従兄弟の事情 2
セバスチャンの目が少し和らいだ。
そりゃそうでしょうよ。
雪白さんの出奔(このときは未遂だけど)は初めてじゃないんだもの。
彼女のやる事にはきちんと理由がある。
それはわかってる。
けど、それって人となりがわからなければわからないかもしれなく、単なる我儘だと捉えられかねないと危惧したのでしょうね。
「左様でございます。」
静かに言葉を継いだ。
「国が自分に望んでいる事、親が望むこと、薔薇紅さまのお気持ちとご自身の気持ちに挟まれていたのでしょう。
薔薇紅さまとご自分の命が等価であると思うほどに大切な存在なのですし、自分の気持ちを封じて将来的に一国を治める事……12歳の雪白さまにはできない事なのだと思われたことは想像に難くありません」
彼女はストイックまでに正直な人なのだろう。
大人になればわかるけど、結構その辺利己的な人は多い。
何を優先するか。
自分の気持ち、という人もいるだろう。自分の子どもだったり、今の生活だったり、もっと直接的に財産だったり。
譲れない何かのために、他のことを犠牲にするなんて、日常的に行われることだと思う。
ただ。
思春期入り口に立った、大人びた少女……その名のようにまっさらな心を持ち、未発達な身体に穢れなき精神を宿した女の子には、そのような利己的なことは許せなかったのだろう。
わたしは考える間もなくやってるけど。
二者択一、その結果が周りの人の幸不幸を変えてしまうのであれば、結果を先延ばしにしたくなっても責めることはできないね。
「ということは、やっぱり薔薇紅さんはプリス王子のことが」
「そういうことでございます」
わたしたちの視線が交差する。
「で?それがさっきのプリス王子とどうつながるの?」
「はい」
セバスチャンは軽くため息をつくと
「プリスさまは最初に申し上げた通り、繊細なお心の持ち主です。そして大変素直で多くの方から愛されたことしかございません。
それ故にさきの儀式の雪白さまの行動が理解できず、雪白さまを想うと同時に傷つけられたと恨む気持ちも芽生えておられたご様子。
薔薇紅さまが側に寄り添っておられましたが、気付いておられたかどうか……」
もしかしてだけど。
いや、芸人のネタじゃなくてね?
「これは推測なんだけど」
とわたし。
「王子はそんな気持ちでも雪白さんにいて欲しいんじゃないの?けど、雪白さんはそんなこと思いもしなくて、出て行こうとしたから、嫌われたとか思ってるんじゃないでしょうね?」
カップを見ていたセバスチャンの、目だけわたしに向いた。
「わたしね、あなたが最初に王子のフォローしたから、王子の短所を長所に言い換えたんだと思ってたのよ。
けど違うわね。ホントにそういう人なんだ。
だから、雪白さんが捕まらなくて一人で考える時間ばかりの今、悪い方へ悪い方へと想像しちゃって、気持ちが昂ったとか、そんなとこかしらね?」
セバスチャンが顔を上げた。
「さらにいつもならなだめ役の薔薇紅さんも今は不在。繊細な王子には耐えられなかった?」
セバスチャンは目を伏せ
「まぁ、概ねそんなところでございます」
と低く言った。
「ですが」
と続けて言う。
「王子にも面目やプライドやいろいろ背負うものがおありですので、このことは内密にしておきたいのです」
あ、いや、それはいいのだけど。
けど、素直で繊細な王子のことだ。
きっと色々ダダ漏れだったに違いない。
すれば、こっちの城あっちの城皆の知ることなんじゃないかな?
セバスチャンは理解してるかわかんないけど。
わたしはコックリうなづいた。
「うーん、事情はわかりました。けど、聞いといてよかったですよ。雪白さんの情報は多い方がいいし。話しづらいこと、どうもありがとう」
ぺこりと頭を下げる。
セバスチャンはほっとした顔で、安心しましたと言った。
「さ、ずいぶん遅くなってしまいました。お早めにおやすみください。明日はごゆっくりお目覚めというようにメイドに伝えておきます」
そういうと茶器を手早くまとめて、一礼して部屋から出て行った。
1人になって、初めてかなり疲れていることに気がついた。
今聞いたことは完全に家出の理由の一つだよねぇ。
雪白さんのことだもの。
自分がいなければ、って思ったに違いない。
まあ、物理的に離れれば仕切り直しできることってあるし、こと恋愛は遠距離は難しいと言われるくらいだし。
王位継承権と伴侶と妹。
あの年頃のわたしには想像もつかないくらい、人生重いわね。
今はどんな事情であれ、ちょっと家族と距離置く方がいいかもしんない。
誰も彼も、視野が狭くなってるかんじ。
そしてわたしは物理的に視野が狭くなってきた(笑
ベッドがわたしを手招きしてる。
続きは明日だ。
寝よう。
他に何も考えず、ベッドのシーツへダイブした。