意識の変化(前編)
プロットでは1話予定でしたが、膨らませたら大きくなっていったので2話に分けました。
1、抑えられない衝動
依頼から帰ってきて初めての鍛錬の日。
私はいつも通り1番乗りでやってきた。すると、
「おはよう、相変わらず早いな」
なんとフェイが珍しく私のすぐ後に来たのだ。
「おはよう。今は動きたくてしょうがない感じ」
「ハウトもか」
も、と言うことはフェイも同じなんだろう。
はやる気持ちを抑えながら待つ。
みんなが揃い浜辺へのランニングが始まった。
ディアーが先頭を走っているようだが、速さが遅い気がする。
フェイもそう感じたのか、ディアーを追い抜いて速さをさらに上げた。
私もそれに続け追い越せとばかりに速さを上げた。
「おいおい、あんま無茶すんなよ」
ディアーが無理をしていると思ったのか軽く注意するが、私たちは速さを落とすことなく浜辺まで走りきった。
2、二人の変化
「ディアー、反復走の準備出来ました!」
私とフェイで一足先に準備をしてそれをディアーに報告した。
「まずは休憩な、今日のお前ら張り切りすぎだ」
「じゃあ、先にやっても――」
「きゅ・う・け・い・だ!」
「分かりました」
本当なら無視して先にやりたかったが、ああまで念を押されては従わざるを得ない。
うずうずした気持ちを抑えながら待つ。
「よし、休憩終わり! 反復走に入るぞ」
「待ってましたあ!」
フェイが思わず声を上げる。正直私も同じ気持ちだ。
「ねえねえ、ハウトとフェイってあんなに練習熱心だったっけ?」
いつもと様子が違う私たちを見て卯月さんが呟く。
「んー、あんなやる気ある感じではなかったねえ」
エンジさんもそれに続く。
「よーし、準備が出来たら反復走始めろー!」
ディアーの合図が起きた瞬間、私とフェイ以外の人は目を丸くしただろう。
なぜなら、私たちが全力疾走に近い速さで反復走を始めたからだ。
この反復走は走りづらい砂浜を短距離とはいえ何十往復もするから本来持久力を上げるための運動だが、それを全力疾走に近い速度で走るのは途中で体力が尽きてしまってかえって効果が薄れてしまう恐れが高いのだ。
だが、私たちは周りの視線なんか眼中にないかのごとく競い合いながらほぼ全力疾走を続けた。
私とフェイが30往復を終えたあたりだろうか。みんなの見る目が少し変わった。
息を切らしてはいるが速さが落ちることがない。
本当にこのペースのまま50往復終えてしまいそうだ。
最初は苦笑していた卯月さんやエンジさんも驚きを隠せない。
そして、
「50往復、終わりました!」
私とフェイがその報告をすると、ディアーは驚きと少しの呆れを込めて返事した。
「お前らすげえな……。確かに50往復終わりだ」
「はい! ふう……。あの、先に素振りを、始めて、良いですか」
「急ぎすぎだ。せめて呼吸を整えてから始めろ。なにをそんなに焦ってるのかは分からん
が、今日は特別だからな」
「分かりました!」
私とフェイはみんなが本来の持久力を上げるための速さで反復走を続けている間に呼吸を整え素振りを始めた。
素振りの速さもいつもより速くしている。
みんなが反復走を終わらせる頃には私たちは素振りを終えていた。
3、全力対全力
みんなが呼吸を整えている間、私たちは乱取りの準備に取りかかっていた。
私はこれを待っていた。
今まで他の運動を急いでやっていたのはこのためだった。
そして、それはフェイも同様のようだった。
「ディアー、先に乱取り始めてますね」
「ああ、分かった」
ディアーの許可を合図に、私とフェイは対峙した。
そして。
「はあああああ!」
まずは間合いを一気に詰め袈裟斬りを仕掛けると、向こうもそれに応じて袈裟斬り。刃と刃がぶつかり合い魔力の衝撃波が発生する。
「ふっ!」
鍔迫り合いから崩し突きで攻撃。
「甘い!」
しかしフェイはそれをギリギリのところで避け突進して突きで応戦する。
「ちっ」
剣ならなぎ払って対処するが、私の得物は槍だ。これを躱し横薙ぎに備える。予想通り横薙ぎがきたのでそれを柄で受ける。再び魔力の衝撃波。
ディアーたちは私たちの裂帛の気合いを込めた乱取りに目を奪われていた。
そして、さらに数合交えたとき、私とフェイの武器が壊れた。
「おおおおおおおおおお」
「はあああああああああ」
だが、戦意はまだ落ちていない。素手のままお互いに殴り合おうとする。
「そこまでだ!」
これに割って入ったのはディアーだった。
「武器の実践向け練習が乱取りだっつうのに素手で殴り合おうとすんじゃねえ。
とりあえず壊れた武器買ってこい。二人でだ」
「はあはあ、はい」
「分かりました」
私とフェイは気を抑え買い物へと向かう。その準備中、
「お前ら、明日から特別メニュー追加な」
ディアーは確かにそう告げた。
4、特別メニュー
翌日、昨日と同じように素振りまで終わらせたハウトとフェイ。
すると、ディアーが、
「お前らしばらく乱取りは中止な」
突然そんなことを言ってきた。
「なっ!?」「えっ!?」
驚きディアーの方を向く。
「なんでだよ! せっかくのやる気に水を差すんじゃ――」
「だあああ、話を聞け! お前ら昨日武器ぶっ壊しただろ? それは気の扱い方に武器が
耐えらんなかったからだ。だからまずは気の扱いの鍛錬をするんだ。気の使い方は大事
だぞ。実戦の途中で息切れしてやられちゃ様にならねえからな」
「それが、特別メニューですか?」
「ああそうだ。それに、この鍛錬は乱取りで武器が壊れないことにも通ずるしな」
「分かりました、じゃあ、その、気の扱いの鍛錬の指導をお願いします」
フェイも納得がいったのか、早く教えてくれと言わんばかりに待ち構えていた。