鍛錬の日々
第2話です。初めての鍛錬シーンです。
1、まずは砂浜までランニング
朝になり私は大広間に出る。
すると、ディアーさんが何かの準備をしているようだったので、声をかけてみる。
「おはようございます、ディアーさん。何をしているんですか?」
ディアーさんは作業の手を止めて私の方を向く。
「ああ、おはよう。これか? これは今日の鍛錬に使うやつだ」
そう言うと再び作業に戻った。
私はその返答を聞いて疑問は解決したので大広間の椅子に腰掛ける。
「ああ、そうだ。今日からお前も鍛錬に参加してもらうからな」
「……は?」
「昨日フェイには伝えたんだが、お前はすぐにいなくなっちまったからな。直前の報告に
なって悪かったな」
私が寝てる間に勝手に決まっていたようだ。しかし、連絡が取れなかったらどうするつもりだったのだろうか?
「もうしばらく待てばみんな集まるだろ。それまで適当にくつろいでくれ」
私はディアーさんに言われたとおり大広間で待つことにした。
外に出た小さめの広場に私とディアーさん、フェイ、リース、ガーラさん、エンジさん、卯月さんの7人が集まっていた。
ガーラさんは色白で、目は赤茶色で丸くくっきりしていて、髪は暗いオレンジ色のショートヘア。服装はリースとおそろいで白の無地のシャツに青色のハーフパンツを穿いている。ただ、リースとの大きな違いはその大きな胸だ。ぐぬぬ……。
エンジさんはやや色白で目は黒色でくりっとしている。眉はキリッとしている。口は一文字に結ばれている。黒髪のポニーテールで頭の天辺と耳の間くらいで結わえていて長さは脇のあたりまである。胸にさらしを巻いてその上に青色の模様が入った襦袢を羽織っている。下は褌に青の袴で、隙間から褌やら足がチラチラ見えている。随分露出してるけど恥ずかしくないのかな?
卯月さんはエンジさんに似た顔立ちをしているが親戚か何かなのだろうか? 服装は薄黄色の襦袢に薄桃色の袴でエンジさんと違ってしっかりと着こなしている。髪型もエンジさんと同じだ。間違えやすそうだから露出してるかしてないかで判断しよう。
「よーし、みんな揃ったな。今日は新顔がいるから俺は一番後ろにつく。エンジ、お前
が先頭を走れ」
「はーい」
「ハウト、フェイ。今から砂浜まで走るからしっかりついてくるように」
これから何をするのか気になっていたところに答えがかえってきて少し安心する。
私は頷いて砂浜へと走り始めた。
2、疑問をぶつけるハウト
ランニングはそんなに苦労しなかった。リースは苦しそうにしていたが他のみんなは大して疲れている様子は見られなかった。
「よーし、次は反復走だ」
「反復走?」
ハウトは聞き慣れない単語が出てきたので疑問を返す。
「反復走は20メートルだったかな、ぐらいの間隔を何回も往復する運動だ。ちょっと
待ってろ、目印をつけてくるから」
「……それは本当に必要ですか?」
「なに?」
私は鍛錬といえば武器を使った演習をするものだと思っている。だからそれをしないのは何か違う気がする。
「……ふむ。ハウト、まずはお前が反復走やってみろ」
「だからそれの必要性がないと――」
「俺も併走する。騙されたと思って一度やってみろ」
「……分かりました」
あまり乗り気ではなかったが、ディアーさんは引いてくれなさそうだったので渋々従うことにした。
3、基礎の厳しさ、大事さ
結論から言うと、私は基礎訓練をなめていた。
ディアーさんのペースはかなり早く、始めこそ問題なくついていくことが出来たが、20往復し終わったあたりからついていくのがやっとという有様だった。
ディアーさんは何度もあと少しだ、頑張れ! と励ましてくれた。
そして30往復終わったところで反復走は終わった。
息も絶え絶えで力尽きた私は始める前の自分を愚かだと思った。
「どうだ? 思ったよりきついだろ?」
ディアーさんは他のメンバーに指示を出した後、私の横に座って話しかけてきた。
「基礎体力ってのは持久戦や長期戦になったときに実戦でも必要になってくる。武器を
使った稽古もやるが、俺は基礎を中心にやっていこうと思ってる。実戦向けの訓練
なんて実戦になったらなんの役にも立たんからな」
「ハァハァ、です、ね」
基礎の大事さを説いたディアーさん。その話を理解しつつ、呼吸を整えていく。
私は基礎訓練を大事にしていこう、と考えを改めた。
4、次は素振り
全員の反復走が終わり20分間休憩をする。
休憩が終わり、次の鍛錬に入った。
「よーし、次は自分の武器で素振り1000回!」
せ、1000回!? いきなりその回数はきつくないかな。でも、基礎を大事にと思ったばかりだからちゃんとやるか。
5、乱取り
「よーし、次は乱取りだ」
素振りを無事終えると、次に行うことをディアーさんが言った。
「ペアはエンジと卯月、リースとガーラ、それとハウトとフェイ。これでいくぞ」
私はフェイと実戦に近い形で乱取りを行った。
「ハウト、連撃の後の隙が大きい」
「フェイ、相手の隙をもう少し生かせ」
といった具合にディアーさんは乱取りの合間にみんなに問題点を指摘していた。
6、解散、その後
全ての行程が終わり、それぞれ城へ帰る。
「やっと終わったぁ」
「今日も鍛錬おつかれさま」
おのおのが挨拶をして別れた。
夕食はみんな集まって食べる習慣があるようで、着替えたりしたみんなが再び集まって夕ご飯を食べた。
その後、ディアーさんが一人で外に出るのを目撃した私は、彼の後を追うことにした。
すると、ディアーさんは一人で鍛錬をこなしているではないか。
「誰だ? て、ハウトか」
「あ、えっと、ごめんなさい、鍛錬の邪魔をしてしまって」
「別にいいよ、それくらい」
しばしの沈黙。それを破ったのはディアーさんだった。
「アレだ、おめぇらに教える手前、おめぇらより強くないと指導するに値しねぇだろ。
だからこうして自己の鍛錬もしっかりやってるんだ」
どこか恥ずかしそうにそう語るディアーさん。
「そうなんですか。それなのに、今日は変に逆らったりして、ごめんなさい」
「いいっていいって。ちゃんと大事さに気がついたんだから」
そう言って励ましてくれたディアーさんのためにも、私はもっと努力しようと心に誓った。