6 レレ・アルティナ
夜空には点々とした星々が見え、宮殿から見下ろした街には街灯の明かりが淡く光って見える。
きっと淡く光って見えるのは微精霊なのではと思う。
「お隣いいですか?」
「どうぞ」
床と椅子の剃り合う音が聞こえて、よいしょと言って座る金髪ロング碧眼少女。
「貴方の目……美しいですね」
「そうですか……ね?」
「はい。それに左目の碧眼、私の目の色と同じ色をしていてなんだか親近感が湧きます」
僕も不思議と親近感が湧く。
それは今に限った事ではなく、初めて会った時から。
「あの…名前聞いても宜しいですか?」
「はい、霧峰 雄仁と言います…」
「わぁ!珍しい名前ですね!」
「はは…良ければ貴女の名前も聞かせて欲しい…です」
「レレ・アルティナです」
金髪ロング碧眼少女は名をレレ・アルティナと名乗った。
その時の僕は脳内でレレって呼んでいいのかな?!とか思っていた。
僕は自然と頬が緩む。
「そういやレレってワグナー王の娘なの?」
しれっとレレと呼ぶ僕は内心、名前で読んだことに少し焦りを覚えている。
女の子を名前で呼ぶことは、今のが初めてだ。
レレには親近感を覚えていたので自然と名前で呼んでしまった。
話す口調もつい、友達と話す感覚になる。
そんなことは気にせずにレレは話す。
「そうですよ、レレ王女って呼んで構いませんよ…うふふ」
手を口に当てて、微かに笑うレレの表情は愛おしい。
「いや、レレって呼ぶよ」
「分かりました」
レレの目は依然として柔らかな目付きで、瞳の奥は全てを和ませるような穏やかなオーラを纏っている。
「雄仁さんは温和な人ですね。私は父様に一張一弛な性格って言われるんですけど、そこら辺雄仁さんは私の事どう思います?」
「まあ僕は、穏やかで優しそうで可愛げのある女の子と思ったよ」
「……嬉しい」
微かに頬を赤らめて外方を向くレレに対して僕は
可愛いなとか思いつつ、ある一つの質問を投げかけた。
「レレは神の使徒である僕の事を様呼ばわりはしないんだな。…………あっいや、様呼ばわりして欲しいとかじゃなくてね…そのっ」
「そうですね……雄仁さんが本当の神の使徒様だったら様呼ばわりするかもですね」
「なっ!?」
なんとレレは僕が本当の神の使徒様だったら、と言った。
それはつまり、神の使徒ではないということがバレたという事だ。
今バレたのか、それとも前々からバレていたのか、それとも元々神の使徒じゃないという事が初めから分かっていたのか?
僕の頬には冷や汗が伝う。
温かいお風呂に浸かった後なのに、とても寒い。
「いつから…分かっていたの?」
「初めからです」
「はじっ…!?」
「別に私は雄仁さんを神の使徒じゃないということで宮殿から追い出したりはしませんよ」
「そっか……」
一気に心が安堵の気持ちで満たされる。
「咲希さんも神の使徒ではありませんよね?」
「そうだよ…」
やはり咲希の事も初めから神の使徒ではないという事が分かったらしい。
「ちなみにこの宮殿内で雄仁さん達が神の使徒ではないことを知っているのは私のみです。父様もアルトさんも皆、雄仁さん達を神の使徒と思っています」
「そうだよな。それが仮に嘘だったとしたらワグナー王の膨大な涙を流せる演技力は凄いって思うよ」
「父様をあまりからかわないで下さい!」
頬を膨らめて怒る姿はなんとも微笑ましい。
「それに私は雄仁さん達の対談をこっそり聞いていたんです」
「そうなのか」
「はい。神の使徒でもないのに世界を救うと言ってくれたあの瞬間、私は貴方以外の事を考えられなくなったのです」
「つまり僕の事をずっと考えてたの?それって告白?」
「ち、違いますよぉ!!」
頬を赤らめたレレは僕の背中を思いっきり叩き、椅子から落とす。
恐らく背中には綺麗な紅葉のマークが浮かび上がっていることだろう。
「いってぇ〜」
「す、すみません!」
「大丈夫だよ…」
僕は痛みに堪えて、ぎこちない様子で微笑む。
それに応じてレレも笑ってくれた。
それにしても二人共初対面ながらも、友達の如く会話出来ているのはお互いにシンパシーを感じたからなのかもしれない。
「てか、気になってたんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「なんでレレは僕達の事を神の使徒じゃないって分かったんだ?」
「うーんそうですね、雄仁さん達から漂う魔力が一段と無かったからですかね?」
「えっそれって僕は…魔法使えないの?」
「それは分かりませんが、神の使徒様は膨大な魔力をお持ちです。そんな神の使徒様の魔力がゼロに等しいとなると偽物しか有り得ません」
「それで見破ったわけか……」
「相手の魔力を正確に測れるのはガニディルムでは五人といません」
「その内の一人がレレなわけか」
レレって、意外と凄いんだなと褒めるとレレはドヤ顔した。
だが、僕はさらっと受け流す。
そんな感じでレレとの話は盛り上がっていた。
時間も忘れるくらいに。
「なんか…眠くなってき……た」
「そうですか…じゃあ私が子守唄を歌ってあげます!」
「いや子守唄聞く前に……寝ちゃい……そう……ぐぅ」
「あらっ、本当に寝ちゃったのですか?」
やはり疲れが溜まっていたのか、レレとの会話中に寝落ちする。
レレはそんな僕の背中に手を添えて、優しく叩く。
そして子守唄を口ずさみ、目を閉じる。
「おやすみなさい。雄仁さん」
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目を開けると日光が顔を照らしていて、思わず顔を顰める。
レレとの会話中で寝た事を思い出した僕はテラス内を見渡すと、咲希が立っていた。
「雄仁君、まさかここで寝てたの?」
「そうみたいだね」
「もうっ風邪ひいたらどうするの?」
「ご、ごめんって……」
咲希はどうせ寝ているだろう僕を起こそうと自室のドアをノックしたが反応がないために、起こさないと!と思って“しょうがなく”ドアを開けたら中に僕がいなかったから宮殿内を探し廻っていたらしい。そしてテラスで僕を見つけて歩み寄った。
「“しょうがなく”だからね!」
「あー分かったから……うん」
咲希は相変わらず面倒見が良く、オカン性格だ。
何かと理由を付けては身の回りの事を手伝ったりする。
過労死しないかな?と心配する程に。
だが、咲希は元気そうなので少し安心した僕だった。
「さあ、朝食食べにいこ!」
「もう出来てるの?」
「うん」
僕は今日のスケジュールを頭で思い浮かべる。
そしてふとレレの事を想う。
「レレに会いたい……」
と、心の中で呟く僕は、完全にレレに興味を惹かれつつあったのだ。
この回は、ほぼレレとの会話でしたね〜
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