったら、行こ、行こ。ねっ、レイアちゃんも」

「まあ、付き合ってあげてもいいわ」

「ふふっ、じゃ決まりね」


 特別病棟とエリア分けされたその最上階でエレベーターを降り、ナースステーションで面会受付を済ませ。3人は、訪ねる病室の扉の前で二條いちみと鉢合わせた。


「あら、あなたたち…」


「いちみさんも五郎さんのお見舞いですか?」

 舞子たちはぺこりと。


「うん、ちょっと様子を見にきたのだけど…」


「どうでした?」


「特に変わらずね」


「そうですか…」


 舞子がひょいと病室の中を覗き込む。


 引波五郎は意識不明のまま病室のベッドに横たわっていた。点滴を受け、体のあちこちを最新医療機器のモニターでつながれている。


 頭蓋骨を含めた全身に及ぶ骨折、加えて内臓の損傷も酷かった。

 手術は7時間にも及んだ。

「一命をとりとめたのは奇跡だ」と術後のドクターは疲れ切った顔で言った。

 そして「意識が戻るかどうかは、もう一つの奇跡を待つしかない」とも。


 そんな状態だったが、体の傷だけは驚くほど順調に回復してきていた。

 だが、ひと月経った今でも意識だけが戻らない。


 東京を護る3人の御子たちも同じ病院に運ばれたが、あの奇跡の光の柱の治癒力のおかげか、並みの人間ならとっくに死んでいてもおかしくない重症だったにも関わらず、なんと5日で退院できた。


 それ以来毎日、舞子は五郎のお見舞いに足を運んでいた。

 もちろんこっそりと治癒の魔光を当てに。


 こうして舞子が五郎に治癒魔光を当てるのは、実は二度目になる。

 舞子が初めて御子になった時に、あの牛頭怪物(ミノタウルス)のような鬼魔ノ衆の足元で血を流していたスーツ男が引波五郎だった。

 MFCが結成された後、そのスーツ男が特0の司令長官と知って驚いた。

 それが紫兎の養父だと知ってさらに驚いた。

 五郎が舞子のことを覚えているはずもないと思い、特に誰にも話すことはなかったが…


 舞子が足繁く病室に通う理由それだけじゃなかった。


 あの時……

 舞子はほとんど意識のない状態だったのだが。パープルラビットの機体から身を外に乗り出しながら五郎が叫んだ言葉は覚えていたし、瀕死だった自分を守るために重症を負ったのだと知っていた。

 もしあの時、五郎が手を伸ばしてくれてなければ、舞子はこうして生きてはいなかっただろう。

 救ってくれた。

 五郎さんと…そして紫兎ちゃんが…


「…ゲート…あれから開きませんね…」

 新しい花を花瓶に移し替えながら舞子の肩が嘆息に沈む。


「そうね…」

 いちみも力無く同意するしかなかった。


 ゲート(あれ)がまた開く可能性は限りなく低いといちみは考えていた。

 なぜなら…

 ここにいるレイアと珊瑚は御子の力を失っていた。

 それは彼女たちだけではなく。

 全国で御子の力を持つ少女の数は、この時点で、たったの12だった。


 50もいた御子の数は激減していた。

 つまり、あれほどの規模の鬼魔ノ衆の危機はもう去った、と解釈すべきだろう。

 大空洞の鬼魔ノ衆は全て殲滅されてしまったのだ。

 あの日、あの光の柱によって。

 それはこの国にとって大いに喜ばしいことなのだが…


 逆に、いちみが問う。

「舞子ちゃんは?…あれから何か感じたりしない?」


 関東一円を護る現役の御子として、という意味で。


「…特に何も」と舞子は申し訳なさそうに首を横に振る。

 ゲートに飛び込む紫兎を見送った光景は、今でも舞子の瞼の裏に焼き付いている。

 だから…


「…でも、わたしたちは諦めません」


 それは現役御子12人の総意でもあったし、今でも日々ゲートの痕跡を探し続けている。




 その頃、鴨宮あずきは京都の嵐山にいた。


 あれから毎日学校から帰ると、まるで日々の犬の散歩にでも出掛けるようにゲートの探索をするのが日課となっていた。


 秋の香りを乗せた冷涼な風が、色付いた紅葉(こうよう)の木樹をどこか寂しげに揺らしていた。


 西の山裾に沈む夕陽が燃えるような赤き山樹を更に深く茜色に彩るのをボーッ…と眺め。

 できることなら、この季節のこの美しい山々を、あの時のように背負った紫兎と一緒に見たかった…見せてあげたかった…と。


 しばらくして、東の山際の上にポッカリと丸い月が浮かんできた。

 その銀輪が昇ってくるのを眺めながら、あずきは深い嘆息を落とす。


 あの月のどこかで、今でも、紫兎がひとり寂しく誰かの迎えを待っているのかもしれないーー

 そう思うと、()(たま)れない気持ちになる。そして、手の打つ(すべ)を持たない(おのれ)の無力さに腹立たしくも悲しくなる。


「今宵のお月さんは、まん丸さんの美人やな…」


 あずきは、前に紫兎が時折口ずさんでいた唄を思い出し、唄ってみた。


「♬〜うさぎは何見るどこ跳ねる〜まん丸月見て鳴き跳〜ね〜る〜……か……」


 (いにしえ)の人々は、月には(うさぎ)が住んでいると想いを馳せた。

 兎は古来、神獣として扱われていたからだ。

 慈愛、そして自己犠牲の象徴として。


 こんな逸話がある。

 飢えた旅人が神に祈った。どうか食べ物を…と。

 気まぐれな神はその旅人の空腹を癒すため3匹の動物を遣わせた。猿は木の実を、狐は鼠の肉を。だが兎は何もできない。

 木に登れる猿や獲物を狩れる狐と違って、飢えた旅人に何も与えることができなかった兎は、その身を捧げるために自ら火に飛び込んだという。

 そんな兎を憐れんだ神々は、兎が人々の記憶に永遠に刻まれるように月に昇華させた…とも。


 あずきは思った。

 それはまるで紫兎そのものだ…と。

 その身を捧げて、御子たちを、そしてこの国の人々を救ってくれた。


 そして、あずきは知っていた。

 あの日から、そして死ぬまで毎日。

 御子は…あの時御子だった者も含めて、月を見上げるたびに紫兎を想うのだと。


 己の未熟さとその後悔とともに…


「38万キロ…か…」


 いたって真面目に、御子なら月まで飛べるのでは?と考えて、鴨宮はしらに月までの距離を訊いたが「アホか」と一蹴された。


「こうして見てるとそないに遠くには見えへんのやけどなぁ…」

 あずきは独り言ちる


 茜に染まる山裾を桃色がかった薄紫色に変えながら陽は西に沈み切って。

 藍色に塗り替えられた東の空に、眩しいほどの光を蓄えた銀輪の満月が昇っていく。


 あの日も、こんな銀麗な満月が夜空にあったのを思い起こす。


 しばらくそれを眺め、佇んでいたあずきだったが…


 あまりにも月が美しかったので、少しでもあの月に近づいてみようと思い立ち、夜空に高く上ってみた。


 …ん……?…


 それは、突然だった。

 一条の魔光の閃光が、その満月に重なるようにすっと立ち昇った。


 !!…

 あれは…!!


 考えるより先にあずきの全細胞が即応した。

 力の限りの全速力でその魔光の発生源に向って飛んだ。


 不思議と確信を持つ。

 紫兎ちゃんや…間違いない…


 あれは合図。

 わたしはまだここにいる、と告げている光に違いない。

 ――急げ!

 急がんとまた閉じてしまう…


 その魔光の狼煙(のろし)が天空に吸い込まれるようにふっと消える時、あずきは山裾にポカリと丸く開いたゲートを…


 ――見つけた!!




「舞子、そろそろ行こうか…」

 二條いちみが先に帰った後もしばらく、しげしげと五郎の顔を覗き込んでいた舞子にレイアが声をかける。

 高層階から望む病室の窓に、もう日が沈んだ西の空の薄紫色も藍色に塗り替えられていく。


「うん…そうね……」

 もう少しここにいたいな、と思いながら舞子は生返事を返した。


 舞子は幼い頃に父親を亡くしていた。

 母親に育てられ、紫兎と同じように、おばあちゃんっ子だった。

 好きな芸能人はおじさんばかりのファザコンで。毎日病室に訪れ、いつの間にか五郎に父親の姿を重ねていたのかもしれない。


「今日はライバルも来てたから舞子も腰が重いね」

 レイアが、ククッ…とからかう。


「ライバル…?…って…」

 二條いちみのことを言ってるのだと分かり。

「…ち…!違うから…わたし…そんなんじゃないから!」

 舞子は、カァ…と耳まで赤くなるのを自覚した。


「ぇ…なになに?」

 珊瑚にはピンときていないらしい。


「相手は強敵だから舞子も頑張らないと。応援するよ」

 レイアのその目はわりと真剣だ。


「もうッ…!帰る…」

 恥ずかしくなって舞子が腰を上げた時だった。


 ーーソレ…を感じた舞子が、ハッ…!と窓の外に驚くような視線を飛ばした。


「ぇッ何?…どうしたの舞子ちゃん」

 珊瑚が舞子の挙動に驚く。


「…紫兎…ちゃん…?」


 レイアはその言葉の意味を即座に理解して、ガタっと椅子から立ち上がった。

「どこ?…分かる?」


「…西……関西…たぶん京都……」

 ここからじゃ…間に合わない…

 ーー誰か…!!


 とその時。

 舞子のMCリングに鴨宮あずきの声が飛びこんできた。

「ーー見つけた!ゲートや!」


 咄嗟に全御子に飛ばしたのだろう。


 窓に駆け寄った舞子は藍色の西の空に向って祈るように両手を握り合わせ、口元に寄せた。


「あずきちゃん!お願い!!間に合って!」



 ふわっと歪んでゲートが閉じ始める。

 ーークッ…今度こそ!

 全速力のあずきは頭から急降下ダイブで飛び込む構え。もうこれが最後で唯一のチャンスだと予感していた。

 一歩間違えば閉じた地面に全身を叩きつけられるかもしへんが、そんなん知らんがなッ!

 


 あずきの読みは間違いではなかった。

 紫兎はあの後、大空洞で12時間ほど眠り続けた。

 そして目覚め、誰も迎えに来ていないことに泣いた。

 落胆ではなく、自分が間に合わなかったのだと…


 ぐす…ぐす…とひと通り泣き尽くし。

 祭壇にまた大の字になる。


 ふわっと魔光が首から下げたペンダントから踊る。

 母から譲り受けたウサギのモチーフ…パープルラビット。

 ーー諦めないで…

 そう聞こえた。母の声で…

 

 紫兎は再びみんなに会いたいと願った。

 みんな死んでしまったのかも知れない、けれど、それでも。

 ーー(ホーム)に帰りたい…と。


 そしてパープルラビットが唯一その場に残されたまだ活きている煌河石(こうがせき)だと気づき。

 それをテンガンにセットして、最後の希望を託してSOSを打ち上げた。


 

 ギリギリや!

「ーーよし!…入った!」

 あずきは暗闇の垂直ゲートを真っ逆さまに突き抜ける。


 …急げ!…呑まれたら元も子もない!


 上から閉じていくゲートがぐんぐんと背後に迫り、だが目もくれず、その勢いのまま下方を目指して一気にギュンと加速する。

 時速は400kmを越えた。

 その先が岩壁かも、などと、あずきは微塵も考えていない。


 すると…

 飛んでる感覚がフッ…と消え失せた。


 前に来たことのある虚無の空間に、先ずはホッと安堵する。

 

 あずきは待つ。

 ハァ…ハァ…と大きく息を整えながら。

 あの時と同じように、この虚無の空間に白い亀裂が走るのを。焦れながらもジッと待ち続ける。


 くっ……まだか…?


 痺れを切らし始めた頃に、卵の殻が割れるように空間が裂け始めた。


 …よっしゃ!


 眩い光に吸い込まれ、そして、再び暗闇の垂直トンネルを落ちていく。

 どれもこれも味わったことのある感覚に自然と笑みがこぼれる。あの時と同じ道を進んでいる…と。


 この先に紫兎ちゃんがいるはずや…

 間違いない。


 日本列島鬼災(きさい)からひと月。

 つまりあの大空洞では12時間ぐらいや。腹は減るかもしれへんけど餓死するほどの時間でもない。


 待っててや、紫兎ちゃん!

 今すぐ迎えに行くし…


 が……

 大空洞に入った途端、あずきの呼吸が驚きで止まった。


 チョイ待ち、何や?…この暗さ…


 ひょっとして前と同じ空洞ではないのか、と不安に駆られ宙に留まった。


 暗い……が、星のような小さな(またた)きが無数に広がっていた。

 まるで宇宙空間に放り出されたような感覚に戸惑う。


「…ここ、一体どこや…?」


 そう焦り始めた時にMCリングが菫色(パープル)に淡く光った。


「あずきちゃん…ここよ……」


 その確かな声に、あずきはぐっと唇を噛む。

 と同時に、一気にボロボロと溢れ出る涙で視界が歪んでいく。


 ――ああ、おおきに……ホンマ…おおきに……


 誰にでもなく、しかし心の底から感謝しながら。

「…紫兎ちゃん、ごめん…遅おなった……」


 ぐすぐす…ともう泣き声しか聞こえない。


 あずきは、その声の気配に向って飛んだ。

 そして見つけた。


 祭壇の上で、ひとりぽつんと。

 そのクリクリとした愛らしい瞳から大粒の涙をボロボロとこぼしながら。だが嬉しそうに両の手を大きく広げて。


 ーーー紫兎の姿を。



 舞子たちは、こうして3時間も西向きの窓ガラスに向かい祈り続けていた。

 あずきのMCリングは途絶えたまま。

 ゲートに飛び込んだのは間違いない。けれどそのあと、どうなったかーー

 ゲートに呑まれたかもしれないし、運なく岩盤に叩きつけられることも。

 時空結界の狭間…虚無の空間があると聞いた。

 もし御子の誰かがゲートを見つけて入ることができたとして。そこから帰る術として瑠璃ちゃんが帰路を探知できるお守りを作ってそれぞれに渡してくれていた。


 舞子はそれをぎゅっと握り締めたままーー


 すると……


 軽くお辞儀するみたいにして舞子が窓ガラスにコツンと頭をあてた。

 その横顔にぽろぽろと涙が流れ出す。


 それを見て、レイアと珊瑚の表情が険しく曇った。

「ぇっ?…そんな…」

「間に合わなかった…の?」


 舞子は「ううん」と首を横に振る。


「じゃあ…」

「間に合ったんだ…」


 舞子は「うん、うん」と力強く頷いた。


 そしてついには両手で顔を覆い「うううっ…」と嗚咽を洩ら始め。

 あずきが間に合ってくれたことが、嬉しくて、嬉しくて。

 もう…言葉にすることも出来なかった。


 レイアと珊瑚も舞子の肩に顔を埋めて、嬉しさのあまり、ううぅと泣きながら。


 そして…


 病室の窓際で身を寄せ合い泣きじゃくる少女たちの背後で、もう一つの奇跡…が起こった。


「………紫……兎……」



 〜The End〜

読んで頂きましてありがとうございます。


いかがでしたでしょうか?

感想など頂けると嬉しく思います。


評価およびブックマークをして下さった方々、本当にありがとうございます。

そのおかげで完結まで進めることができました。


もう古いと言われそうな王道とも言えるストーリーですが、作者自身がこういう話が好きで書いたものです。


ありがとうございました。



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