感謝のカタチ③
「それじゃあ俺はネオン達のところへ行くよ。みんなも最後の仕事が終わったら解散だ。」
《ふぅ~、やっとこの熱さから解放される…。》
《なんだシルフィン、寒いならもっと温度を上げてやっても良かったんだが?》
《やめておくれよ、僕らもいるんだ。》
《やるなら2人きりで…ね。》
《ふふふ…みんなでお仕事って楽しいですね。私はほとんど何もしてませんが。》
《そんなことないよウィンディ。君が後ろにいてくれたから僕らも気兼ねなく動けたんだ。》
《・・・まぁ、偶にはこうゆうのもいいだろ。》
各々の感想を述べて精霊達はそれぞれの最後の仕事に向き合う。それらを見届けると、零弥は一言、告げた。
「さぁ…フィナーレだ!」
…
次々と花を散らせる火の獣達を眺めつつ、もう直ぐ終わることを感じ取ったネオン達。見ると、すでに残る獣は4匹になっていた。
青い火の大蛇、赤い火の鳥、白い火の虎、紫の火の海亀。これらは風水の四獣をアレンジしたものだが、それを知るのは零弥と伶和だけである。
さて、四匹の獣は今、首都の四方の城壁の上に立って(?)いた。そして花火の爆音を利用し雄叫びを上げ、同時に空へと駆け出した。
獣達は空に輪を描くように走り続ける。獣の身体が少しずつ綻び始め、光の輪が広がっていく。
「あれは…?」
「これが最後の大仕掛け、【スプラッシュワイドスターマイン】だよ!」
伶和の名乗り上げに合わせるように、光の輪から火の花弁が噴き出す。王冠のような炎のシャワーの内側から、複数の花火が次々打ち上がり、連続した破裂音と光の華が咲き誇る。それはさしずめ、炎と光の生け花と言い表すのがいいだろう。
光の王冠は向きを変えたり回転が加わったりして様々な表情を見せ、打ち上がる花火もそれぞれが個性を発揮したデザインで有無をも言わさぬ派手さで空を埋め尽くした。
「みんなー!」
そんな光のステージを背にして、こちらへ飛んでくる影が一つ。零弥であった。
「パパー!すごーい!きれーい!」
「そうだろそうだろ!なにせ俺も伶和も一週間分の魔力をほぼ全力で込め続けたんだ。派手になってくれなきゃ困る!」
「はぁ!?一週間分!?じゃあ準備期間中ずっと魔力をスッカラカンになるまで込めてたのかあれ!」
「そうだぞー、疲れを隠して作業するのは骨が折れた。」
零弥はケラケラと笑いながら説明する。そして、真面目な顔で微笑みをむけて言葉を続けた。
「伶和からも聞いたと思うけど、俺達、皆には感謝してるんだ。いきなり現れてさ。大して何があったわけでもないのに2人にはいろいろ助けてもらって、沢山迷惑もかけて。俺達が異世界から来たって知っても受け入れてくれて。
リンさんに拾われてなかったら、クロムやネオンに出会えてなかったら、俺達は今も昔と変わらないままだったかもしれない。
でも、なんの捻りもなく直接言うのも恥ずかしくてさ、何かの形で伝えたかったんだよ。それでこれ。」
零弥はフワリと伶和の横に着地すると、改めて2人で言葉を揃えた。
「…ありがとう!」
それは本当に心からの言葉であった。本当に心からの笑顔であった。花火に照らされた2人の笑顔は本当に輝いていた。
「…こちらこそ。俺もレミに出会えてなかったら変われなかった。俺が自分に自信が持てるようになったのはレミのおかげだし、…レナちゃんと出逢えて自分を見つめ直すきっかけにもなったよ。」
照れ臭さからか、やや後半が小声になったがクロムは本心で返答を返した。
「私も二人に出会えて本当に良かった。二人と一緒にいたら、自分の世界の狭さに気付かされたし、今までの迷いが嘘みたいに晴れたんだよ。」
ネオンの目には心の雫がキラキラと光っていた。
「レーネも!レーネもー!」
ピョンピョンと跳ねるレーネを支えるようにネオンが屈んで肩に手を当てる。そして次の言葉を待った。
「あのねー、レーネもね、パパとママがだーいすき!レナ姉ちゃんもクロ兄ちゃんもリンちゃんもフワ兄も、みんなと一緒だとすっごく楽しい!」
輝く笑顔と無垢な言葉に顔を綻ばせる一同、代表するかのように零弥がレーネを抱きしめた。
「あぁ、みんなみんな、大好きだ。俺達の居場所は、ここなんだ…。」
打ち上げられた花火は総勢500発以上、時間にして30分近くの間街は照らされ続けた。
…
~余談~
今夜の出来事は、魔法の出所がユリア学園であると言う情報から、グラネスト家による何かしらの企画だったのだろうと言う結論がついた。
なにせ城務めの魔法使い達による解析で、今回の騒ぎを起こすのには、「王名持ち」と称される世界最高峰の魔法使い達が複数人集まってようやく実現できるかどうかという量の魔力が必要とされ、さらに守備兵団を黙らせられる幻術使いの情報や、目立たなかったが街の上に用意されていた雲は魔法によって作られていた可能性の示唆など、とてもじゃないが常人の為せる技ではないという結論が降ったためだ。また動機に関しても、この日はユリア学園の夏祭りの最終日だったのもあり、あの祭り好きの当主が知り合いを集めてバカ騒ぎを始めたのだろうということに落ち着いた。
この出来事は街の人々にとっては「避難警報が発令されたけど特に危ないこともなく楽しかったな」ぐらいで受け止められていたが、国の上層部は「今回のアレはやろうと思えばこの国の中枢を制圧できることを誇示するセレモニーだったのでは」と上を下への大騒ぎとなっていた。皇帝の判断により外部へこの話は漏らさないよう箝口令が敷かれ、今のところ零弥達が指名手配されるような心配はなさそうだ。
…
その日の夜、アクトとイリシアが寝床に着いた後も一階のリビングで机に向かって何かを書いている零弥に一足先にレーネを寝かしつけた伶和が現れて語りかける。
「お兄ちゃん、それは?」
「日記だよ。」
伶和がテーブルに置いたチョコレートドリンクを零弥は一口飲んで執筆を続けた。
「なんだかね、こっちの世界に来て無性に書きたくなったんだ。
見るもの聞くもの感じるもの、全てが目新しく映ったからかもしれないけどさ。でも、こっちに来て、良いことも悪いことも沢山あって、一つ一つが忘れられない、いや、忘れたくない事ばっかりだった。
でも人の記憶なんて頼りないもの、いつかは風化しちゃうんじゃないかってそう思ったら…何か形に残したくなったんだ。」
「それで、日記をつけ始めたんだね。」
「あぁ。毎日書いてるわけじゃない。書きたくなることがあったら書き留めておく、そんな感じ。でも…そろそろ残りのページも埋まりそうなんだ。」
「それじゃあ、また新しいのを買わなきゃね。」
「あぁ、随分と…いろんなことのあった四ヶ月だったな。」
しみじみとした空気が流れる。しかしそれを吹き飛ばすような笑顔で伶和が口を開いた。
「でもお兄ちゃん、これからは夏休みだよ?日記帳一冊なんてすぐ埋まっちゃうくらい楽しまなきゃ!」
「…ははっ、そうだな。楽しまなきゃな。」
「だから、そのためにも早く寝よう。早寝早起きは三文の得ってね。」
伶和の言葉に促され、パタリと書き終えた日記帳を閉じ、二人はそれぞれの寝室へと向かう。
その途中、階段を上る零弥の背中を眺めていた伶和が突然抱きついた。
「…伶和?」
「うーん、お兄ちゃん最近レーネちゃんばっかり構ってて甘えられてないなーって思ったら…」
「そっか。」
「んー、うん!充電完了!今夜はぐっすりだね!」
「寝付けないなんてことないようにな。」
「えへへ、その時はお兄ちゃんが寝かしつけてね。」
「やれやれ…。」
それじゃあと、二人はそれぞれの寝室の扉を開き、
「おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみ伶和。」
静かに扉は閉じられた。
…to be continued
これにて、「EVE's chronicle~鋼の心の少年は紫炎の腕で未来を掴む~」・・・長い!「イブクロ・鋼紫炎」第一部「転生編」は終了です。
また、ここまで読んでいただいた感想や意見がございましたら遠慮なくどうぞ。励みにさせていただきます。そして、拙作に「期待できる」と思った方は、是非ともお友達に紹介していただけると感謝感激でございます。
それでは、今後の零弥と伶和、そしてその周りの仲間たちの波乱に満ちた日常ファンタジーに幸せがありますように。




