5 瞑目して思う事
僕の発言にワグナー王は喜悦した。
「ほんっっとですかァ!!」
「おぅ、ホントですよ」
急に顔を攻められて思わず仰け反る僕。
手を両手で掴んできて、膨大な涙を流している。
「うううう、これで世界は救われたも同然だ!もう魔人達に怯える生活もなくなるんだァ!」
「ちょ、気が早すぎるような気もしますけど!?」
「ありがとう〜雄仁様に咲希様!この事柄を他国の友人に知らせないといけませんな!」
全く困った王だ。
神の使徒だが何だか知らないが、僕達は偽物の神の使徒なのに……
でも、そこまで喜ばれちゃ助けないわけにはいかない。
「ちなみにその…他国の友人ってのは……」
「四大王国の残りの三人の王ですぞ、咲希様」
『四大王国』ってのはワグナー王曰く、ガニディルムでの北、南、西、東にそれぞれ位置する、中立的な国の事らしい。
ラーセ王国も四大王国の中の一つの国に入ってる。
ちなみに、ラーセ王国は北に位置しているそうだ。
「話を本題に戻そう」
ワグナー王は一回咳をし、椅子に腰掛けると、今後の事について話してきた。
「雄仁様達が魔人達から世界を救って下さると、お申し出になった事についてはとても感謝し切れない気持ちで一杯でございます。」
「いえいえ、そんな。また頭を下げて畏まらなくても…」
「そこでです。これからの事について色々と伺いたいのですが、宜しいですかな?」
「はい…どうぞ」
「では。我々、ラーセ王国諸々は半年後に魔人殲滅戦を計画しております。殲滅するって言っても、極一部の数の魔人ですがね。魔人の潜伏先は割れてます。そこに四方を囲って乗り込むわけです。流石に相手が人間と言えど、強襲には打つ手も無いでしょうし」
「具体的にどのような戦法で?」
「それはですね、近衛騎士達が指揮を取り、約七団に分かれて魔人の潜伏地を囲むといったシンプルな戦法です」
「なるほど…」
「魔人の潜伏地は『ドレニア』という辺境の村なんですがね、最近植民地化されたばかりで……ドレニアの土地の所有権はラーセ王国が管理しているわけですが、国民はラーセ王国の領域内のドレニアが植民地化されると、このラーセ王国もいずれは植民地化されるのではないかと、心身に異常を来たしているんです」
「色々と大変なんですね」
「ええ」
僕は瞑目すると、色々と思考する。
ドレニアから魔人を殲滅しないと国民の不安は晴れない。
それなりに準備も兼ねて行くから半年後なわけで、僕的には今からでも行きたい気持ちで山々なんだが、それは仕方ない。
しかし、改めて考えるとワグナー王らは神の使徒の力は凄まじいものと思っているようで、魔人を一掃してくれちゃう?などと思っていそうだ。
予定の前倒しも有り得るかもしれない。
しかし、残念だがその凄まじい力とやらを持っていないので、前倒しされたら困る。
無能っぷりを堪能されて偽物が!と罵られて異世界生活は終わりを告げる…なんて結末になるかもしれない。
でも仕方ないのだ。僕達は神の使徒ではなく、演じているのだから。
それでも世界を救うと言ったからにはそれなりに力を身につけなくてはならない。
でも何からすればいいのやら……
このままドレニアに行ったら本当に異世界生活は終わりだ。
異世界生活を終わらせたくない。
「結構悩んでいるようですな」
「ええ……ちょっとですね……」
「顔色悪いよ、雄仁君……」
「平気だよ、野多目さん…はは」
僕は一度ワグナー王に聞いてみることにした
「ワグナー王。魔人殲滅戦をおこなう予定は半年後ですが、前倒しとかありますか?」
「ええ、勿論です。雄仁様達には期待を添えていますので」
前倒しは必ずおこなうと分かった上で再度瞑目する。
もしかしたら、半年後から一週間後になったりする可能性も考慮しなくてはならない。
つまりは時間がない。
僕はドレニアに行くまでの時間はとにかく力を付ければいいと思った。
力を付けることに関しては、のちほど考えることにする。
「取り敢えずはドレニアに行く準備をします」
「では魔人殲滅戦に参加するという事ですね?!ならば心強い他に無いです!」
「雄仁君が行くなら私も準備します」
「近衛騎士アルトも準備を致しましょう」
これでいつ決行するか分からない、ドレニア魔人殲滅戦への参加と共に僕は力をつける事を決意した。
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「ふぅ〜癒される〜」
ライオン似の彫刻像の口から流れる温水が囲い一杯に注ぎ込まれる。
囲い一面に張った温水はタプタプと揺れ、湯気を出している。
その温水に浸かる一人の少年がいた。
僕ーーーー雄仁だ。
あの別室での対談があった後、
とんでもない事態に気づいた僕達。
そう、衣食住はどうするのかとーーー
そこでワグナー王が神の使徒である貴方がたなら是非この宮殿へとお招きしますよ、と親切に対応してくれた。
飯も風呂も提供してくれた。
もし自分達が神の使徒と名乗っていなかったら今頃どうなっていたのかと思うと、少し身を縮めるが。
少し腹が減ってたので僕が先にディナーを取り、咲希が大浴場に入った。
ディナーに出された食事はとても豪華なもので、専業シェフの腕に拠り所をかけて作ったフルコースは頬っぺが落ちる程の美味しさだった。
どれも見たことがない食品だったので、きっと異世界にしかない食材で作ったのだろうと思った。
食堂には勿論あの可憐な少女も座っていた。
金髪ロングの碧眼美少女。
僕は何となく親近感が湧いた。
今は咲希と交代して大浴場に浸かっている。
咲希と入れ替わる際に咲希が、お風呂の水飲んだりしないでよね!とか言ってきたので、しないよ!と言い返してやった。
それにしても宮殿の大浴場に自分なんかが浸かっているなんて信じられない。
そもそも異世界に来たこと自体が信じられないんだが。
今日は本当に驚きの連続だ。
僕はそう思っていると、長時間大浴場に浸かっていたせいか、のぼせてしまった。
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夜風を肌に感じながら、風呂上がりの僕はテラスの椅子に腰掛ける。
僕と咲希にはそれぞれ自室が用意されており、咲希は先に自室に戻った。
「取り敢えず明日はアルトの言っていたラーセ図書館にでも行くか……」
ラーセ王国についての歴史も知りたいし、そして力をつける為に知識などを得た方が良いのでは?と思い一度出向いてみようと思った。
明日にはワグナー王にもちゃんと伝達しておこうと思う。
そんなことを考えていると、テラスに誰かが入ってきた。
僕が誰だろう?と振り返るとそこには
「少しお話したいのですが、宜しいですか?」
「あ、どうぞ…」
可憐な金髪ロング碧眼少女が立っていた。
一方で自室に戻った咲希は寝落ちして夢の世界へと誘われていた。
どんな夢を見ていたかは、咲希のみぞ知るのだがどうやら寝言で
「金髪…むにゃ……雄仁君はわた…しの……むにゃむにゃ」
と言っていた。
どうやら先で波乱の展開が待っていそうだった。