お城
食堂の割とすみっこの席について、周りをコソッと観察してみる。
「へっへー、クエストクリアしたから今日は呑むぞ〜!」
「あといくつ集めりゃいいんだっけ?35?先は長ぇぜ」
「私たちの弱点はなんでしょう?連携ですよね?近距離攻撃と広範囲攻撃、援護魔法はそれぞれ持ち場が違います…」
「うぅぅ、あとはどこを探せば見つかると言うのでしょう…子猫探しがこんなに大変だとは」
うんうん、概ねいつも通りみたい。
どこかで戦が始まりそうとか、特に物騒になってるとかなさそう。
あっ、あっちにドワーフのパーティがいた!
よし、これ食べたらちょっと挨拶してこよう。
おや?
衛兵?
パリッとした格好の人が3人、食堂に入ってきたよ。
ちょっと場違いな感じ。
何人か同じこと思っているのか、視線向けてる人もいる。
あれっ?
なに?
えっ、ちょ…まっ
「ヒスイ殿ですね」
なぜまっすぐわたしのところへ来る⁈
わたしの返事も待たずに
「ギルド依頼の件でお伺いしたい。ついては少しお時間くださらんか」
と、外へ行くことを促してきた!
いやあの、ご飯途中なんだけど?
それより、みんなこっち見てるから‼︎
女将さんが気の毒そうにこっちを見てる。
ごめんね、女将さん。
騒ぎ起こすつもりはないから外に出るけど、あとで夜食お願いしていい?
と、目で伝えたつもりだけど、伝わってないだろうなぁ…
わたしはフォークを置いて立ち上がり、
「こちらの皆さんにご迷惑にならないようにしてください」
とだけ言って、3人の後について外に出ることにした。
あぁ外はもう暗いわ(涙)
今日もアタシ頑張ったよね?
なんて思ってみても、当たり前だけど事態は変わらず。
宿の前には小型の馬車が待っていた。
これに乗れって?
冗談じゃないわよ!
ニセモノだったら飛んで火に入るナントカじゃない。
「ちょっと待って。わたしには、あなた方がどこの誰だかわかりません。なので、どこの誰なのか証明を見せてください。なにが証明になるかは指定しませんので、よく考えてください」
馬車に乗り込ませようとしていた3人は一瞬固まったけど、目を見合わせた後、剣のつかを同時に見せて
「これが証拠である。我々は王付き近衛兵で、これは王付き近衛兵しかつけられないツカなのだ。ヒスイ殿が存じているかわからんが、王家の紋章が縁取られている」
と、言った。
どれどれ?
暗いけど、宿の窓の光がツカにあたって彫り込んだ模様が見えるわね。
3人とも同じ模様で、それもかなり繊細で複雑な模様が彫り込まれている。
これは実戦用じゃない。
身分証明書代わりなんだ。
さらによくみると、剣は短剣と長剣な2本挿。
なるほど。
よくわからない異世界人を拐かすには手間暇かかり過ぎだわね。
本物でしょうね。
ま、さっき買ったアクセもつけてるし、まだ人もいることだし、何とかなるはず。
行かない方が面倒になりそうだと思い、わたしは軽く頷いて
「わかりました。お話を伺いましょう」
と言って馬車に乗り込んだ。
3人は後から馬車に乗り込み、御者に合図すると馬車は動き出し、近衛兵の1人が話し出した。
「宿では失礼した。我々はこちらからハンス、ヨハネス、クレープスと言う。ヒスイ殿をお連れするようにと、国王からの命により案内
いたすこととなった。」
国王?
話が大きくなってきたぁ。
もうね、行き先がお城で継母がお茶出してくれても、驚かないんだから!
「これから城へお連れする事となるが、王が其方に何を望んでおられるか、我々は知らないのだ。申し訳ない」
そう言って3人は同時に頭を下げた。
合図なしのすごいシンクロ。
そして行き先はホントにお城だったよ。
恐縮する場面かもしれないけど、わたしはハァと気の抜けた返事しかできず、城に着くまで4人とも無言だった。
揺れがひどくて喋ると舌噛みそう、っていうのもあるんだけどね。
少し走ると城の門に着いた。
遠目に見たことはあるけど、中に入るのは初めて。
門番が門を開け、馬車は吸い込まれるように入っていく。
そうね、よくある西洋風のお城。
お城なんて、バッキンガム宮殿とかヴェルサイユ宮殿、ノイヴァンシュタイン城くらいしか知らないから、あら随分こぢんまりしていること、なんて思っちゃったわよ。
城の前で馬車から降り、そのまま中へ促された。
城の中も、どこかで見たような雰囲気。
そしてとある一部屋へ入る。
そこには風貌ある男性が座っていた。
「ヒスイ殿」
低くてよく通る声でその人はわたしを呼んだ。
イケボじゃない?
うっかりそんなこと思う。
「此度は大変失礼した。しかし、我に他に手段がなかったのだ」
そう言って頭を下げ
「我はこの国の王、ヴァルデック=ヴィルドゥンゲン4世である。今回、ヒスイ殿には大変な迷惑をかけたということで、謝罪を受けてくださらんか。
ヒスイ殿の望むものでこちらが用意できる限りのものを、受け取ってもらうということでよろしいかな。
そして、娘らの言うことを取り下げて欲しい」
と言った。
迷惑?
謝罪?
わたしは少し眉をひそめて
「迷惑とはなんでしょう?」
と言うしかなかった。
「アレを迷惑と言わず何というのか。我が娘たちの仕出かしたこと。自らの置かれた立場もわきまえず、自分勝手な思い込みで他所の国へいき、全てをやり直したいという娘と、1人だけ自由を謳歌するのは許せないと行く手を阻むどころか、あわよくば自分も他所へ行きたいという娘の、とんでもないわがままを?」
ぅえっ⁈
なにそれ?
なんか話が違くない?
彼女らの話を超拡大解釈したら、そうなるかもしれないけど、そんなこと言う子たちには見えなかったなぁ。
王は余程のことがあったのか、少しイライラした風に話してくれた。
「疑っておるようだが、これは真実なのだ。
ヒスイ殿は今日初めてあの娘らに会ったのであろう。娘らは、親の我が言うのもなんだか、真面目で人当たりは良い。
しかし、王族であるが故に、感情を隠すことがうまい。そして自分の信念を通す強さも備えておる。ヒスイ殿は、大変素直に物事を受け取られる方とお見受けするからこそ、あの娘らも接触したのであろう。
しからば、そのわがままをとめ、娘たちに分別を伴う行動をさせるのが、王族としてのスジではないか?」
それってば、わたし、底が浅いってこと?
コイツなら騙せるわよ?的な?
分別の伴う行動とか言ってるけど、ようは出て行っちゃイヤイヤ的な感じよね。
ってか、三者三様で誰を信じていいのやら…
王様に逆らったらどうなるんだろ?
お金貰えたら違約金も払えるしな。
疲れと驚きでぼんやりしていた頭に光がさした。
あっ、違約金!
そーだそーだ、わたし、ちゃんと契約したんだよ。
正式に契約した雪白に従うのがスジだよ。
役職絡むとわけわからん。
「えっと」
わたしは考えなが話し始めた。
「王様、話はわかりました。しかしですね?わたしがギルドで依頼を受けたことは、見てれば誰でもわかりますが、その内容まで知ることはできません。わたしは契約によって、勝手に話すことを禁じられています。そしてわたしはこの国の者でもありませんので、ギルドの契約しかよすががないのです。それを『王命だから』で反故にしていいかもわかりません。よって、まずはその確認からしたいのですが。」
うぅ、王様相手に緊張するよ。
でも流されちゃだめだよねきっと。
王様は頑張ってイライラを隠そうとしているけど、あんまりうまくいかないみたいで
「何を言うのか。王の前にギルドも何もないと思わんか」
と、尖った口調で言ってきた。
「そうかもしれません。でも万一のことがあったとき…わたしは自分しか自分を守ることができないのです。ですから」
「あぁよいよい、わかった、そなたの思うよいにされたらよい。」
王様は顔の前で手を振り、
「今宵は大変遅くなった。ここに泊まるが良い。部屋を用意させる」
というと、近くにいたセバスチャンみたいな人に何か話して
「手数をかけた。我もこれで休むので、そなたも休まれよ」
と、わたしを一瞥して部屋から出て行っちゃった。
あるぇ?
やらかした?
余計な汗をかきながら、王様の出て行ったドアを見つめていると
こほん
はっ、と振り返ると、ザ・セバスチャンと目があった。
「ヒスイ殿、今宵の寝所へご案内いたします」
お城にお泊まり!
やった!
とは喜べない事情。
まさかとは思うけど、寝ている隙に…なんてことはないよね?