表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/116

夏の始まり、ある昼下がりのこと

皆様どうも、作者ことKohaku.Naoです。

いよいよ、イブクロ~鋼紫炎~第二巻「夏休み編」が始まります。


夏休みなんだからのんびりやらせてくれたっていいじゃないか。零弥達も作者もそう思ってはいるのですが、運命の神様にしてみればそうは問屋が卸さない。

相も変わらず事件に巻き込まれていく零弥達を暖かい目で見守っていきましょう。

 科学の発達した世界「アダム」も剣と魔法の幻想世界「イヴ」も、一応同じ地球上に存在する世界なので季節は移ろう。そして、北エルメリオ大陸東部、コエンザイム皇国首都ローレンツ、アダムでいうところのニューヨークシティにあたる位置の街にも夏はやってきた。

 陽気はかんかん照りで、連日暑い日が続く。特に首都圏などは、摩天楼立ち並ぶコンクリートジャングルでなくとも、整然とした白い石畳が熱を持ち照り返しで暑くなる。あまり暑い日は街に出歩く人も少なくなることもしばしばであった。それでも皆生活があり、日々の食事の為に買い出しに出るものもちらほらと見かけるだろう。

 さて、そのような人達を横目に見つつぽうっとした顔で頬杖をつく少女がいた。琥珀色の眼、栗色の髪は初夏あたりまで長く伸ばしていたものの、暑くなってきたので最近散髪してポニーテールに纏めていた。顔立ちは東洋人的だが美少女と呼ぶには十分な容姿であった。


「まだ休憩には早いんじゃないか?」


 少女の座る席の向かいから皮肉交じりに声をかける少年がいる。癖っ毛なのか跳ねた髪は烏の濡れ羽色と表せる黒、その切れ長な眼の内側も黒曜石を思わせる色をしていた。また彼もモンゴリアンフェイスだが鼻筋は通っており、つい目を奪われる不思議な雰囲気を持っていた。


「だって魔法式構築理論って難しいわりに普段魔法を使う時意識しない事だし、なんだかやる気起きなくて…。」

「まぁ大体の魔法はイメージによる補完で十分な効果が出るからなぁ。でも、この理論がわかってるかわかってないかは、実際に意識してやってみると出力や強度に結構出てくるもんだ。それに、この理論がわかってないと新しい魔法を作る時に誤作動が起きやすいんだぞ。」

「うぅ…お兄ちゃんは実際に魔法を作る立場だもんね。」


 泣き言を漏らす少女とその兄…雪峰(ゆきみね) 伶和(れな)雪峰(ゆきみね) 零弥(れみ)は再び目の前の提出用の羊皮紙にペンを走らせ始めた。

 この双子の兄妹は、「アダム」の現代日本で生まれ14年の月日を過ごし、今年の春に「イヴ」にやってきた。過去の二人の事情を語るには長い時間を戴かなければならないため、詳しい事は前巻を読んでほしい。

ともあれ二人は今、ローレンツの街中にある一軒のカフェの窓際の席に座って宿題を片付けていた。


 宿題とは、この二人がイヴにやってきてから通うことになった、国立魔法学校ユリア学園で出された夏休みの課題である。異世界であろうと学校があれば休みはあり、休みがあれば宿題があるのである。


「それに、冷房効いてるのも昼のうちだけだからな。」


 兄妹がわざわざカフェで宿題をするのは冷房の節約のためだ。科学の発展が著しいアダムと違い、イヴは科学文明レベルは中世後期レベル。つまるところほとんどお婆ちゃんの知恵袋レベルの技術しかない。そんな世界に冷房があるのかと言えば、ある。

 アダムにも昔から氷室がありそこの氷で夏を乗り越えた話は聞いた事はあるだろうがそうではなく、単にイヴでは電気文明が魔法に取って代わられているだけだ。

 カフェの天井に吊り下げられているオブジェ、これは魔法具である。魔法具とは特定の魔法を発動直前の状態に維持して必要な時に僅かな魔力を流すだけで起動できる使い切りの道具だ。以前に零弥が戦った相手も魔法具を駆使して零弥を苦しめたが、本来魔法具の用途は戦闘ではなく魔法の使えない一般人のために、快適な生活を補助するための少しお高い家具のようなものだ。

 その中でも空調魔法具は特に高い。その理由は、一般的な魔法具と違い、魔力を込め直す事で繰り返し使えるからである。と言っても、魔力を込めるのには専門の技術と適正魔法使いが必要なため、技術だけでも適正だけでも使えない。結局、魔法使いであっても魔法具の再起動にはそれ用の店に行く必要があるのだとか。

 結果、空調魔法具はお金がかかるため、業務上毎日空調を使用するカフェに逃げ込んでいるというわけである。もちろん店も高価な魔法具を使っているので冷房を効かせるのは昼の暑い時間のみだが。


「今日は宿題の日って決めたんだから、ここでできるだけ進めとかないと馬車の中でやることになるぞ?」

「そ、それは嫌だなぁ…。」


 想像して暗い表情になる伶和。

 一週間後に控えた楽しいイベントに宿題を持ち込みたくはないと、齧りつくように紙に向かう。しかし、また暫くしてペンが止まり遂に零弥に泣きついた。


「お兄ちゃん、教えて~。」

「はいはい、どこがわからないんだ?」


 壮絶な人生から抜け出し、新たな世界で第二の人生を歩み始めた双子。その始まりは決して順風満帆とは言えなくとも嘗てよりは成長を見せた。

 そんな二人の夏休みは、緩やかなスタートを切ったのであった。


6/6 大陸名「イメリック大陸」→「北エルメリオ大陸」に修正。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=993177327&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ