3 精霊大国
荷台の中はとても整備されていて、埃一つ無かった。
僕と咲希はソファに座って脱力する。
僕も咲希も結構疲労が溜まってたみたいだ。
ソファは体重に応じて沈んでいき、手で触ると、ソファが弾んで気持ち良かった。
「なんか眠くなってきたね」
「うん、そだね」
僕と咲希は双方共に目が何処か遠い所を見ていて、今にも寝そうな感じだった。
アルトのいざ、宮殿へ!の一言が聞こえて、馬が走り出す音が聞こえてきた。
今から宮殿へと向かうみたいだ。
アルトは馬に乗りながら、ふと後ろを見やって
「乗り心地はどうですか?神の使徒様」
と、言ったが二人が寝ていることに気づくと
アルトは前方を見やって少し微笑んだ。
馬は歩を進めたばかりで宮殿にはまだ程遠い。
そんな中で僕達は夢の世界へと誘われた。
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目を開けると、ぼんやりとした中で天井が見えてきた。
何処だここ?とか思いながら目を擦る。
ゆっくりと上体を起こすと、まだ隣に寝ている咲希を一瞥し、僕はようやく自分が宮殿へと向かう途中の荷台の中で寝ていたことを思い出す。
「もう宮殿着いたかな……」
と、一言呟くと
「いえ、まだでございます。神の使徒様」
と、アルトが言ってきた。
「それにしてもお疲れな様子ですね?」
「そうなんですよ、まだ眠気がとれて…ふあ…ないんですよ」
欠伸をした僕をアルトはスルーして話を続ける。
「そうなんですか。少しばかり気になりましたが、神の使徒様が私に敬語を使わなくて宜しいんですよ?」
「いやそう言われましても…目上の人に敬語を使うのは当たり前かと……」
「そうですか、神の使徒様は私より年齢は下でございますか。しかし、年齢など関係ありません。神の使徒様はどうあっても敬うべき存在なのです。神の使徒様は今後、何か不自由な点がございましたら、何なりと申し付け下さい。」
僕はひとまず頷き、目をつぶる。
改めてこの世界の人々の神を敬う心は凄いんだなと痛感する。
日本で神を敬っていたのは仏教の信徒くらいだったってのに。
僕は目上の人に敬語を使われたことに対し、少し難しい表情をした。
すると、隣で咲希が目を覚ました。
「うゆ、もう朝……、お母さん、朝ごはんの用意……して」
どうやら咲希は寝ぼけているようだ。
甘えるような声に猫のように手で顔を擦る仕草、それをみた僕は心を射抜かれる。
「か、可愛い……」
と、心の中で思った。
内なる自分が好きになるって言うのはこういう事だよって教えてきた。
やはり……僕は……咲希の事が……
「ん……はっ!雄仁君何でいるの!」
「な、何でって言われても…ねぇ」
すると、咲希はやっと自分が何処にいるのかを思い出して、顔を赤らめた。
「雄仁君……私何か言ってた?」
「………………言ってないよ」
「今の間は何?!あ〜やっぱり私、寝言言ってたんだァ!聞いちゃったんだよねぇ雄仁君は……もう恥ずかしい…」
照れた咲希も可愛い。
流石に寝言の内容までは覚えてないようだ。
咲希は人当たりの良く、裏表が無い女の子だ。
普段は誰かに甘えるような事はせず、時に誰かを手伝っていた咲希だったが、僕はついさっき見てしまったのだ。
寝言とは言えど、咲希がお母さんに甘えている光景を!
僕は咲希でも家の中では甘えるんだなぁと微笑ましく思うのだった。
依然として咲希は顔を赤らめていたが。
「野多目さん…あの僕気にしてないから」
「そういや、雄仁君!いつになったら下の名前で呼んでくれるの?」
「え、えっと……」
「わ、私は……下の……名前で呼んで欲しいかなって……思ってるんだけど」
と、上目遣いで言ってくるのがずるい。
「野多目さん。言っとくけど下の名前で呼びあっているとなんか……カップルみたいだよ?…」
その一言で互いに頬を赤らめた。
その光景を見ていたアルトは、水を指しちゃいけないなと思い前方を見やった。
周りから見ると、二人はイチャラブしているように見えたのだろう。
僕は振り返って咲希を見ると、目があってまた振り返る。
「もしかして、野多目さんも僕のことを好きだったりする?」
と、本人には言えない様なことを心の中で呟く。
僕は一度頭を冷やそうと窓を見やる。
色んな店が経営していて、熱気と活気に溢れていて、お客も沢山並んでいる。
どうやら商売繁盛しているようだ。
すると、窓に近づいて一握りの淡い光が照った。
目を凝らしてよく見てみると、結構な数の光が王都内を照らしているようだった。
「あのっアルトさん。質問いいですか?」
「アルトで宜しいですよ。はい、質問とは何でしょうか?」
「この王都内には小さい光が沢山見えるんですけど……何ですかね?これは」
「ああ、それは『精霊』ですね、淡い光のものは精霊となる前の段階の微精霊です。」
「つまりこの光は皆、微精霊なんですね……」
「雄仁君、ロマンチックだね~」
「……そうだね」
微精霊なんて初めて見た。
そしてちゃっかし咲希がデートしているような雰囲気を醸し出してきて驚嘆する。
「ラーセ王国は別名『精霊大国』と言われております。国内はどこもかしこも微精霊で満ち溢れています。稀に精霊に会える時もありますよ。」
「へぇ~凄い。アルトさん、精霊には触れていいのでしょうか?」
と、咲希が問う。アルトは
「問題ありませんよ。しかし、『邪精霊』には触れてはならないですよ」
と、言った。
僕と咲希が邪精霊?と首を傾げると、アルトは邪精霊について語ってくれた。
アルト曰く、邪精霊は精霊とは真逆の存在だと言う。農作物を荒らしたり、謎の奇病をもたらしたり……と、昔は邪精霊対策でそれなりに大変だったらしい。
現在、こうしてラーセ王国内に微精霊や精霊で満ち溢れているのは邪精霊から国を守るためなのだそうだ。
初代ラーセ王国、王の『ラーセ・アルティナ』の粋な計らいで今の様な現状に至るとのこと。
それが功を奏したのか今は邪精霊はやって来なくなり、安全な王都を維持出来ているとの事だった。
「ラーセ王国の詳しい歴史の詳細は、この国にある世界最大の図書館『ラーセ図書館』にて全て大切に記録されておりますので、時間があったら足を向けるのが宜しいかと。」
「「そうします」」
と、僕と咲希はラーセ王国の歴史に興味を持つのだった。
暫くして商店街を抜けた。
「それにしても神の使徒様の目はとても美しいですね」
「オッドアイの事ですか?」
「はい」
「そうですか、あまり褒められたことないのでなんと言えばいいのか……」
日本では避けられていたこの目も異世界では美しいと評されるようだ。
すると咲希が小声で
「私は雄仁君のオッドアイの目……好きだよ?」
と、言って微笑んだ。
僕はなんだかオッドアイの目が少し好きになったかもしれない。
そして、咲希の事も……
話をしているうちに宮殿が見えてきた。
馬が街道を走る音が等間隔に聞こえて、荷台の車輪が小石を乗り越えて揺れる衝撃を身体で感じて。
そして、ほのかに碧眼と金眼に極細な電気が走ったことに気付かずに。
宮殿で待っている新たな出会いがあるとは知らずに僕は心を揺さぶるのだった。
次回から新ヒロインの登場です!