4 ガニディルムの現状
「さあ、着きましたよ」
アルトに手を持たれて、荷台から降りると、目の前にそびえ立つ宮殿を見やって、その大きさに目を見開いて口を開けたまま呆然とした。
「で、でかい……」
「そう…ね、予想を遥かに超えたわ……」
第四十代ラーセ王国、ワグナー王が住んでいる宮殿、それは全長約百メートルを優に超える大きさだった。
アルトは馬と柵とを紐でつなぎ止め、僕達の所へ歩いてきた。
「さあ、中へ」
アルトが先頭を歩き、後に続いて僕達も歩く。
正門を潜ると中庭が見えた。
とても整備が行き届いていて、空気も美味い。
噴水近くのベンチに座って昼寝でもしたいなとか思ってみる。
すると、前方に何やら多数の人影が見えた。
黒を基調としたコートを羽織り、蝶ネクタイを付け、髪を清潔に整えている。
執事だろうか、真ん中の道を空けて、右側と左側にいる執事が向かい合って敬礼をしている。
お互いに真ん中の道へとこれから通る僕達に敬礼をしてるかに見えた。
アルトが真ん中の道を通ると、僕と咲希も続けて道を通る。
そして宮殿の入口へと着く。
アルトがドアを開けて中に入ると、神々しい雰囲気を纏った空間が現れた。
シャンデリアや額縁に飾られた絵、階段の手すりやドアノブまで……全てが煌びやかだった。
「す、凄い……」
「お、おー…きゅ、宮殿ってやっぱ凄いのね……」
僕達は口をポカンと開けて突っ立っていた。
驚きの連続だ。
「こちらの階段からお上がり下さい。」
「は、はい。」
「あ、アルトさん……私立ちくらみが……」
倒れそうな所で咲希を優しく受け止めるアルト。
「大丈夫ですか?」
「はい」
「アルトさん、この扉は?」
「その扉をお開け下さい。その先でワグナー王がお待ちです。」
僕は緊張しながらもドアを開け、足を突っ込む。
「やっと来られましたな、神の使徒様よ」
僕にワグナー王とおもしき人物が敬礼してきた。王が跪くという何ともシュールな光景を横目にしながら、玉座の隣に座っている一人の可憐な少女だけに焦点を合わせる。
金髪ロングの碧眼少女は無言で見つめ返した。
すると、無視されたのが気に食わなかったのか、ワグナー王がすかさず横槍を入れる。
「む、無視は酷いですなぁ神の使徒様」
「あ、すみません」
僕はもう一度少女を一瞥すると、後から入ってきた咲希とアルトを見る。
「神の使徒様を連れて戻って参りました」
「ご苦労、よくやったぞアルト。さあ神の使徒様こちらに」
ワグナー王は話し合いの出来る別室へと移りましょうかと言い、別室へと案内しようとする。
僕は最後にもう一度少女を見て、玉座の間を後にした。
何だか少女を見ていると不思議と悠久の時間を過ごした気持ちになった。
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別室へと移った僕達は目の前の椅子に腰がけ、ワグナー王と向かい合った。
隣には咲希がいて、ワグナー王の隣にはアルトが立っている。
ワグナー王は金髪オールバックの碧眼、ガッチリとした体型をしていた。そして長くて白いローブに腕を通さずに羽織っている。
ワグナー王は興味津々な様子で僕に話しかけてきた。
「いきなり失礼で御座いますが、その目は生まれつき何でしょうか?」
「生まれつきではないですが、幼少期に見られるようになった症状です。」
「症状ですか……とても美しい目をしてらっしゃいます。」
やはり異世界ではオッドアイを美しいと評す。
「そちらの貴女も、とても整った顔をしてらして、美人ですな」
そう言われると咲希は照れた。
つい僕も横目で咲希の顔を見てしまう。
「アルトよ、神の使徒様の名前は何と申すのか?」
「いえ、まだ存じておりませんぬ。」
「そうか、神の使徒様。貴方がたの名前を是非聞かせて頂きたい。」
ワグナー王はそう言って、名前を聞くのを静寂に待っている。
日本人の名前はこの世界にとっては珍しいからきっと驚かれるだろう。
そんなことを思いつつ、自分の名前を公言する。
「霧峰 雄仁です」
「なんと!?珍しい名前ですな!」
僕の思った通りに反応を示すワグナー王。
僕に続いて咲希も名前を公言した。
「野多目 咲希です」
「なるほど、流石神の使徒様は名前から違いますな」
と、笑い声を上げた。
「以後、雄仁様と咲希様と呼ばせていただきます。」
「は、はい」
「か、構いませんよ」
僕と咲希はまたしても目上の人に今度は様呼ばわりされる状況について顔を難しくした。
ワグナー王の隣にいたアルトは、名前を聞いて驚嘆していた。
「それでは雄仁様、咲希様。本題に入らせて頂きたいと思います。」
ワグナー王がそうやって畏まると一方的に話しかけてきた。
「貴方がたが存じているかは分かりませんが、今この世界『ガニディルム』では、人間と魔人・魔獣との争乱が激しい状況にあります。長年に渡って敵対し続けた我々人間ですが、今は見る影も無い状況に陥っています。既に何割か魔人達に侵略されて植民地化された村も多々あります。我々はここで敗北なのか……と思っていた矢先!貴方がたが天よりやって来たのです!私はその時確信しました。貴方がたなら魔人達をきっと殲滅出来ると!」
一気に話しかけられて耳が痛かったが、それでも大体理解出来た。
あの時の国民の男達が言っていた事と大差変わりない。
つまりは、この世界はガニディルムと言って、日々人間と魔人達との戦争が絶えなかった。
そんなある日、人間側は魔人達に追いやられ遂に敗北を覚悟した訳だが、その時に僕達、神の使徒が天からやって来たので救いの手を求めたという事だ。
まあ国民に世界を救うと言ってしまったからには断る理由も見当たらないが……
「それで、雄仁様、咲希様。ガニディルムを救っては頂けないでしょうか?」
僕は咲希と目を合わせる。
王都での僕の言動を知っている咲希は、やはり同じことを言うんだろうなという顔つきで僕を再度見つめ直し
「好きにしたら良いよ」
と、優しく言い放った。
そして僕は
「ワグナー王、僕達はこの世界ガニディルムを魔人達の手から救って見せます!」
と、見事に断言したのだった。