旅の始まりは慎重に②
「フラン、それが例の姉か?」
「うん…まぁ、一応。」
「一応じゃないわよ。私は正真正銘フー君の姉、セリーナ=エレクよ!」
縛られたフランをお姫様抱っこした状態でドヤ顔で名乗りをあげる彼女は、見た目は20代半ばといったところだろうか。
「フー君?」
「まぁフランのことだろ。で、そのセリーナさんはなんでまたそんなに躍起になってフランを追うんだ?」
「だって逃げるんだもん!」
「はぁ?」
するとセリーナはよよと泣くようなそぶりで語り始めた。
「私はフー君を生まれた時から見守っていたわ。この子のおしめを替えてあげたのも私よ。」
「おいそれここでいう必要ないだろ!」
話が長くなりそうだが、このままフランを放っておくのもどうかと思う零弥達であった。
「フー君の成長をずっと間近で見続けたわ。お父様やお母様よりも親しくしてた自負もある。」
ここだけ聞くと良い姉のようだ。だがそれで終わるはずがない。その場にいた彼らにはそう確信があった。
「でもあるとき気づいたの。私の中にあるフー君への思い。それは、単なる姉としての、姉弟としての愛では説明がつかないということに!」
「あー、もうオチが見えたから帰っていいか?」
「ちょっとクロっち!助けてよ!」
詰まる所はこの姉、ブラコンなのだろう。しかも重度の。
「そして私は覚悟を決めたわ。必ずフー君と結ばれてみせる。その為に邪魔するものであれば親でも排除してみせると!」
「多分一度か二度は本当にやったんだろうね…。」
「察しがいいねぇ…レナちゃんは。」
「マジか。」
「結果的には勘当くらって今はエレク家の家系図からは消えてるよ。まぁそれでもたまにこうやって帰って来ては僕が襲われるんだ。」
そうしてフランが逃げる為、それを追うということなのだろう。なんというか救いが見えない。
「でもよ、フランはロリコンだぞ?姉じゃあ可能性ゼロじゃね?」
「そうよ!どうして!フー君、どうして小さい子にばかり目を向けるの…?」
「まぁ、年上の女性に普段から貞操狙われ続けたらそりゃ年下に救いを求めるわな。」
零弥の冷静なツッコミにセリーナは驚愕の表情を見せた。恐らくフランがロリコン化した原因が自分だとは夢にも思っていなかったのだろう。
「ねぇフー君本当?あの子の適当な想像じゃないの?」
「まぁ事情を話したことはないけど…概ね合ってる。」
恐る恐る尋ねるセリーナ。それに対するフランの答えを聞き、ガックリと膝をつく。ショックのせいか、フランを縛っていた鞭も解けた。
「ふぅ、ありがとうみんな。これで少しは…」
「フフフ…」
「げ、まだ諦めないの?」
セリーナが幽鬼のように立ち上がり言葉を発する。
「なるほどね、私がフー君を愛しすぎたせいでフー君はロリコンになっちゃったのね。それはつまり、潜在的にはフー君は大人に対しても適応できるはず!」
周りが!?マークを頭の上に浮かべる中、なるほど理論上はその通りだと納得する零弥。
「ならば私はフー君を再びノーマルに、いや、年上姉属性に染め上げてみせるわ!今ここでやるのは無理でも、いずれは!」
「セリーナ、お前まだフランを諦めてなかったのか。」
零弥達の背後から呆れたような声が飛んでくる。振り向くとそこには兄妹の恩人にして学校での零弥達(フラン除く)の担任の、銀髪狐耳の合法幼女教師、リンがいた。
「リンさんお帰り。補習終わったんだね。」
「あぁ、今年は受講者も比較的少なかったからな。」
「リンさん、フランのお姉さんと知り合いですか?」
「あぁ、私がユリア学園に通っていた時の同期だ。フランは覚えていないかもしれんがな。」
「え、僕リンちゃん先生に昔会ってたの?」
「無理もない、お前が5歳の頃に一度きりだったしな。」
「昔会った人が10年経っても見た目ほとんど変わってなきゃそりゃ別人に思うよなー。」
「クロムお前はいつも一言余計だな!」
「おっぐぅ!」
リンの正拳突きがクロムの鳩尾にクリーンヒットする。
「リンちゃん、聞いてよ!フー君たら私が魅力的すぎて直視できないからロリコンになっちゃったんだって!」
「おいおいなんかとんでもない飛躍した思考になってんな。」
「…そうなのか?」
「いや違いますよさっきと言ってることが完全に違う。」
「まぁ姉から目を逸らした結果という点では同じか?」
零弥の言葉でリンはおおよそ真実を理解し、セリーナに向いた。
「なるほど。セリーナ、それは完全に自業自得だろう。私は何度も言ってたぞ?フランのロリコン化の原因は私じゃないって。」
「だって~!」
セリーナの言い分も多くは理解を示した。なにせどう見ても幼女な友人が弟に会ったことがあり、弟がロリコンになれば疑いたくもなる。
「まぁフランのことは諦めるか、それがダメならとりあえず頭を冷やせ。フランを困らせてこれ以上嫌われたくはないだろ?」
「うぅ…わかったわよぅ。」
こうして、嵐のような騒動は去った。リンの説得もあり、暫くはセリーナも無闇にフランを追い回すことはないだろう。
「リンちゃん先生、ありがとう!」
「おいフラン!やめろこんなところでセリーナに見られたら私が殺される!」
フランが本気の感謝でリンに抱きつく。リンは面食らい、また先程の一幕があった故に余計に焦り、必死に引き剥がそうとするのであった。
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