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外道対外法(10)

「魔物の使役…だと?」

「しかもカムフラージュにしていたあの人型、作り物とは思えない。おそらく本当に魔物に人間の皮を被せていたのだろう。」


 驚愕に固まるクロム。フェノーラを抱え駆け寄る零弥も、スカンジルマの用意したモノの醜悪さに流石に嫌悪感を覚えていた。


「スカンジルマ、いくら外道とはいえ限度があるだろう!」

「やかましい!どんな手を使おうが、ここで勝てばいいんだ!ユキミネ、貴様が言った通りになぁ!」


 スカンジルマも既に正気を保ててはいないだろう。もはや彼には何を言っても逆上させるだけだと判断した零弥は、フェノーラをその場に置いて審判をしていた女子生徒の下へ駆けた。


「大丈夫か?」

「…うん、大丈夫。君は早く決着を。ここは私が…、」

「いや、逃げるのはあんただ。これはもう決闘の形式を保てていない。だが俺達も、あいつも、この決闘を中止する気は無い。

 あそこにスカンジルマの相方を置いてある。あんたはあれを担いで避難してくれ。ここは俺がやる!」


 零弥は言葉を言い終わる前に伶和の身体で身体強化をかけ、女子生徒の襟を掴んで投げ飛ばした。

 彼女は妙になれたように受け身を取り、フェノーラを担ぐとその場を離脱する。


「さてと、魔法の世界に来たならいつかあるだろうと思ったけど…遂に来たな、人外戦。」


 ざっと敵の勢力を見渡す。長い爪が特徴的な小鬼型が3体、二足歩行のトカゲのようなリザードマン型が2体、とにかくゴツく剛毛で覆われた醜悪な見た目のオーク型が1体、それぞれがその凶器、怪力、巨躯で人々に襲いかかろうとしていた。


「お前ら、今までお預けくらって腹が減ってるんだろうが、残念ながらお前らにやる肉は自分のものだけだ!」


 声を張り上げると、魔物達は何事かとこちらを見る。

 その隙を逃すことはなく、零弥は一瞬で目の前小鬼型の脇をすり抜け、次点で近くにいたリザードマン型の首を白鳳で切り裂いた。身体強化も乗せた剣筋はヘッドスピードにして瞬間的に音速を超えただろう。白鳳の斬れ味の高さも相まって、力任せに振り抜いただけだが刃に血がつくこともなくリザードマン型の首の半分を通り抜けた。

 リザードマン型の首から血が噴き出す頃には零弥は次のターゲットに移っており、一歩で間を詰め、二歩で振り抜き、先程通り過ぎた小鬼型の首を刎ね飛ばす。

 しかしここで魔物の骨の硬さに一瞬動きを止められた。


(硬っ!だが…!)


 零弥は炎属性の魔力を白鳳に与え、更に一歩踏み込むことで見事小鬼型の首は完全に体から分離した。炎に焼かれたためか、出血は少ないが、頭と体が分かれて生きていられるはずもなく、倒れ伏した小鬼型の魔物はビクンビクンと痙攣するのみであった。


(さて、残るは4匹、雑魚と中ボスと1面ボスってところか?だが、全部同時に相手するのは流石に厳しそうだな。)


 いまの一幕の間に、他の魔物達は羽の剣を構えたその少女_の姿を借りた零弥_を完全に敵とみなし、警戒姿勢になっていた。

 リザードマン型が躍り掛かる。短いが鋭い爪、全身を覆う鱗が特徴的なそれは動きが非常に素早く、また尻尾はモーニングスターのように鱗が尖り伸びており、あれに殴られれば人間などズタズタに引き裂かれながら叩き潰されるだろう。

 しかし、先程零弥はそれを一目見た瞬間にその弱点を突いていた。爬虫類の特徴を色濃く持つリザードマン型の魔物は、背中側は特に硬いが、腹側は鱗が薄い。特に喉元は首を動かす為に鱗が一部なく、その周りの鱗は少し反った形をして浮いている。この為爬虫類系の生き物のこの部位の鱗は逆鱗と呼ぶ。

 零弥はリザードマン型の姿を見て「腹側が弱そうだ」と当たりをつけた。また直立歩行が出来るならば骨格構造は人と似ている筈で、そうなれば最も弱いのは首元である、そう直感的に判断し、リザードマン型の逆鱗付近を見事に斬り裂いたのだった。

 しかし弱点が割れてるとはいえこれでも人々の旅路を幾度となく脅かしている魔物の一つ。正面からの戦闘では爪や尻尾による攻撃、高い膂力からの飛び蹴りや急襲、そして…、


「Shaa!」

「うわっ!?っ痛!」


 一歩引いたかと思ったら口を大きく開けて何か液体のようなものを吐き出した。距離も近く間一髪で避けたものの、跳ねた水滴が頬に触れた瞬間焼けるような痛みを覚えた。強力な酸。おそらくリザードマン型は胃液に近い成分の液体を吐き出す能力を持っていた。

 そしてリザードマン型が一歩引いたならば、その間隙間を埋めるように小鬼型が襲いかかってきた。

 小鬼型の背の高さは10歳程度の子供と同じぐらいだ。しかし力は大人の男と同じ程度にある。

 鉄錆色の肌を持ち、手の4本の指のうち人差し指に当たる指には長く硬い爪があり、額には小さな角がある。これは群れを形成して人を襲う小鬼型の中で最も数の多い通常型の特徴になる。

 2匹の小鬼型は代わる代わるその爪をもって攻撃を繰り返す。零弥はそれを右へ左へと回避するが、それを狙い撃つかのようにリザードマン型の酸液が飛んできた。


(くそっ、他人の身体だと乱戦は向かないな!)


 自分の身体ほど繊細で機敏な操作ができないためか、回避は大きく移動する形しか取れない零弥。いくら“支配”の力とは言っても、結局一番動かしやすいのは自分の身体なのだ。

 心の中で愚痴を言っても相手は止まらない。それどころか、地面が揺れる感覚、横に避けるように動く小鬼型そして視界の中央には巨体を揺らして突っ込んでくるオーク型がいた。

 オーク型、と零弥は心の中で呼んではいるが、そう思ったのは、豚のような顔をしていたからである。しかしその口の奥に見える牙はどう考えても豚のそれでは無いし、突っ込んでくる巨体は大抵が一般イメージのオークのような肥満体型のそれではなく、相撲取りのような、巨体ですら素早く動かせるほどの筋肉の塊である。

 それがその巨体で零弥を押し潰そうと飛んでくる。しかもこちらは直接戦闘など念頭に置いて鍛えているはずのない華奢な伶和の身体である。物理的にも耐えられず、また本人の生理的な嫌悪感的にも受けられるはずがなかった。火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか、零弥の意識よりも早く回避ができたのは零弥にとっても驚くべきことだったろう。

 回避した先に待っていたのは、大きく跳躍して爪を振り下ろそうとしている小鬼型の魔物であった。

 オーク型の突進を回避した勢いのまま横に転がり間一髪で小鬼型の強襲を避ける。その時、零弥の視界はある物を捉えていた。


(そこにいれば安全だと、余裕ぶってるお前の間抜け面は中々にお笑いだな!)


 それはとても少女のやっていい笑顔ではない(無論中身は少女ではないし鏡もないので修正する術もないが)。

 零弥は白鳳に雷属性を付与する。そして適当な方向に真っ直ぐ白鳳を投擲した。彼我の距離は5m前後。先程のフェノーラとの戦闘を思えば、雷属性にとってこの距離はゼロに等しいだろう。白鳳は不可思議な軌道で目の前の小鬼型、その向こうのオーク型を避け、その影から今まさに酸液を吐こうと大口を開けていたリザードマン型の口腔を貫通して突き刺さった。

 突然のダメージに混乱したリザードマン型。零弥は自身に雷属性の身体強化を乗せ白鳳と同じ軌道で接近、柄を握り、魔力も込めて力一杯振り上げる。内側から真っ二つにされた頭蓋に喉元まで出かかっていた酸液が流れ込み、焼けるような音が聞こえる。リザードマン型は地に伏し動かなくなった。

 零弥は白鳳についた脳漿などを振り払うと、相手の姿を見失いノソノソと周りを見回していたオーク型の首元へ斬りかかる。その斬撃を阻んだのは骨ではなく、その体を覆っていた剛毛であった。まるで鎧を斬ったかのような硬さで弾かれる。白鳳が柔らかな羽剣でなければ後ろに仰け反り大きな隙となっていただろう。


「刃が通らない…!」


 着地してすぐさま距離を取る。

 オーク型は一筋縄ではいかないと判断し、零弥はまず小鬼型から仕留めるべく戦闘を再開した。


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