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旅の始まりは慎重に①

「えーと…干し肉、乾燥野菜、パンは注文したし、出立前日には届くはずだ。あとは…、」

「馬の手配はしてるのか?」

「それはアクトさん達がやっといてくれるって。俺達に頼まれたのは消耗品の買い出しだ。」

「香水が欲しいわね。一日か二日はお風呂に入れない日もあるんでしょ?それに虫除けのお香、この時期に山に入るんだから当然いるわ。」

「それもそうだな。ネオン、それに心当たりは?」

「あるわ。行きましょう。」


 メモを片手に街を行く4人組がいる。零弥と伶和、それにクロムとネオンである。この2人は兄妹がこの世界に来て最初にできた友人だ。

 クロムは首都防衛を司るこの国でもトップクラスの貴族の嫡男ではあるが、本人の希望で家督は継がず、また来年から勘当が決まっている。

 ネオンはクロムの幼馴染で、両親が診療所を営んでおり、零弥と伶和はそこで世話になったこともある。尤も、それを知ったのは伶和がネオンの家に遊びに行った時であったのだが。

 閑話休題。この4人が揃って歩く事はよくあり、今回も一緒に買い出しに出かけていた。

 三日後に彼らは零弥達がお世話になっているセシル家の人々と旅行に出かけることになっている。行き先はこの首都ローレンツから西へ300km強程にある山の中。アダムで示すとウェストバージニア州の中央あたりである。そこにイリシア=セシル夫人の生まれ故郷があり、その山中でキャンプをしようという事になったのだ。それに当たって、イリシアの提案で零弥達の友人であるクロム、ネオン、そしてもう一人を連れて行く事になっていた。

 ちなみに、彼らの仲間に、レーネという外見年齢4歳程度の少女がいる。彼女の誕生には複雑な経緯があり割愛するが、ざっくり言うと零弥とネオンを親としている。そのレーネは現在お昼寝中で、もちろん今回の旅行にも連れて行くつもりだ。



「さて、虫除けと香水も買ったな。」


 零弥は臭い消し用のハーブの香水と虫除けのミントの香りがするお香の分の請求書を受け取る。

 なお、ネオンは伶和と一緒になって、それとは別のファッション目的の香水を選んで買っていた。時計を見ると30分ほど経過している。


「まったく、要らんもんまで買って、それ選ぶのに無駄に時間かかってるじゃねえかよ。」

「クロム、そうゆうこという男はモテないわよ。ねえレナちゃん。」

「っ!?ネオンおま…」


 話を振られた伶和は先ほどネオンに勧められて買った香水を手首につけて香りを確かめていたため、反応が一刻遅れる。


「えっ、あ、うん…私は、香水は初めて買ったけど、服とかこうゆうのはいつもお兄ちゃんに選んでもらってるから…。」

「ってことはレナちゃんのファッションってレミ君のセンスなんだ。…意外とレベル高いわね。」


 ネオンとクロムが驚きの目で零弥を見るものの、本人はそのような会話は露知らずとでも言うかのように、


「終わったか?なら行こう。まだ買うものもあるだろうし。」


 と、店の外に向かって行き、伶和がその隣に続いた。


「うーん、さも当然のことのようにああゆう態度が取れるのってなかなかいないわよね。

 ってゆうか、あの二人の関係は兄妹としての枠から外れてる気がする。」

「なんか、レミを見てると勝てる気がしないな…、いろんな意味で。」


 先に歩き出した兄妹の後ろで二人は疲れた顔で好き勝手述べるのであった。



 暫く進んだところでネオンがあるものを見つける。


「ん?あれフラン君じゃない?」


 ネオンの指差す先、コソコソと隠れるように人混みの中を歩く少年を見つける。その雲を思わせるクリーム色の髪の毛で片目を隠したその人物はフラン=エレク。学校では別のクラスの生徒だが故あって今は零弥の友人となっている。

 ちなみにその故というのがフランがレーネに交際を申し込むという行動から始まったもので、詰まる所はロリコンであった。


「よぉフラン。コソコソと幼女でも追いかけてるのか?」

「うわっ、なんだレミっちか。いやまぁ、可愛い子を追いかけるならもうちょっと堂々とするかな。コソコソすると怪しまれるから。」

「もうその発想が犯罪臭スゴイよな。で、本当のところ何してたんだ?」

「…とりあえずここから離れよう。じっとしてたら見つかりそうだし。」

「…?わかった。」


 一先ずはフランの意思に従いつつ荷物持ちを任せ、一行は買い物を続ける。


「で、誰かに追われてんのか?」

「うんまぁ…姉貴に、ね。」

「へぇ、フランに姉さんがいたのか。で?何やらかしたんだ?」

「別に僕は何も…。問題があるのは向こうの方だし。」

「ふむふむ…ロリコンのフラン君が恐れる問題ありのお姉さん…。想像がつかないわね。」


 引きつり笑いを浮かべるネオン。だが実際みんな同じようなことを考えていた。

 フランの姉の正体については当人に聞くのが早いと期待したのだが、その件に関してフランは頑なに口を開かないため、一行は好き勝手な想像で語りながら進んだ。


「そう言えば、フランは旅行の準備できてるか?」

「あぁそれね。一応進めてはいるんだけど姉貴が邪魔してくるからまだ終わってなくて…。」

「邪魔してくるって、なんでまた…?」

「それは…っ!」


 フランは何かを感じ取ったように身構える。零弥はフランの様子を見てとりあえず荷物を預かると、何処からともなく女性の声が聞こえてきた。


「ミ~ツケタ~。」

「クソゥ、ついに来やがったか!ごめんレミっち僕はここで…」

「逃さないわよ!」


 走り出そうとしたフランの胴体に細長い紐のようなものが巻きつき、フランを宙へと吊り上げた。

 行き掛かりの人々も何事かと上を見ると、フランを抱きかかえたフランと同じ色の長い髪を後ろで編み込んだ女性がいた。その手に持っていたものからフランを縛り上げた紐が伸びていた。それはいわゆる鞭というものであった。

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