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はじめての異世界人⑥

 水が揺らいだ。


「お、水属性か?」


 漏れたリンの呟きを零弥は黙殺した。


(水属性では無いはず。しかし、この反応は…!?)


 その水の動きは異常だった。最初は丸くなるように動いた。しかしそこからアメーバの仮足のように突出した部分が現れ、やがてそれは太くなったり細くなったりを繰り返し、人の腕や脚のような形になり、最後に頭が出来上がった。その姿は、まるっきり人の姿だった。


「これは…」

《お初にお目にかかります、レミ様。この度は私に自由な意思を与え下さりありがとうございます。》

「っ!?」


 その水人形は、音ではない、意思を伝える概念的な波動によって、零弥に感謝・敬愛の意思を伝えた。


「これは…念話か?」


 リンは驚きのあまり口が開いてしまっている。伶和はというと何が起きているのかイマイチ飲み込めていないようだ。


「え、と、お前は…なんだ?とゆうより、俺の言葉は理解できるのか?」

《はい、レミ様。私は、大気に漂う水の精霊。この度レミ様の魔力のお力添えをいただくことにより自由意志を持つことができました。》

「水の精霊?俺の魔力は水と関係があるのか?そうは見えなかったが…。」

《いえ、私の自我を形成したこの魔力は水の魔力ではありません。五大元素やそれに連なるどの魔力とも異なるものです。

 貴方の中に眠る魔力は、 二種類。一つ目は私の自我を形成しているこの魔力、そしてもう一つは五大元素の土の上位に位置する魔力。私の身体を維持することにその魔力は使われております。》


 そう言って水精は手を伸ばす。触れということなのだろう。零弥はその小さな手を指先で押すと、水であるはずなのに指は水の中に入り込まない。いやむしろ、全くと言っていいほど動かせない程に硬い。それは例えるなら土を固めたような固さでなく、もはや岩や金属のような不動の硬さというべき感触であった。


「土の上位属性…、岩か、鋼か?」

《その表現で選ぶならば、鋼、が正しいかと、私の中にある粒子の中で魔力に反応している物を集めますね。》


 水精が手をかざすとその手からポロポロと光を反射して輝く粒が溢れる。机に落ちたそれを拾うと、白い塊、おそらくナトリウムやマグネシウムといったミネラル分が析出したものであると分かった。


「金属操作、鋼属性か。お前の様子からしても、特性は“硬化”もしくは“固定”だろうな。」

《おそらく、その認識で相違ないと思われます。》


 そこまで理解して、零弥は黙ってしまった。水精の身体を人型に維持しているのが鋼属性だとして、もう一つの魔力はなんなのか。


「…お前は、いや、精霊とはどんなやつなんだ?」

《はい、私達精霊は、マナで構成された生物の基本骨子のみの存在というべきと思われます。

 私達は高濃度のマナを好み、マナの変異形態である魔力に群がる性質があります。そして、魔力の影響を受けその基本骨子を変形させ、魔力というエネルギーを、事象として発生させる。事象として発生した魔力は、マナに還元され精霊の栄養となる。

 この不可思議な魔法使いと精霊との間に交わされるサイクルこそ、魔法の正体であると、私は自身の中の本能と、零弥様より授かった知性より推測いたします。》


 水精の言葉を零弥は反芻する。

 精霊とは、マナで構成された原始生物のような存在。その本能は、魔力やマナを取り込むこと。

 そして、高濃度のマナエネルギーである魔力をマナに還元する際に、魔法が発生する。

 精霊はあくまで本能的にこの所作を行っていることになる。つまりこの水精のように、自由な意思を持って会話を行うなどは本来ありえない現象なのだ。つまり、この現象は零弥の持つ魔力によって引き起こされていることになる。

 だがそうなると、零弥のもう一つの魔力は、意思なき生命に完璧な自由意志を与えることができることになる。一体これはなんなのか?

 こんな時、ふと漫画のように対象の能力を瞬間的に測定できる機械があればと思ったが、それは現実的ではないのだろうと頭を振った。


「意思なき物に完全な意思を与える魔力。お前の中に宿るものは、何か、わかるか?俺の魔力が一体お前に何を与えたのか。例えば、命か?」


 零弥の仮定はあまりにも突拍子もない話ではある。しかし、この異常自体に対しては、どんな話でも展開しなければ進まない。


《…命とは、何を指すものか?レミ様の思う生命の定義を当てはめるとしたら、私は生命ではないでしょう。

 肉体を維持し、子孫を残すことを為せる存在を生命というのであれば、私は違います。私には生存本能も自己複製能も有りません。

 しかし、一つだけ、私の意思と関係なく湧き上がってくる感情があります。》


「それは一体?」

《私には、貴方の言葉に逆らうと言う意思が存在しません。おそらく、貴方が命を絶てと言うのなら私はそのようにするでしょう。

 この支配力は、私に与えられた魔力で出来た仮初の心、魂から発せられています。

 自らの心に逆らうには、魂を殺すか、他者の介入無くしてはあり得ません。となれば、このレミ様への絶対的従属意思は、レミ様より与えられた魔力の影響でしょう。》

「心・魂を支配し、操る魔法。それが俺の、もう一つの魔力ということか…。」


 零弥はその力の恐ろしさに、肩を震わせていた。心を、魂を支配するということは、そのものの命を支配するも同然の力。自らの手には、容易に人間を、生命を操り支配し、殺すことが可能な力がある。


《レミ様、案ずることはございませんよ。》

「…?」


 まるで心を見透かされたように水精の言葉に耳を傾ける。


《レミ様の懸念は杞憂です。レミ様のお力はレミ様だけのもの。他のいかなる有象無象によってレミ様の力が悪用されることなどございません。》

「なぜそんなことがわかるんだ?俺が、この力を悪用すると、お前は考えないのか?」

《はい。ありえません。もし、レミ様にこの世のものを支配し、破壊しようなどというお考えがあるのならば。今すぐにでも私はその感情に支配され、そこのお二人に襲いかかっているでしょう。私の意思は、レミ様のお考えをそのまま映し出す鏡でございます。》


 にっこりと笑みを浮かべる水精の言葉に、零弥の心は不思議なほど落ち着きを取り戻した。


「しかし、やはり俺はこの力を使う事が怖い。幸い、鋼属性の魔力もあるようだし、暫くはそちらを使えばいいだろう?」

《レミ様がそう考えるなら、その通りなのでしょう。

 ですが、もしレミ様が魂の魔力を上手く使いたいのでしたら、自分の魂に問いかけてみる事を進言いたします。》


 突如、水精の体が揺らぎ始めた。


《そろそろ魔力切れのようですね。では、私はここでお暇いたします。

レミ様…ありがとうございます。》

「あぁ、ありがとう。」


 水の跳ねる音とともに、水精の姿は崩れ、ただの水となった。


「…土の上位属性の鋼属性と、前例のない新たな属性、魂属性か。

また面倒なものが出てきたなぁ。」


 リンがため息まじりに呟いた。


「でも、正体不明でさえなければ何ができるかも模索できます。頑張りますよ。」


 零弥はしっかりと頷いた。

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