マルデン襲撃
マルデンとはリースの父親のことです。
1、殺気
イメリア歴517年5月4日。
鍛錬が休みの今日、私は確かに感じ取った。
殺気だ。
「ハウト、どうした?」
フェイが声をかけるが、それよりも先に門に向かって走り出した。
「きゃああああああああああああああ!!!!!!!!!」
私が門を開けるのとほぼ同時に外から悲鳴が上がる。
フェイとリースは武器庫に向かい自分の武器を取りに行った。
私は時空間にしまってある槍を一本取り出すと、悲鳴の先、血まみれで倒れているレイスと大柄な魔族に突進して魔族を吹き飛ばした。
「レイス!」
「ねえ……さ……」
「待ってて、すぐに治療をお願いするから!」
私はレイスを抱えて門まで移動する。
そこにフェイとリースが合流。
「リース! レイスの治療を――」
「なんで、お前が……」
「リース?」
「なんでお前がここにいるの! 父さん!」
2、一人で先走るな!
鍛錬の帰りに一度だけ聞いたことがある。
リースはなぜ苦手な短剣を使って苦手な体術を学んでいるのか、と。
リースは答えた。
「母さんと妹の敵の父さんを殺すためよ」
私はそれ以上深くは聞かなかった。
「父さん、て、え?」
フェイが困惑の表情を浮かべる。
「お前のせいで……お前のせいで!!!」
いけない、リースが我を忘れている。
リースの弓による攻撃は普段の精度を欠き、リースの父は手で難なく弾いてしまう!
リースの父はリースを屠らんと突進する。
「しまっ――」
リースは間合いに入られて焦る。
だが、
「フェイ!」
「あいよ!」
リースとの間に私とフェイが割って入る。
「ハウト、フェイ」
「リース、落ち着け。そんで、連携して倒すぞ!」
フェイがリースに檄を飛ばす。
「分かった!」
3、力を合わせれば
リースは落ち着きを取り戻した。
「ハウト」
「分かってるって!」
それに合わせて私とフェイはリースの父を吹き飛ばす。
「……ここ!」
リースは態勢を立て直そうとしているリースの父の両膝を正確に貫いた。
バランスを崩したところに動きを拘束するための矢を両手の甲に穿つ。
「よし」
フェイが歓声を上げる。
「フェイ、周囲の警戒を。必要ないかも知れないけど一応お願い」
「あいよ」
私はフェイに言い、リースの父に注意を向ける。
そこにリースが短剣を持って近づいてきた。
「リース」
「この時を、どれだけ待っていたか……」
4、最期に見せた笑顔
リースは動けなくなった父の胸を、持っていた短剣で深々と突き刺した。
その時だった。
「おおお……リース……」
リースの父からは先ほどまでの殺気が嘘のように消え去っていた。
「な、なによ?」
リースが様子の変わった父を見て狼狽える。
「リース……あの時は……すまなかった……」
「い、今更善人ぶっても……」
「あの時……正気を失って……家族を……」
「やめてよ……」
「リース……」
リースは無言で父を見ている。
「大きく……なったね……」
その一言に、リースも心が動いた。
「父さん?」
「……」
「ねえ父さん? 父さんなんでしょ? 正気に戻ったんでしょ!?」
「……」
「ねえ、返事してよ。返事してよ! 父さん!」
私は、なんて声をかけたら良いか分からなかった。
「私が……。私が、父さんに、とどめを……」
「リース」
フェイも名前を呼んだが、なんて声をかけたら良いのか分かってなさそうだった。
「やだよ。嫌だよ。目を覚ましてよ! 目を覚ましてよお!!」
「リースっ」
「うあああああああああああああああ!!!!!!」
リースの慟哭が響き渡る。
気が付くと私は涙を流していた。
そして、リースを抱きしめた。
「ハウトぉ……。私……。大好きだった父さんを……。殺しちゃったよぉ……」
「リースっ! ……リースっ!」
リースは泣いた。
泣いた。
泣き続けた。
私も一緒に泣いた。
一緒にいてあげなきゃ、と。
じゃないと、リースが、どこか遠くに行ってしまう気がして……。
必死で抱きついた。
時刻は昼下がり。
リースの戦う理由だった復讐は。
とても悲しい結末で幕を閉じた……。




