EXTRA MISSION:神秘古代跡嶺を探索せよ!③
持ってきた野菜や干し肉をスパイスとブイヨンで煮込んだもので昼食を取った後のこと、日は既に天頂を過ぎ傾き始めていた(折角自然の中にいるのだからとのアクトの提案で時計は持ってきていない)。
「それじゃあみんなが元気なうちに…、」
アクトは立ち上がり、昼ごはんとして炊いた穀物の余り_とゆうよりはじめからそのつもりだったかのような量で炊いていたが_をおにぎりにして袋に包み、
「登山に行こうか。」
そう言った。
「アクトさん今から登ったら夜になりますよ?」
「そうだね。」
「夜には魔物が出るんですよね?」
「大丈夫だよ。魔物除けはあるし、最悪魔法使いである君たちなら逃げるくらいなら何とかなる。」
「うわぁ…。」
あっけらかんとして答えるアクトに零弥は唖然とする。
「じゃあ私はお留守番してるわ。リン、みんなの事は頼んだわよ?」
「任せてください母上。さぁみんな行くぞ、ぐずぐずしていたらどんどん帰りが遅くなるぞ。」
荷物の殆どは置いて行くことにし、最低限の医療道具と食料と水を持って行くだけだから本格的な登山というわけではなさそうだ。
零弥達は各々の荷物を用意して、アクトについて行くことにした。
…
「低い山とはいえ、整備されてない道ってだけでも結構疲れるなぁ…。」
「息切れ一つ起こさない人が言っても説得力ないよレミっち。」
「むしろお前は疲れすぎ。普段運動してないのかよ?」
「ボカァインドア派なんだよ~。」
それでもちゃんとついてこれているだけ根性はあるのだろう。そんなことで感心している零弥の視線の先には、苦笑いの伶和に付き添われて息を上げている人物がいた。
「ゼェ…ゼェ…ちょ、ちょっと…休憩を…」
「あはは…、お兄ちゃーん!リンさんもうダメそー!」
見た目は子供でも体は既に老成しているとでもいうのか、リンは父親に体力で負ける情けない姿を見せていた。
「やれやれ…それじゃあここらで休憩としようか。」
「そうですね。おーいレーネ!休むからあんまり先行くなー!てか戻ってこーい!」
「はーい!」
さすがは子供、一番元気なのはやはりレーネであった。
「…面目無い。」
「本当にね。」
「レミ君、もうちょっと優しくしてあげよう?」
落ち込むリンに辛辣な返しをする零弥。別段怒ってるわけではなく遠慮がないだけだ。良く言えばそれだけ親密だと言える。
「うーん、イリシアも歳のせいか体力が落ちていたけれど、ここまで酷くはないよ?」
「リン先生って、二分の一が月狐族で、四分の一ずつ人間とエルフの混血、なんですよね?」
「エルフの身体能力は人間と同じくらいらしいし、月狐族が半分も混じってるなら相応に体力はありそうだけど…。」
今のリンを見るにとてもそうとは思えない。皆が不思議そうな顔をしている中、零弥と伶和だけは違っていた。
「でも…リンさんって本物の月狐族と違って街育ちだし…、」
「書類作業なんかで一日の殆どを机に座ってる人が体力があるはずもない。」
「やっぱりリンさんもジョギング一緒にやりましょうよ。」
「そうですよ。折角若いまま育たない体なんですから。」
「なんかさっきからレミが私に辛辣じゃないか!?」
そろそろ手加減しないと泣きかねない。そんな顔のリンを見て。
「まぁまぁ、元気も戻ったみたいですし、登山を続けましょう。今回は荒療治みたいなもんだと思って身体を動かす感覚を覚えればいいんです。」
「ってゆうか、なんでこんなので盗賊ども相手には戦えたんだ?」
「それは、身体強化魔法を使ってたから…」
「魔法で体を動かすことに慣れすぎた結果、素の身体能力が落ちてたんじゃ世話ないですよ。」
「そうか…そうだな…。」
なまじ優秀すぎるが故の生活習慣病のようなものかと零弥は考える。
なるほど確かに、身体強化魔法を使えば多少体力に不安があろうとも素早く動けるだろうが、それは慣れすぎると本来自身のエネルギーと器官でのみ働いている体が魔力に頼ることになってしまう。
このまま深刻化すれば、魔力が無ければ生きられない体になってしまいかねない。まぁそっちの方が魔法使いらしいと言えばらしいのかもしれないが。
「フラン君も気をつけないとあぁなっちゃうかもよ?」
「…善処します。」
余談ではあるが、リンはその後零弥達に付き添われながらジョギングを始める。姉としての威厳を取り戻す_はたしてそもそもあったのかという疑問は無効である_ために。
リンと同じ轍は踏むまいと、クロムやネオンも各々運動を始めたことから、クラスメイトの中で運動が静かなブームとなったのはまた別のお話。
…
さて、太陽はまさに西の地平に向かって落ちようとしている。
「アクトさん、もう夜になりますけど、魔物除けについて教えてもらってもいいですか?」
「ふむ、そうだね。そろそろ出しておいた方がいいね。」
アクトはポシェットから長さ20cm弱の小さな杖を取り出す。柄は普通の木、先端には細く伸びた鉄の棒の先端に小さな銅球が付いている。
「…それで殴ると。」
「まぁそう言う使い方もできるけど…、」
「できるんだ。」
「本来の使い方はこうだよ。リン、よろしく。」
「わかりました。」
リンはアクトの持つ杖の銅球に手をかざし、詠唱を始める。
「陽光を陰に、夜影を陽りに、妖しなるものよ畏れ見よ_【陰陽炎(weies fealo)】」
その時、まるで光と影が入れ替わったかのような感覚がした。太陽は確かに西の空にあるはずなのに、寧ろ東の空の方が明るく見え、陽はどんどん沈んで暗くなって行くはずなのに、自分達の周りだけどんどん明るくなって行く。
その原因は言わずもがな、リンが杖に灯した魔法である。その青白い炎は、零弥の眼によって光と闇、そして炎属性の複合魔法であることがわかった。
「この炎から発する光は闇が濃くなるほど眩く輝く。逆に強い光を浴びるほど濃い影を生む。魔物というのは暗闇の中で現れるものでな、この炎に弱いから近寄らなくなるんだ。」
「なるほど、そのために銅製なんですね。」
銅は魔力伝導率の高さは鉄より少し上程度だが、魔力を吸着し、その場に留めることが出来る。
「リンちゃんせんせー、普通の炎じゃダメなのか?」
「あぁ、やつらは太陽の光以外ではこの炎でしか退けることができない。それと、この炎は普通のそれよりずっと高温だ。迂闊に振り回せば森を焼くぞ。」
その言葉にギョッとする面々を置いておいて、先に進むぞとリンはアクトと並んで歩き出した。
だが、結局はこの後もリンが疲れて休憩を要求するのであった…。




