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旅の始まりは慎重に④

 進む馬車の中、一行の間で、鋭い視線が交錯する。

 中央には数枚のカード。表に向いたのは4枚。裏向きが1枚。そして山札が箱に入れられている。そして色とりどりのチップが参加者の前に並べられていた。

 手札を持つは零弥、伶和、クロム、フラン。リンの目の前にも手札と思しきものがあったが、すでに伏せられており、場に出されているチップの枚数も少ない。

 そう、彼らが行なっているのはポーカーである。しかし暇つぶし程度のそれではなく、テキサスホールデムというルールで行われるギャンブルポーカーであった。


「…レイズアップ」

「コール」

「コール」


 零弥がチップをさらに足す。クロム、フランは同じ枚数で続くが、伶和だけは少し考え、


「レイズアップ」


 さらに多くのチップを乗せて行った。これにクロム、フランの2人はたじろぐ。皆の視線は零弥に集まる。これに零弥は応じるか。


「……レイズアップ」


 暫しの長考の後、零弥はなんと伶和の乗せたチップにさらに1枚多く被せて行った。これには流石についていけないと、2人はフォールド…ギブアップを宣言。伶和は数刻の沈黙の後にフォールドを宣言した。


「よーし、これでみんなのデザートは戴きだ。レーネよかったなー、みんながデザートくれるぞ。」

「ホント!?」


 緊張の糸が途切れ、深いため息を吐き出す面々を他所に、零弥は場に出されたチップを回収していた。

 今回の賭けでは夕食のメニューをパン・メインディッシュ・サラダ・スープ・デザートとし、それぞれを5分割して一枚のチップとして賭け金としていた。早々にリタイアしたリンはデザートを約半分、零弥以外の他3人はデザートを全て献上することになった。基本的にレイズで載せられたメニューと同じチップをコールしなければならないというルールなのである。そして一つのメニューが全て賭けられれば今度は別のメニューを賭ける。零弥はここでメインディッシュを2枚賭けに行ったのだ。流石にここまでされるとついていけないと降りることも重要になってくるだろう。


「てゆうかこれほとんどチキンレースじゃねえか!」

「いやいやチキンレースは仕掛ける方がリスク高いんだぞ?受ける方はいつでも降りれるんだから。」

「ってゆうか、レミっちの手札は何だったの?場に出てるのが2が2枚と、6と9が1枚で…」


 裏になっている1枚を表にするとキングが現れる。


「その場合は…こうかな。」


 そう言って零弥は手札のカードを出す。テキサスホールデムを知らない人のために補足すると、このルールは場に出た5枚のカードと手札の2枚、計7枚のカードから5枚を選び役を作ってショーダウンする。

出されたのは2と7。スリーカードであった。


「だー!それならまだ可能性あった!誰だよデザート賭け始めた奴は!」

「カード配ったらあからさまにニヤリと笑ってデザートのチップを切り始めたのはあんたでしょう。」


 クロムが伏せていたカードを開くとキングが2枚。これならば隠れていたキングと組み合わせてフルハウスになる。

 ちなみに強気に出ていた伶和はというと、6とジャックでツーペア。フランも7と9でツーペアだ。

 しかし終わったゲームのことをあぁだのこうだのと言っても仕方ない。次のゲームに移る準備をネオンが整える。彼女はディーラーを務めていた。


「それにしても、イヴにもトランプってあったんだな。」

「いつの世も、人の考えることは大体同じってことだな。」


 絵柄はアダムに出回っているそれとは違う姿をしているが、確かに1から10のカードがあり、ジャック、クイーン、キングに当たるカードが4種類揃っている。さっきから従来通りに呼んでいるように見えるがこの会話は日本語訳であることを忘れないでほしい。

 果たしてこれは偶然か必然か、考えてはみるものの答えは出そうにないと零弥は些事を頭の片隅に追いやった。

 夕食を賭けたポーカーを再開するも、2、3度繰り返すと流石に飽きがくる。トランプを片付け、一行は思い思いに暇つぶしを始めた。

 零弥はそんな中、1人荷台の方へと移動する。


「何してんだレミ?」

「寝る。昨日遅かったから眠くて。」

「そうか。」


 クロムは荷物の隙間に体を押し込むように横になる零弥を見送る。

 時間はゆるりと流れていき、馬車もまたゆっくりと目的地へ向け進んでいった。

 しかし時間は昼前。太陽は高く昇り、じわじわと暑くなる。昼食のため休憩に入った頃、荷台の中で茹で上がっていた零弥が川に投げ込まれたのは大凡必然的であった。



 さて、馬車の旅というのはゆっくりと進行する。

 よく「馬を飛ばせば1日で着く」と言った表現があるが、あれは馬のみで全力で走らせ、途中で馬を乗り換えつつ、人は殆ど休憩を挟まないことを前提とすることが多い。つまり、本当に馬の全速力で進み続けた場合1日で着くという考えで構わない。これで速い馬で行っても200kmほどなので、自動車や新幹線が如何に優秀な交通手段かは明白であろう。

 話を戻すと、零弥達の乗る馬車はキャラバン式で、馬に身体強化術式が施されているとはいえ、その速度は早めでおよそ15km/h。だいたい自転車と同じかやや遅いくらいである。そして馬も休み休み進めないといけないので、事実上1日に移動できる距離は150km行ければ良い方だ。

 目指す先は首都ローレンツから西へ役500kmほど、余裕を持って片道5日は見ることになる。

 初日の夜、一行は夕方には馬宿に立ち寄ることができたため、その日はそこで夜を明かすこととなった。旅で最も危ないのは夜であるから、それを馬宿で過ごせるというのは良い事である。

 馬宿では馬を預け、一晩世話をしてもらうこと、ベッドを借りて体を休めることができる。また、旅人は自分達の持つ食材を外にある炊事場を借りて調理したり、馬宿の従業員に金を払って料理を出してもらって食にありつく。馬宿には旅人以外に行商人なんかもよくいる。旅人は彼らから足りなくなったものを購入する。

 そのような、アダムで言えば道の駅に近い役割を果たす場所であり、旅人達の憩いの場であった。


「あはは!」

「まてまてー!」


 馬宿の主人の子供らしい子と追いかけっこをするレーネ。それを眺めつつ一行は明日へ向けて羽を伸ばしていた。

 リンは夕食を済ませ、現在身体を洗っていた。クロムとフランは、馬宿に置かれていたボードゲームを始め、伶和とネオンはその横でケチをつけつつ談笑する。アクトとイリシアは他の旅人から行き先の話を聞き、明日の進行ルートのチェックをしていた。そして、零弥は早々にベッドに潜り込んでいた。


「それにしても、なんか今日のレミ、いやに疲れ切ってたな。」

「そうね。結局午後も起きてはいたけどずっと横になってて気怠そうだった。レナちゃん何か知らない?」

「うーん、お兄ちゃんって基本私より遅くまで起きてること多いから…。でもあの様子はここ数日かなり遅くまで起きてたって感じかも。」

「レミっちが夜遅くまで何やってるとかは知らないの?」

「大抵は、日記を書いてるか、勉強してるか、魔法の研究をしてるか、かな。」

「はえ~、勤勉だねぇ。」

「うん、お兄ちゃんは凄いよ。特に魔法理論に関しては先生よりもわかりやすく教えてくれるもん。」


 その後は学校の教員の話、最近耳にした噂話など、他愛のない話題に花を咲かせ、夜は更けていった。


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