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EXTRA MISSION:神秘古代跡嶺を探索せよ!①

 ルミナム山。

 その山は嘗てより近隣の集落の人々により禁足地とされていた。

 ある貴族の私有地にしたという理由も一つにあるが、そもそもそこはそうなる以前から人間の侵入を拒んで来た。

 曰く、満月の晩に森に入ってはならない。精霊の怒りに触れた者に帰る家はない。

 曰く、月の無い夜に森に入ってはならない。悪霊の毒牙から逃れる術はないと思え。

 そのような言い伝えがいつの頃からかあり、実際この言い伝えに従わずに満月の晩や月の無い夜に山に踏み入ったものは皆帰って来なかったという。

 そんな山ではあるが、昼間ともなればとても美しい。新緑の稜線は遠くから眺める分には素晴らしい光景であるし、様々な植生があり春には桜や藤が咲き誇り山の一角に自然の抽象画が生まれるとか。秋には赤黄鮮やかな紅葉を一目見ようと麓の集落に足を運ぶ観光客もいると言う。

 そして、そんな神秘の山を私有地としているのがセシル家であり、ルミナム山こそがイリシア=セシル婦人の実家である。


「…そこで、あの人は私の肩を抱いて囁くの。『これは僕の決定だ、誰にも文句は言わせないさ。』ってー!」

「おぉ…アクトさん、カッコいー!」


 ルミナム山がセシル家の私有地である話から、アクトとイリシアの馴れ初め話に始まったが最後。朝から数時間、イリシアによる惚気話はとどまることを知らず、零弥達をげんなりさせていた。なお唯一伶和だけは目を輝かせて続きを促し、イリシアの饒舌に拍車を掛けていた。


「なぁレミ、イリシアさん、いつもこんななのか?」

「いや、そんなことは…。あぁ普段イリスさんが喋ってる時にアクトさんがはよく口を挟むのってもしかして…、」

「うむ、母上の暴走を防ぐためだ。だが今は父上は御者室にいる上、レナが母上に同調してしまって歯止めがきかんな。」


 リンはもはや慣れた様子でいる。否、おそらくイリシアの話を脳に至る段階でシャットアウトしスルーしているのだろう。


「ぐぅ…レーネが羨ましい。」

「正直言って、昨日のリンちゃんの説教の方がいくらかマシに思ってる。」


 零弥の膝の上で静かに寝息を立てるレーネを眺めて精神安定を図りつつ愚痴をこぼす。


「もう少しの我慢だ。そら、目的地はもう見えてるぞ。」


 リンが窓の外を指差し、零弥とクロムは窓から顔を出して確認する。

 ルミナム山は小さい山だ。仰角計算ができたならその山が標高差400m程度とわかる。高尾山を登るより楽といえば伝わるだろうか。


「そうだな…我慢できないというなら、代わりに私が別の話をしてやろうか?」

「…おねがいします。」


 延々と繰り返される惚気に当てられていた零弥はもう何でもいいという雰囲気でリンの誘いに乗る。

 それでは、とリンは小さな咳払いを挟んで話し始めた。


「ルミナム山が母上の実家、月狐族の縄張りだという話はすでに話した通りだ。月狐族は過去1000年以上前からここに住んでいる。」

「1000年!?どこかから来たわけでもなく、ここを離れたこともなく1000年も住んでるのか!?」

「個体で見れば何かしらの理由で集落を出て行ったりはしているが、集団、群れという形で見ればその通りだ。」


 話を続けるぞとリンは繰り出す。


「さて、月狐族は古い歴史を持つが、当然ながらそれに伴い文明が発達していった。

 だが一つ所に留まり、他との交流を断つ種族である彼らが発展するのは困難かに見えた。」

「文明…、そう呼べるほどの文化が発展しているんですか?」

「あぁ、目に見えぬ形ではあるが、確かに文明がある。この山の内側に築かれた街としてな。」

「山の中に街が!?」


 リンはクロムの驚声に満足そうな笑みを浮かべた。


「そうだ。そして、それだけの街を形成するのに、必要な資材は山の中から手に入った。柱を作るための木、壁を補強するための石、そして、彼らの文明の根幹を支えたある鉱石の巨大鉱床がそこにはある。」


 その名は…と続けるリンは、この時すでにいつの間にやらフランとネオンもあからさまにではないが耳を傾けているのに気づいた。

「エイデニオン。」

「「「エイデニオン!?」」」

「うわ、びっくりした!」

「あらあら…」


 声を揃えて驚いたのはクロム、ネオン、フランの3人。それが何かわからない零弥と伶和は3人の声にびっくりし、その声になんの話をしていたのかイリシアは理解した。


「そ、それって超希少金属じゃないですか!」

「うわぁ、父さんが聞いたら黙ってないぞ…」


 声を荒らげるネオン、対照的にまずい事を知ってしまったと口元を抑えるフラン。どうやらエイデニオンとやらは余程すごい金属なのだろうと零弥は質問を投げかける。


「あの、どんなものなんですか、それ?」

「ふむ、それならフランに聞いてみてはどうだ?エレク家は武器商の家だ。エイデニオンについては知っているだろう?」


 リンに促されフランはコホンと咳払いして話し始める。


エイデニオン(adenion)というのはね、大地の神エイデン(aden)の名から取った鉱石の名前だよ。

それが最初に発見されたのはオルローラ大陸の脇に浮かぶ島国。そこは今世界有数の技術大国になってる。

エイデニオンは不思議な性質を持っていて、他の金属と合金にしたり、叩き方や火の入れ方で性質が様々に変化するんだ。

 この鉱石を用いて作られた武具は伝説に登場する武具に匹敵すると言われてるし、その見た目の美しさからも鍛冶屋を営むものでなくとも欲しがる人はごまんといるって話だよ。」

「でも未だにその国以外に鉱脈は見つかっていないし、その希少性から国に管理されてしまって世界にはほとんど出回ってないわ。」


 ネオンの補足も含めて、零弥は皆が驚いた理由を理解した。


「で、その希少金属の鉱床のど真ん中に月狐族は縄張りを持ったわけですか。」

「正確にはエイデニオンのために集落を作ったわけではない。月狐族はエイデニオンから生まれた種だからな。」


 その言葉の意味をいまいち飲み込みきれない生徒達。


「これはもう月狐族の中でも口伝でしか残っていないが、月狐族の最初のつがいは、月の光を浴び青鈍色あおにびいろに輝く大地より生まれたと聞く。」


 おそらく偶然にも、魔力を蓄積しやすい性質となったエイデニオンの鉱脈と、龍脈(地中を流れるマナ流の基点)が重なって表出していたところに「何か」があってマナ生命体、月狐族が誕生した。ということだろう。

 自らの目の前でレーネの誕生に立ち会った零弥とネオンだけが、この意味を理解することができた。


「まぁともかく、そうゆう事情があったから、父上は母上との結婚の際に結納金として借金をしてまであの山を買ったのだよ。」

「なるほど…って、借金をしてるんですか。それなのに俺たちを拾ってくれたんですか?」

「安心しろ。もともと使い道も無かった田舎の山だったからそこまでひどい借金は負ってないし、それにもうすぐ完済できる所まで来ている。

 それにな、それとこれとは話が別だ。借金があるからといって、お前達を見捨てるなんてことはしなかったよ。」


 その言葉につい胸が温かくなる感覚を覚えたが、零弥はおや?と何かを思い出したように言葉を返した。


「でもリンさん、最初トリン先生とどっちが面倒見るかで揉めてませんでした?」

「うっ、いやあれは言葉が通じなかったから仕方なく…。でも!お前達が無事に生活できる環境が整うまで面倒を見るつもりではあったからな!本当だぞ!」

「冗談ですよ。事情はこっちも同じでしたから。」


 必死に弁解するリンに苦笑しながら宥める零弥を見て、イリシアが一言溢す。


「これではどちらが上の子か分からないわね。」

「私だ!」

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