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暗い影

1、ブリングの器


 今日は鍛錬が休みの日。だが私はいつも通り早起きしていた。

 そんな時、ブリングとリンカさんが話をしているところに遭遇する。

「おはようございます」

「あら、おはよう、ハウトちゃん」

「おはよう、ハウト」

 揃って挨拶が返ってくる。

「なんの話をしていたんですか?」

「えっとね、私たちがこの領を出てセントビア王国領に移る、と言う話よ」

 その言葉に衝撃を受けた。

 エディアたちに続いてリンカさんまでこの領を去ると言うのか。

「それ、本当ですか?」

「ええ、本当よ」

「ちゃんとみんなに話しておくようにな」

「もちろん、そのつもりよ」

 どうやら本当にリンカさんたちがいなくなるようだ。

「それじゃあ、ハウトちゃん。また後で、ね」

「あ、はい」

 リンカさんは要件を伝え終えてそそくさといなくなった。

 家族の元へと向かったのだろうか。

「じゃあ、私も失礼し――」

「ちっ、これだから人間は使えない……」

「!!」

 ブリング、今とんでもないことを言わなかったか?

 気になって振り返るが、ブリングはいつもと変わらない様子だった。

「……」

 私はこの頃からブリングに対して不信感を抱き始めたのかもしれない。

 今はまだ小さな芽だが、いずれ大きくなることがあるような気がしてならなかった。




2、お別れ会


 翌日の夕方。

 みんなが集まり、リンカさんたちから話があることを知らされた。

 恐らく、領を去る話だろう。

「集まってくれてありがとう。実は、私たちはセントビア領に移ろうと思います。

 皆さんと最後までいられなくてごめんなさいね」

 予想通りの内容にほっとした自分と悲しさを感じる自分がいた。

「そうか。同じ創設メンバーとしては寂しいな」

「そうね。昔はともに切磋琢磨して鍛えてたのが嘘のようだよ」

 ライティス、レインさんがそれぞれ別れを惜しむ。

「創設メンバーじゃねえが、長年一緒だったからやっぱ寂しいもんだな」

 ディアーも笑顔だがどこか寂しそうだ。

 私はブリングの様子を見た。

 しかし前日の暴言を放ったとは思えない、別れを惜しむ感じだった。

 結局最後まで変わることなくお別れ会はお開きとなった。




3、リンカの思い


「リンカさん」

「な~に、ハウトちゃん?」

 お別れ会が終わった後、他のメンバーがいなくなり、ブリングも姿を消したところで、リンカさんはどう思ってるのか気になっていたので思い切って聞いてみることにした。

「リンカさんは、ブリングのことをどう思ってますか?」

「どう思ってる、ねえ……」

 リンカさんは思案をめぐらせ、再び話し出す。

「彼は、この世界の在り方を変えるために一生懸命だと思うわ。私たちは子どもができて、

 家庭を守ることに重きを置くようになって、一緒に改革をするのは辛いと考えたの。

 彼はレインとともに頑張っているけど、どこか一人で戦おうとしてるところが

 あるから、ハウトちゃんやフェイくんみたいな若い子が支えてあげてほしいの」

「そうですか」

 リンカはブリングのことを信頼しているようだった。

 きっとあの暴言を吐くような姿を知らないのだろうとも思った。

「でも、なんで急にそんなこと聞く気になったの?」

「あ、いえ。もうすぐいなくなると思ったら、聞かなきゃと思って……」

「うふ、じゃあそういうことにしときましょうね」

 やっぱりリンカさんは一筋縄ではいかないなあ。

 私はリンカに別れを告げ、彼女の思いを胸にその場を後にした。




4、フェイに相談


「フェイ、ちょっと時間ある?」

「ん、別に構わんが」

 私はフェイの部屋に来ていた。

 今日起きた出来事を相談しようと思ったからだ。

「扉はしっかり閉めた?」

「ん? ああ、閉めたぞ」

 フェイが最初疑問符を浮かべるが、意図を察したのかしっかりと戸締まりをした。

「それで、なんの用だ?」

 フェイが小声で話す。

「昨日今日あったことを話しておこうと思って」

 私も小声で返す。

「昨日、リンカさんがブリングと話してるところに出くわしたんだけど、ブリングは

 リンカと別れた後にたしかにこれだから人間は使えないと言ったのよ」

「あのブリングが?」

「そう。だから今日、リンカさんにブリングについて聞いてみたの。ああもちろん、

 暴言については伏せてね。そしたら、改革に一生懸命なこと、私たちに支えてほしい

 ことを言っていたわ」

「ふむ」

「リンカの気持ちを汲んであげたいんだけど、ブリングの暴言が気になってるのよね」

「なるほど、それで俺に相談というわけか」

「そう」

 フェイは少し考えるように頭をひねったが、やがて答えが出たようでこちらを向いた。

「ブリングがなにを考えてるのかは分からない。ただ、リンカの思いや俺たちは

 助けられたと言っていいだろうから、よほど変なことをしない限りはついて行く」

「私も、そう、なのかな?」

「なにか引っかかることがあるのか?」

 たしかになにか引っかかるものがあるにはあるが、うまく言葉で説明できない。

 だから、私はそれを無視した。

「ううん、なんでもない」

「そうか」

 私は胸につかえがあるのを感じながらもフェイと別れ眠りについた。



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