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EXTRA MISSION:神秘古代跡嶺を探索せよ!⑦

「まったく!あれほど勝手に行動するなと言ったのに、あいつらに学習能力というものはないのか!?」


 あれからしばらくして、周りが騒がしくなっていることに気づいたリンが起きてきた。伶和とネオンのフォローも虚しく、零弥とクロムが魔物退治に向かったことが露見。怒髪天を衝く勢いでリンは駆け出した。

 その時たまたま目が覚めてしまったフランを引き摺って。


「でもリンちゃん…魔物退治に行ったって言っても、どこにいるのさ?」

「レミが置いていった精霊に問いただした。どうやらあいつら、今地下水脈で魔物と戦っているらしい。」

「地下水脈ぅ!?」


 零弥の魔法によって自由意志を与えられた存在であるかの精霊たちは、魂属性の“支配”の影響により基本的に絶対的な忠誠を誓っているため、零弥の意思に反することはしない。

 零弥がクロムと二人で出たのはなんとかなると思ってのことというよりは、周りを巻き込みたくないという意思があったためである。

 その為、彼らも零弥の邪魔になるようなことはしないはずであったが、土の精霊ノーンは案外あっさりと零弥達の居場所を教えた。


「レミの契約した精霊があいつの不都合になるようなことを私に教えるわけがない。つまり、あいつは私が行かなければならないほどの苦境に立たされてるってことだ。」


 リンの表情は怒りよりも遥かに強い焦りで歪んでいた。

 フランはその顔に、かつて自分が自身の体質に悩み、ふさぎ込んでいた頃の姉の面影を見た。今や何かと厄介ごとを持ち込む彼女だが、あれはあれで理想的な姉として振る舞おうとした結果なのかもしれないとも思う。しかし、貞操を狙ってくる今のアレは完全にアウトである事だけは否定できないのであったが。


「よし、ここ…だ……なぁ!?」


 たどり着いた場所はかつての規模が想像できるほどの大きな間欠泉の枯れた穴、の筈だった。

 そこは一際大きく陥没した跡があるものの、零弥達が飛び込んだとされる竪穴は無かった。


「え、もしかしてこの窪みみたいなのがレミっち達が向かった地下水脈に続いてるの?」

「精霊に聞いた限りではここから地下にある空間にレミがいる。そこは下にある滝から沸いている水が流れている水脈…なのに。」


 リンはハッとして何かを見つける。窪みの中心に光るものを見て近寄る。それはクロムが降りるときに掴まっていた零弥のナイフである。


「そんな…レミ!」


 リンの思考が恐怖と絶望に塗りつぶされる。

 もはや想定された最悪の事態。考えたく無かった可能性が突きつけられてしまい、リンはどうしていいかわからずに動けなくなる。

 一方でフランは何事かを考え込んでいたかと思うと、よしと決意的な表情で動き出した。


「リンちゃん、まだ諦めるのは早いよ。レミっち達はまだ助けられる。」

「ふらん…?」


 リンの肩を掴んで意識を引き戻す。今にも泣き崩れそうなリンの表情は、どこかそそられるものもあったがぐっと堪えてフランは続ける。


「下からまだ何か地響き見たいのが聞こえる。多分二人はまだ魔物と戦ってる。

 僕らは二人が帰ってこれる道を作ろう。」

「でも…どうやって?」

「上手くいくかわからないけど、やってみようと思うことがあるんだ。」


 フランのいつになく真剣な表情にリンはそれに賭けてみる価値はあると、頷きを返したのであった。



(…万事休すか。)


 諦念を孕んだ表情で零弥は膝をつく。

 クロムが毒に倒れ、零弥はクロムを抱えこの場を離脱しようとしたその時、一層強い咆哮を上げて竜がもがいた。暴れて壁に当たった衝撃のせいだろうか。天井で大きな音がして、入り口の間欠泉が崩れて閉じたのだ。

 こうなってはもはや助かる見込みはない。このまま竜に殺されるか、閉じられた地下で窒息するかのどちらかだろう。

 唯一の救いかは知らないが、【思炎】は酸素を必要としないので、遠慮なく焚くことができることだった。


(…いや、まだやれることはあるか。と言ってもただの博打、しかも勝算はほぼ無しときた。)


 零弥の視線は横で流れる水脈に注がれる。つまりこの地下水脈に乗っていけばもしかしたら外へ出れるかもしれないという希望的観測である。

 一応この水路は外の滝に出ているが。その滝も細い亀裂のようなところから出ている。そこを人が通れるかなどと、分かり切った問いに苦笑しか出てこない。

 そしてとうとう零弥は自分が死んだらどうなるかを考えはじめた。


(ここで死んだら…兄貴には示しがつかないな。伶和を置いて行っちまう事になるけど、アクトさんもリンさんもネオンもいる。なんとかなるだろ。

 レーネ…。あの子にも悪いことしたな。ネオンとは上手くやってくれるだろうか?

 で、俺は…まぁ、ここで朽ちるか、アレに喰われるかだな。)


 その時ふと、自分の身体が小刻みに震えていることに気づく。体の不調かとも考えたが、なんてことはない、死ぬことに対して恐怖しているだけだった。

 そして、再びの咆哮が窟内に木霊する。


「ちっ…五月蝿えよ。貴重な酸素を使いやがって。」


 酸素不足が零弥の思考を蝕み始めていた。苛立ちは収まらず、ふらりと立ち上がると手に巻いていたリストに仕込まれていたナイフをズラリと取り出し構える。


「地中は俺の領域だ。悪いがここでお前には死んでもらうぞ。」


 ナイフに魔力を込めていざ投げようとしたその時であった。

 零弥は背後から感じるおぞましい気配にその場を飛び退くと、何かが闇の中走り抜けていくのが見えた。否、「感じた」。

 【思炎】の灯りはもともとそれほど明るくもないのだが、ソレが現れてから一層辺りが暗くなったように感じた。

 ソレは竜の懐に入ると、鋭利な爪を剥き出し、一瞬にして首元、肩、脇腹を抉った。肉を抉られる痛みに暴れる竜を蹴り飛ばし、ソレは竜の背に乗ると、尻尾に喰らい付き、その肉を食い千切った。

 あまりにも惨い痛みに竜は堪らず飛び上がるようにその場を離れ、壁際に倒れこむとビクビクと痙攣するかのようにその痛みに呻き続けていた。

 竜を襲ったソレは口にくわえた肉を吐き捨てる。いや、よくよく見るとそれは肉ではなく竜に張り付いていた黒いスライムであった。ソレは竜を殺すためではなく、竜に付いたスライムを引き剥がすために襲ったのだと知ることができた。

 零弥は愕然としてその光景を眺めていただけだったが、ソレから感じていた悍ましさが気が抜けたように消え失せ、ソレが倒れ込んだ事がきっかけとなりハッとしてその正体を確かめに近づいた。

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