検査
班目からの依頼品は、小さな針金だった。形が特徴的で、8の字とS字を組み合わせたような知恵の輪のような形状をしてる。
しかし、針金が入っていた封筒がにんにく醤油くさい。久保は少し眉間にしわを寄せる。
実体顕微鏡で観察すると、薄黄色半透明の粘着物、赤褐色の固着物が認められた。
久保は針に極微量の水をつけ、それで赤褐色の固着物を触る。
固着物はわずかに柔らかくなり、溶けた。水溶性のようだ。
異物を検査する際には付着しているものは非常に重要な情報を握っていることが多い。
そのため、洗い流してしまい捨ててしまっては、その情報を捨てていること同じであるため、付着物には十分に気を使わなくてはならない。
久保は冷凍庫から薄黄色の固形物入ったサンプルチューブを1つ取り出した。
薄黄色の固形物が徐々に溶けて液状化するのを待ちながら、珈琲を片手に依頼品の大きさを測定する。
針金に磁石を近づけるとわずかに動いた。弱い磁性があるようだ。
液状物が完全に溶けると、過酸化水素水を加え、これを少し採取した付着物に滴下し、暗室へと向かう。
真っ暗闇の暗室で、わずかに青白く光る点状物が見えた。
ルミノール反応、陽性。
どうやら、赤褐色の固着物は、血液(を含むもの)のようだ。
ルミノール指示薬は、通常その都度調整するものだが、サンプルチューブに少量取り冷凍する方法は、異物分析を副業にしてから考えついた。
残りの付着物である粘着物は、水に漬けると柔らかくなる性質とIR分析でセルロース由来の吸収ピークが検出されたことから、セロハンテープと分かった。
再び久保は依頼品を実体顕微鏡越しに覗きこむ。
傷はそこまで多くないが、両端はペンチで切ったように山型になっている。
金属の成分を図るためには付着物を綺麗に取り除かなければならない。
その前に、久保は、デジタルマイクロスコープで入念に針金を撮影した。
その後、針金を綺麗に洗浄し、乾燥させたのち、針金の材質を特定するため電子顕微鏡でEDS分析を行い、材質を調べた。