1 二人家の中
僕は一時の夢を見ていた。
脳が自然に学校の教室にいる光景を思い浮かべる。
窓際の前から三番目の席に座っている僕の隣には咲希が顔を近づけて僕の顔をじっと見ていた。
そしてほのかに微笑む。
僕はそんな咲希の笑顔に見とれてしまい、頬を赤く染め上げる。
そんな僕に咲希はまた可愛いねと一言呟く。
心の何処かで感じていたのかもしれない。
自分は咲希の事が好きなのだとーーーーーーーーーー
僕はこの時間が永遠に続いてほしいと願った。
が、外からの衝撃で強制的にその時間は終わりを迎える。
「起きて!雄仁君!」
何やら声が聞こえて、目を開ける。
するとそこには咲希が女の子座りで僕の身体を揺さぶっていた。
どうやら身体を揺さぶられたことによる衝撃で目を覚ましたようだ。
現実を見て、あれは夢だったのか……と少しげんなりする。
僕は身体を起こし、辺りを見渡す。
床の一部からせり出した木の板、飛び散った木片、そして机や椅子が散乱しており、天井には石の様なものに明かりが灯っている。そして僕の真上には大きな穴が空いていた。
破壊された家内を見る限り、まだ破壊されてそんなに時間が経ってないらしく、空き家ではないらしい。
空き巣にでもあったのか?と思う。
ふと、自分の尻を着かせている床を見て疑問に思った。
「野多目さん……僕達のいる所だけ床に出来た穴が深いと思わない?……」
「そうだね……」
僕は一つの仮定を生み出した。
一つ、天井に出来た大きな穴は僕達が天井を突き破ったために出来た痕跡。
二つ、床の大きな穴は僕達が落ちてきた勢いでぶつかったために出来た痕跡。
三つ、家具の散乱は、床が爆ぜた時の衝撃で吹き飛ばされたのが原因かと思われる。
つまりは、何らかの形でこの家に天井から落ちてきたのだ。
「この状況はやばいよね?」
「そうだね、今ここの家の人が帰ってきたら私達は空き巣犯人呼ばわりされるね」
「それは困るんだが!」
僕は頭を抱えて、悩み込む。
ここを早急に逃げる手もあるが、僕達は空き巣犯人ではないので逃げる必要は無い。
逆に逃げると怪しまれる。
それか家の人に真実を口走って謝るか。
きっと疑いは晴れないだろう。
結局僕達は、疑いが晴れずに逮捕される道しか残っていない。
実際に誰かに濡れ衣を着させられた訳ではなく、家内を破壊したのは自分達であるため反抗は出来ない。
外が騒がしい。きっと屋根が急に爆ぜたことによって住民が騒いでいるのかなと解釈する。
さっきから僕が色々と試行錯誤している隣で咲希は
「ボソッ…雄仁君と二人っきり……」
とか言っている。丸聞こえである。
美少女にそう言って貰えて、心が高鳴るが今はそんな状況ではない。
すると、ある事に気づく。
「あれっ、光樹と成岡さんは?」
「ん?あっそういや見当たらないかも。」
そういや何か忘れている気がする。
咲希も僕と同じよう首を傾げている。
僕は一つ一つ記憶を掘り起こそうとする。
光樹と七瀬は何処へ行ったのか。
そもそもここは何処なのか。
今は何時なのか。
咲希が自分のバックの中に手を突っ込みスマホを手に取る。
すると咲希は少し驚いた顔で
「圏外……」
と呟く。
二人共格好は制服なので学校にいた事は確かなのだが、大事なことを無理やり忘却させられた様な感じで思い出す事が出来ない。
「ねぇ雄仁君…」
「ん?」
「私達家に帰る途中だったよね?その時に正門近くで急に謎の音と共に光に包まれて……」
「ハッ!」
咲希の一言で僕は目を見開き、それだ!と言わんばかりに叫んだ。
咲希はそんな僕に驚嘆していたが、少し端に置いておく。
僕の脳内では今やっとパズルの一つの空白にピースが埋まった。
「そうだよ…何で忘れてたんだろう」
正門で謎の轟音と共に出現した光。
地面に刻み込まれた魔法陣。
そして徐々に消えていく僕と皆。
そして現在、消えた僕達が学校とは違う別の場所へといること。
光樹と七瀬がいないこと。
そして、この家の天井にぼんやりと発光する石が括りつけられていることから、どう見ても日本の健在している家とは違うこと。
これだけの証拠があるなら、認めざるを得ない。
そうーーーこれはーーー
「異世界召喚…!」
「え?!」
理論上、こう考えるのが妥当だ。
元々、異世界召喚なんてアニメや小説の中での話なのだ。
現実に異世界召喚がおこなわれるなんて誰が想像出来る?
誰しも一度くらいなら異世界召喚されてみたいなと思うことはあるだろうが、実際におこるなんて世界の理から外れている。
だが、現に異世界召喚がおこなわれた。
「雄仁君それほんと?」
「多分ね。魔法陣とか異世界にしか無いよ。」
「学校にいたのに、この見知らぬ家にいるってのは?」
「きっと魔法陣が起動して転移が起こったんじゃないかな?その転移で別世界に来た……。」
「じゃあ光樹やナナリンがここにいないのは……?」
「僕達とは別の場所に転移されたか……」
つまりは、離れ離れになったのだ。
僕はひとまず家のドアに手をかける。
「立ち止まっても何も始まらない」
「そうだね、雄仁君」
咲希が僕の手を掴み、立ち上がる。
僕は色んな意味で緊張しながらドアノブを捻り、ドアを開けて
二人で光が指す外へと足を踏み込んだ。