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EXTRA MISSION:神秘古代跡嶺を探索せよ!②

 何はともあれ、四日間の行程は終了し、無事にキャンプ地へと辿り着いた。

 ルミナム山の森へと入る道は整備されているはずもなく、と言うより道らしい道は見当たらない。

 ならばここからは歩いて進むことになるのだが、その為には馬車と多量の荷物が邪魔になる。

 そこでアクトは予め麓の村に馬車と余分の荷物を預かってもらうよう手配していたようだ。


「では、この台帳にあるものを預かっていただきます。3日後には取りに戻るので、くれぐれも無くすことのないように。」


 預けるもののリストを書いた台帳を村長に渡す。同じものをこちらも持っているので書き換えるということは許されない。

 念を押して手綱を渡し、一行はそれぞれの荷物を持って山へと入っていった。



 森に入り、アクトの案内のもと奥へと進むと、そこは石畳みの敷かれた小さな広場のようなものがあった。


「…アクトさん、ここは?明らかに人の手が入っているように見えますが。」

「月狐族の集会で使う広場だよ。ここなら魔物除けもあるから安全に寝泊まりできる。」

「言い伝えにある悪霊って本当にいるんですか?」

「勿論さ。尤も、実際出るのは凶暴な魔物だ。だから夜は対策なしに出歩いてはいけないよ。」


 そう言いながら、アクトは手早くテントの骨組みを組み立て始めたので零弥もそれに倣う。さらにこちらには伶和も加わった。

 他の皆も、イリシアと共に水汲みに行ったり、竃を立てるための石を集めに行ったりと各々が役割をもってキャンプの準備を始めたようである。

 テントは、三角柱型に組み上げた竹の骨組みに革をパッチワークした布を金属パッカーで固定したもの。4人用を二つ用意してある。全部で9人だが、リンやレーネは小柄なので男女で分ければ丁度いいだろう。



 ところでこちらは、イリシアの案内で水汲みに来たレーネとネオン。

 少し歩くと、岩壁から清水の湧き出ている小さな滝が見つかった。


「ここの水は地中の栄養が溶けててね、飲んでも美味しいし、お肌にもいいのよ。」

「へぇ~。」


 滝壺の水を掬って口に含むネオン。隣ではレーネも真似をしている。


「本当、美味しい!」

「つめたーい!」

「フフ…レーネちゃんにとっては特に美味しく感じるでしょうね。」

「…?なんでですか?」

「だって、レーネちゃんはマナ生命体なんでしょう?」

「!」


 イリシアの言葉に思わず目を見開いてしまった。


「それは…レミくんから?」

「いいえ、同族の勘よ。マナ生命体は普通の生物とは違う。特に生まれたばかりの個体はその体構造の大部分をマナで形成しているから、魔力の感知能力の高い人ならなんとなくわかるのよ。

 そして、マナ生命体は普通の生物とはその生態も異なるわ。その子の母親なら、その辺りは知っておいた方がいいわね。」

「それは…!」


 イリシアが零弥からレーネについてどう聞いていたのかはわからないが、夏休みに入る前に零弥と話し合い、レーネの親については可能な限り誤魔化そうと決めていた。零弥がそうゆう約束を破るような人間ではないとネオンは知っているため余計に動揺した。

 と、そんな緊張を破る大きな水音に振り返ると、森の中とはいえ日が高く気温が上がってたから涼が欲しかったのだろう、レーネが滝壺の泉に飛び込んでいた。


「レーネ!大丈夫!?」

「あははは!気持ちいー!」

「あーもう、服着たまま飛び込んじゃって…。ほら、拭いてあげるからこっち来て服を脱ぎなさい。」


 困り顔で呼びつけるネオンに駆け寄るレーネの笑顔は曇りない。

 首にかけていたタオルを使ってレーネの世話をするネオンを見て、イリシアはコロコロと涼やかな笑い声を上げる。


「いいお母さんじゃない?」

「それも同族の勘ってやつですか?」

「いいえ違うわ。と言うよりバレないと思った?無理よ。だって貴女あなた、お顔がレーネちゃんそっくりだもの。」


 と、考えてみれば当然な判断基準を指摘され、ネオンは困ったなぁと言った表情で俯いた。


「ネオンちゃん、あなたはまだ15歳よ。だから親としての責任を取りなさいとは言わないわ。いざという時は私達が引き取ってあげる。でも、よくよく考えておいた方がいいわ。その子は貴女にとって何なのかをね。」


 そして、と続けそうになった言葉を呑み込んだ。ここから先は言うべきではない。周りがとやかく言っていいようなことではない。特に自分は今や零弥の親同然なのだから、そんな相手から言われてしまったら彼女から選べる自由を奪ってしまいかねない。

 ネオンは普通の女の子だ。それも思春期真っ只中の。そんな子が突然現れた男の子と出逢い、自分を親と呼ぶ子供が現れてしまい、まだ現実を受け入れきれていないのだろう。おそらく零弥もそれを知っていてレーネの世話を積極的に引き受けているのかもしれない。


「…辛くなったらいつでも頼りにいらっしゃい。私は正しく貴女のことを理解してあげられるから。」


 優しい声でネオンの頬を撫でる。ネオンは揺れる瞳で見つめ返す。

 が、またまた表情が一転してイリシアはすっくと立ち上がり、


「さっ、あんまり遅くなるとみんなが心配するわ。帰りは重い水を運ぶんだから急ぎましょう!」


 と元気よく水の入った桶を持ち上げて歩き出してしまった。


「…はっ、ま、待ってくださ~い!ほら、レーネも早く服着て!」

「うぇ~、ベタベタするー。」

「自業自得。戻ったら着替えあるからそれまで我慢、いいね?」

「はーい。」


 と、二人は慌ててその後を追うのであった。



 水汲み係が戻って着た頃には、テントは2張りとも組み立て終わり、竃が完成して火起こしに奮闘している頃であった。

 ずぶ濡れのレーネに驚きながらも、零弥は特に変わった様子もなく着替えを手伝うようにネオンに頼んでくる。

 ネオンはレーネを着替えさせながらイリシアの言葉を振り返る。レーネの事をよく考える事、そして、その後に続いたはずであろう言葉もネオンは察していた。尤も、レーネについて考えるならば避けて通れぬ問題なのだ。

 というか、その気がないならとっととレーネの事はセシル家に任せた方がいい。その方が未熟な自分が育てるよりはるかに教育的にも健全だ。向こうからその提案をしてきたことは渡りに船のようなものなのだ。


(なのに…、なんですぐに答えられないんだろう。)


 イリシアは親としての責任は問わないと、レーネがマナ生命体であると知っている事も含めてネオンが責任を負わなければならないことはないと言った。

 事実、彼女に責任はない。あの魔法陣でレーネを生み出したのは零弥の行為だし、既成事実など存在しないのだから零弥とネオンの間にはなんの関係性もないはずだ。


(でも、私をママと呼んで慕うこの小さな少女と縁を切るということはできない。)


 そう考えて納得しようとしても心はそこに反証する。

 縁を切ることはできなくとも、接し方を変えることはできるはずだと。難しいことではない、伶和やクロムがやっているように、顔見知りの女の子という程度の感覚で付き合えばいいだけだ。わざわざ母親ぶる必要はないだろうと。


「ネオン、どうした?顔色悪いぞ。もしかしてネオンも冷えたのか?」


 物思いに耽りながらも着替えを済ませていたらしい。テントを出ると早速レーネは零弥に駆け寄る。彼は泉の水で冷え切ったレーネに驚きつつその小さな手を握り、俯いたままのネオンを心配して話しかけてきた。


「ううん、なんでもない。ちょっと重いもの持ったから疲れただけ。」


 適当に理由をつけて追求を退ける。

 彼女が心にしこりを感じるのはいつもこの時。零弥がレーネと共にいるのを眺めていると、彼が父親のように振る舞うのを見ていると、無意識のうちに二人の横に立つ女性をイメージしてしまう。

 あの女性は誰なのだろうかと考えると胸の奥のざわつきが大きくなる。もっとはっきりとイメージしようとすると何故か頭が痛むのだ。

 だが確信できることが一つあるとするのなら、


(あの女性は、私じゃない…。)


 何故これだけは確信できるのだろうか。そんな疑問がふとよぎるが、考えても答えは出ないとわかっていた。

 レーネが現れてから、2ヶ月が経過している。その間、同じことを10回は繰り返したかもしれない。


(答えが出ないのは…きっと私が、子供だからだ。)


 そして毎回、同じ結論で無理矢理思考を止めるのであった。

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