別れ話は突然に
1、突然の集合
いつも通り鍛錬を行った帰り道。
「あれ、ライティス。どうしたんだ、こんなところまで」
「ん、ディアーか。他のメンバーも全員いるな。ブリングから全員集まるように
言われてな」
全員集まるように、ということはなにか緊急の要件があるということだ。
なんだろう? 変なことじゃなければ良いけど……。
広間に着くと、そこにはすでに全員が長机を囲むように座っていた。
私たちも空いている席につく。
「みんな、集まってもらってありがとう。今回はラジールから話があるそうだ」
「今日は緊急招集に集まってくれてありがとう。私ラジールからみんなに伝えたいことが
ある。私は今日、ヴォイドと結婚することなった」
会場から歓声が上がる。
「ついては、これを機にウォル領へと引っ越そうと思っている」
え?
驚きのあまり声を失う。他のみんなも歓声を上げるのをやめていた。
「おい、それ本当なのか?」
ディアーが二人に問いかけると、二人は同時に頷いた。
「……それなら、僕もウォルに帰ろうかな」
そう言ったのはプライズ。
「プライズが帰るなら私も帰るわよ」
それに続いてエリエルまで。
「おいおい、みんないなくなっちまうのかよ」
クルセイドが不機嫌な声を隠そうともしないで言う。
「私たちはすでに決めていたからな。他の者はどうかは分からないが……」
ラジールがはっきりと答える。
「そうか……。みんながいなくなるなら、俺もここに残る理由はないな」
「なら私もついて行くわ」
「私も」
ついにクルセイド、エディア、彩までフェイス領を立ち去るといった。
え、ちょっと待って。一体何人が一気にいなくなるの?
「ふむ。友が誰もいなくなるのでは、私も流石に寂しいのでな。申し訳ないが、私も
ウォル領へいくとしよう」
アメジスさんまで!?
「まああれだ。仲が良いのは良いことなんだが、ちゃんと自分の意思で言ってんのか?」
ディアーが疑問をぶつける。
それに対して全員が頷いた。
「そうか。なら、そうだな。アメジス、ラジール。二人に一つお願いしたいことがある。
後日、いつも鍛錬してるメンバーと模擬戦をして欲しい」
ラジールとアメジスは互いを見やり、ディアーに対し了承した。
「おいおいちょっと待てよ。俺は?」
クルセイドが自分も連れて行って欲しそうにディアーを見る。
「あー、うーん……。まあ、邪魔はすんなよ」
「よっしゃ」
クルセイドも参加することが決まり、衝撃の招集が終わる。
2、格上との戦い
今日は鍛錬の内容を大幅に変更し、先日ディアーが言っていたように模擬戦が行われた。
リース、ガーラはクルセイドと、卯月、エンジはラジールさんと、私とフェイはアメジスさんと模擬戦を行うことになった。
みんなの模擬戦が終わり最後に残った自分の番になった。
「よろしくお願いします」
「ああ。いつでも来て良いぞ」
まず始めにアメジスが間合いを詰めて数合、その後渾身の一撃を放つ。それを私は同様の手順で返す。いったん距離をとるアメジス。
私は嫌な気配を感じ取る。そして首を守るように槍を構える。と、そこにアメジスの斬撃がやってきた。
これは、ハイド!?
魔力を足に込めて一瞬で間合いを詰めるクイックムーブ通称クイック。そのクイックには3種類ある。基礎のベーシック、空中で疾走するスカイ、そして今回アメジスが使った、動いたことを気取られないハイドだ。
私が最近覚えたのがベーシックで、スカイ、ハイドはどちらも高難度と言われている。
それをたやすく使いこなすアメジスを見て、改めて強いと感じた。
「よく凌いだ。なら、これはどうだ?」
アメジスは次に高速の斬撃をこれでもかと繰り出してきた。私は防戦を強いられる。そこでまた嫌な気配を感じ取る。連撃が途切れた一瞬の間を利用して利き足を守る。そこにハイドで横に移動したアメジスが利き足めがけて斬撃を繰り出した。
「ハアッハアッ」
呼吸が乱れる。
「ほほう。だが、次は防げるかな?」
私は連続して嫌な気配を感じ取った。本能に従いそれぞれ首、腰、左肩、右足を守る姿勢を順に行う。するとどうだろう。いずれもハイドでヒットアンドアウェイで首、腰、左肩、右足に斬撃がくる。全てを防ぎきった私は全く余裕がなかった。
「……ふむ」
と、槍を落として思案にふけるアメジス。
「ハウト、ここまでにしよう」
「えっ!?」
「体力的にはまだ余裕があると思うが、このままでは千日手なのでな。まずは、私と
互角に戦えたことを褒め称えよう」
「あ、ありがとうございます!」
まさかブリングと互角に戦えるアメジスさんからお墨付きをもらえるとは思わなかった。正直言ってかなり嬉しい。
「だが、直感に頼りすぎるのは危険だからちゃんと頼らずに防げるようになることだな」
「は、はい!」
「よし、みんな終わったな。それじゃ、最後にみんなで協力してくれた3人にお礼を!」
「ありがとうございました!」
みんなでお礼を言う。
今日の鍛錬は非常に充実したものになった。
3、別れの日
模擬戦から4日後。
鍛錬組とディアーさんで彼らを見送る。
「元気でな」
ラジールさんはその一言を最後に去ろうとする。
「暇な時に遊びに来いよな。今生の別れってわけじゃねえからな」
ディアーさんがそう言うと、8人はそれぞれ笑顔を浮かべた。
「……では、な」
ヴォイドさんの最後の言葉で彼らはゲートを使って、そしていなくなった。
私は思ったよりあっけない別れにさみしさと戸惑いを感じていた。
「ま、みんな思うところもあるだろうが、ひとまず帰るぞ」
ディアーさんの言葉に従いみんなゲートを後にする。
こうして、フェイス領にとって大規模な引っ越しが行われたのだった。




