表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/116

EXTRA MISSION:神秘古代跡嶺を探索せよ!⑥

「…………今だ!」


 零弥の合図を受けてクロムは夜葬の引き金を引く。

 魔力弾の着水の飛沫は、それよりはるかに大きな波に掻き消された。水流の流れは変わり、横っ面に魔力弾を打ち込まれたそれは、零弥の張った網にぶつかり水流から飛び出した。


「こ、こいつが!?」

「思いの外…面倒な相手だな。」


 それは巨大なヘビ、否、竜であった。その姿は文字通りの蛇足。白い鱗で覆われたヘビに水かきのついた腕とヒレが生えている、ワームと呼ばれる分類の竜である

 もう一つ大きな特徴として、身体中にヘドロのような黒いゲル状の物体が付いていた。竜はそれを引き剥がそうともがいているように見えた。


《零弥様!あの竜に纏わり付いているのは魔物です!おそらく寄生している、あるいはしようとしているのかと。》

「なるほど。じゃあとりあえずはあの黒いスライムを引き剥がせば少しは大人しくなるって事か。」

「レミ!あの竜を大人しくさせられるか!?あれだけ暴れられると狙いがつけられない!」

「わかった、俺があいつを押さえつける。クロムは出来る限りあの黒い泥を狙ってくれ!」


 零弥はクロムに指示を飛ばすと、躊躇なく踏み込み、暴れる竜の横っ腹に手甲に包まれた拳を叩き込んだ。

 打撃を受けた痛みに体を捩り、竜はより水脈から離れる。


(肩口、首元、尻尾の付け根に脇腹、悉く皮膚の薄いところに張り付いてるな。…食っているのか?)


 近づいた事で竜の身体に纏わりつくソレを観察する。

 スライム。その外観はまさにそうである。ゲル状の液体に包まれたソレは、竜の血液を吸い上げるために脈打っていた。


(スライム状の魔物に寄生された竜か。どうすればいい?)


 実際、竜はスライムに何をされているのか、尋常でない様子で痛みに悶え、暴れている。

 右に左に、上に下にと暴れまわるソレを押さえつけるのは容易ではない。かといって竜を宥め、大人しくさせる事など到底できるとは思えなかった。


(スカンジルマの時もそうだったが、巨体の相手っていうのはどうにもやりにくい。)


 心の中で毒づくも、様子見の【地鋼棘】で竜を拘束しようと試みる。幾本もの鋼の槍が、アーチを作る。しかしワーム型の竜であるそれはヘビのようなしなやかな動きで拘束をすり抜けてしまった。


「ちぃっ、こちとら助けてやるってのに逃げやがって。」

「おぉ…イライラしてるレミ、珍しいもん見たな。」

「クロムは何に感心してるんだ…。」

「んじゃあ次は俺がやってみるぜ。」


 クロムと前後を交替する。その時、奇妙なことが起こった。


「…えっ、お前…喋れるのか?」


 クロムが突然、そのようなことを言い出したのである。



 零弥と交替し、前に出て竜を押さえつけようと構えるクロム。頭の中では、闇属性の拘束魔法を思い浮かべていた。


『_!__!』

「…?」


 何か声のようなものをクロムの耳が捉えた。気のせいかと思ったが、何かが引っかかる感じがしたクロムは自らの聴覚に意識を集中する。


『クソォ!痛い!この!離れろ!!』


 それは、痛みに耐える叫び。この状況でそのような声を上げるものは、目の前で暴れる竜以外には居なかった。


「…えっ、お前…喋れるのか?」


 思わずそんな言葉がクロムの口から漏れる。しかし、その言葉は向こうには届いていないようで、帰ってきたのは痛みを与える異物に対して悪態をつき暴れる声のみである。


「…一か八か!」


 クロムは身体強化を掛けて竜へと躍りかかる。暴れる竜の鞭のようにしなる尾や身体に幾度となく弾かれながら、何度目かの挑戦でクロムは竜の首に腕を巻きつけることができた。


「クロム!そんな程度で大人しくなるものか!」

「悪いレミ!こいつが川に飛び込まないかだけ見ててくれ!もしかしたら話ができるかもしれない!」

「はぁ!?話!?」


 零弥にはどうしてクロムがそんなことを言い出したのかが全く理解できなかったが、クロムがこんな場面で余計なことを言うとは考えにくいと判断して指示に従った。

 クロムは竜の首元に捕まり振り回され、時には壁や床に叩きつけられながらも、必死に竜に語りかけた。


「おい!お前、俺の声が聞こえるなら返事しろ!」


 返事はない、あいも変わらず痛みを訴え続け、悪態をついて暴れる声を上げるのみ。


「俺たちがなんとかしてやるから!少し、大人しくなってくれ!」


 クロムは叫び続けるが、竜はそれに答えない。


「くそっ!ならせめて行動で教えてやれば…!」


 対話を半ば諦め、クロムは張り付いている黒いスライムのようなそれを、手で掴んで引き剥がそうとする。

 それはどうやってくっついているのか、なかなか剥がれない上に表面が粘液で覆われており手が滑る。両足首を拘束魔法で縛り付け、左手で右手首を掴んでなければすでに振り落とされていた。


「…だったら抉り取ってやる。おい!少し荒っぽくなるけど堪忍しろよ!駄々を捏ねるお前が悪いんだからな!」


 クロムは手の中に魔力を集め、爪の先に集中させて魔力の鉤爪を作る。両手は離し、脚を縛る拘束魔法のみでぶら下がる。そしてその両手で直接的にスライムの食いついているであろう部分に爪を差し込んだ。

 それがなんの刺激になったのだろうか、スライムがピクンと動きを見せたかと思うと、その体から何本もの棘が生えてきた。


「あっつう!」


 その何本かがクロムの掌に刺さる。そこから焼けるような激痛がクロムの掌に伝わった。

 掌の熱は広がり、腕、胴体、脚、頭へと広がっていく。その感覚たるや皮膚の下をを虫が這い回るかのようであった。


「う…ぐぁ…あ…!」

「クロム!」


 零弥は様子のおかしくなったクロムに近寄り、脇に抱えて離脱する。保険のために【地鋼棘】で簡易的に柵を作って竜が水脈へ逃げないようにしつつ、である。


「クロム!しっかりしろ!自分の状態はわかるか!?」

「あ…がぅ…ぉ…」


 呂律が回っていない。目の焦点も合わなくなっている。


(少し刺さっただけでこの即効性か。こんなものをいくつも刺され続けてるあの竜は本来それだけ力が強い筈だったんだろうな。

 【超活性・治癒】は…だめだ。この毒が有機毒か無機毒かわからないうちは使えない。)


 以前零弥は、スカンジルマとの戦いの中でマンドレイクの花粉を吸って倒れた時に【超活性・治癒】で持ち直したことがある。

 あれは、取り込んだ毒がマンドレイクの花粉であると分かっていたから出来たことである。花粉とは細胞、すなわち有機物であり、有機毒であると言える。その場合、取り込んだ細胞を排除できればいい。【超活性・治癒】は肉体の持つ回復力を強化する魔法。それを操り、体内の免疫機構を強化して、素早く体内に入り込んだ異物を排除したのである。

 しかし今回のクロムが受けた毒が無機毒であるならば、【超活性・治癒】がマイナスに働く可能性がある。【超活性】系の魔法は、体内機構の強制活性化だ。それには必然的に代謝も加速する。この代謝の加速によって、無機毒が身体の深部に入り込み、全身に回ってしまえば、取り返しのつかない事になりかねないのである。

 それと、第三の可能性として「そもそも毒ではない」パターンがある。つまり、何かしらの魔法か何かによる変調の可能性があり、その場合は【超活性】の出番ではない。そして残念ながら、零弥の【魔視】は、大まかな魔力の流れやその視覚的な変化はわかるが、体内を流れる魔力の中から微細な異物を見つけ出せるほど器用ではない。

 結局、今の零弥にできることは、とにかく早くこの場を離脱してクロムを治療できるところへ連れて行くことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=993177327&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ