海遊びの裏で
プロローグ、突然の来訪者
「さて、食事の準備できたわよー」
私、リンカは家族を呼んだ。
「お、今日はカレーなのか」
「わーい、カレー、大好き!」
「ふふ、残らず食べるのよ」
今日はブリングを筆頭に皆は海水浴に行っているので家族水入らずだ。
「いただきまーす」
「おう、いただき……ん? 誰か来たか?」
レンが誰かの気配を察知したようだ。
「あら、誰かしらね」
しばしの間。のちに扉が開かれ入ってきたのは、少女を連れた若者だった。
「レン、子どもたちをお願いね」
「おう」
「なにかご用かしら?」
私は彼らに注意しながら要件を聞いた。
「すまねえ、この子を預かってくれ」
「えっ?」
「事情は話せねえし時間もねえ。とにかく頼みましたぜ」
「ちょっと! 行っちゃった……」
若者は要件を伝えると早々に立ち去ってしまった。
置いてけぼりを食らった少女が不安そうにこちらを見ている。
仕方がない。後でブリングにちゃんと報告しなきゃね。
「あなた、お名前はなんて言うの?」
「……レイス、レイス-ジェリーです」
「そう、レイスちゃんね。ここはフェイス領と言うの。ゆっくりしていくといいわ」
「はい」
私たちはレイスを保護して、ブリングの帰りを待った。
1、海遊びも終わって
日が傾き始めた浜辺では、例の板の向こうで女性陣が着替えをしていた。
「いやあ、楽しかったねえ」
「思ったより羽目を外せて良かったよ」
「アクシデントはあったけど、砂の城も無事完成したしね」
皆が思い思いを口にしている。私も楽しかった。
ちなみに砂や海水で汚れた体は、リフレッシュの魔法という体を清める魔法を使える人によってみんなきれいにしてもらっている。
全員の着替えを終え、男性陣とも合流し城へと帰った。
2、城に到着
私たちは城へ帰ってくると、リンカがブリングになにか報告をしているようだった。
そして、夕ご飯を食べ終えた後、私はブリングに呼ばれた。
「なあハウト。この子に見覚えはないか?」
連れてきた子は、身長こそ私よりそこそこ小さいものの、うり二つなその容姿を忘れるはずもない。私の妹、レイスだ。
私はひどくうろたえた。なぜ今頃になってレイスがここに? まさか、あの糞親どもも一緒なのか!?
「……ないです」
バレバレかもしれないが、私は見覚えがないと答えた。
「あの……」
レイスがおずおずと声を出す。
「私の、お姉ちゃん、だよね?」
「っ!? 知らない!」
私は思わずその場を立ち去って部屋にこもってしまった。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫、ハウトは良い子だからすぐに打ち解けるさ」
俺は落ち込むレイスにそう告げた。
「はい……」
「とりあえず、今日は寝よう。部屋に案内するよ」
そう言い俺は、レイスを部屋へと案内した。
3、疑問
私は部屋にこもってからいろいろと考えた。
かつて、私を捨てた家族の一人であるレイスがなぜ今頃になってやってきたのか。
……いや、レイスはあの時私より幼いんだから、自分の意思ではなかったのだろう。
それにあの糞親どもが一緒にいる気配はない。
なぜ糞親がいないのか? なぜレイスが今頃になって?
疑問ばかり浮かんでなにも解決しないや。
明日、ブリングにちゃんと聞いてみよう。
4、真実を知り
翌日、私はブリングに会って話を聞いた。
「レイスのことについて聞きたい?」
「はい。その、昨日は突然いなくなってごめんなさい。家族にあまり良い思い出が
ないから怖くて……」
「ふむ。そういうことならちゃんと話しておこう。まず彼女、レイスは家族と平穏に
暮らしていたがある日突然父が母を殺し、レイスのことも殺そうとしたらしい。
それで必死に逃げていたところをロベルト盗賊団に拾われ匿ってくれたそうだ。
しかしその盗賊団も最近討伐隊が派遣されるようになって、悪事を働いてないレイスを
安全な場所に、と思ったらしくその場所に抜擢されたのがフェイス領だった、てことだ」
「そんなことがあったんですか。でも、いつの間にそんな情報を聞き出したんですか?」
「なに、昨日部屋でちょっとな」
なにをしたかは追求しないでおこう。
とりあえず、知りたいことは大体分かった。
レイスにも昨日のことをちゃんと謝っておこう。
鍛錬前の時間、大広間でゆっくりしていると、レイスがやってきた。
「あ、お姉ちゃん……」
「レイス。ちょうど良かった、ちょっと私の部屋まで来て」
「え、でもお姉ちゃん」
「いいから来て」
レイスを私の部屋に連行した後、私は彼女と話をした。
「まずは、昨日のこと、ごめんね」
「ふえっ!? いや、大丈夫。その、嫌われてたと思ったから」
「まあ、家族のことがあったから、ちょっとは、ね。でもブリングから全部聞いた。
あんた、ロベルト盗賊団にいたんだってね」
「うん。ちょっと怖いところがある人たちだったけど、優しかったよ」
「レイス。そのことは私とブリング以外には話さないようにして」
「え、なんで?」
「この領にはロベルト盗賊団に家族を殺された人が何人かいるらしいのよ」
「なるほど。それは確かに黙ってた方が良いね」
「物わかりが早くて助かるわ。それと、その……。無事で、良かったわ」
「お姉ちゃん……!」
こうして私は妹との再会を祝したのだった。
ハウトの妹、レイスが登場しました! が、あまり目立たない子です。