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青春パレード⑨

 前と変わらずの尊大な態度で因縁をつけてくるスカンジルマ。しかし今回は全般的にこちらに非があるため、レーネを貶す台詞に対しても強く出られないネオンは、奥歯を噛み締め返事をした。


「悪かったわ、私の監督不行き届きよ。その服は綺麗に洗って返します。だからまずは着替えに戻りましょう?」

「洗う?一度ガキの涎の付いたこの服を僕が2度と着ると思ったか?僕が求めるのは当然弁償だ。」

「レーネちゃんの涎が付いた…くぅっ!」

「…相変わらずね。レミ君との一件で少しは懲りて丸くなったかと思ったんだけど。」

「懲りる?僕は悪くない。悪いのは突然暴れ出したあの狂犬の方だろうが。」

「狂犬?あなたがレナちゃんに手を出したからあぁなったんでしょう?」

「黙れよ。先に手を出したのはあいつだ。」

「その前にあなたはクロムを散々虐めていた。」

「魔法がまともに使えない落ちこぼれが僕らと対等だとでも?実力こそがこの学校の全て、だろ?」

「だからって人を傷つけていい理由にはならないわ!」

「五月蝿いな。お前とのこのやり取りは飽きた。そんなことよりほら、この服を弁償して貰おうか。」

「今すぐ綺麗に洗えば汚れは残らないわ。それでいいでしょう?」

「くどいな、これは気分の問題だよ。こぎたないガキの涎がついた、この事実は消えないからな。」

「着る気がないならぜひともぼくにその切れ端を下さい!」

「フラン君少し静かにして。」


 スカンジルマとネオンの会話に余計な口を挟むロリコンの脛をネオンは蹴飛ばして黙らせる。


「まぁ、貴様ら如き平民に金など期待しないさ。その代わりに、だ。」


 おいとスカンジルマが声をかけると、後ろに控えていたアクィラをはじめとした数名の生徒がネオン達を取り囲む。


「何よ、こんな往来のど真ん中で暴れる気?」

「フン、僕がいつまでもそんな単純な手ばかり使うと思うな。」


 スカンジルマは小さな袋をネオンに向かって投げつける。ネオンはそれをはたき落したが、その袋から舞った黄色い煙を一息吸った瞬間、強烈な立ちくらみを覚えた。


「っ!?これ…は…」

「今だ。」

「きゃっ!」


 ネオンの足元がふらついた瞬間、スカンジルマの手下の一人がネオンを突き飛ばす。その先にはフランがおり、フランがネオンを受け止める形となった。


「ネオンちゃん、大丈夫!?」

「う、これは…マンドレイクの花粉?何でこんなものを…」


 マンドレイク。別名マンドラゴラ。亜熱帯地域から温帯地域の広葉樹林にて稀に棲息する魔法植物。多年草。根が人の形をしており、地面から引き抜くと強い精神撹乱作用のある蒸気をだす。成熟した個体のそれは至近距離で浴びれば死に至るとも。頭と思しき部位から地上に生える花から出る花粉には、生物の運動機能を阻害する効果がある。そうして動けなくなった生物に根を張り、その血を吸うことで完全成熟する。

 完全成熟すると根は腐り、地上部の茎が肥大化し人型になり、アルラウネと名が変わる。アルラウネの乳房から出る分泌液はアヘン・モルヒネに近い成分が多量に含まれる。

 薬学的に利用価値が高く、マンドレイクであればその花粉を利用して筋弛緩剤として利用したり、根に含まれる成分を利用した媚薬は効果が高く高値で取引される。アルラウネの乳液を乾燥させたものは麻酔薬として医薬利用され、アルラウネ自体も観賞用として飼育される事もある。ただしアルラウネまで成長すると寒冷期には種子を残して枯死する。

 しかし稀少な植物である上、アルラウネは生物を捕食するために襲う危険性が高いので、現在流通しているのは殆どが専門機関での養殖ものとなるが、縄張り意識の強い性質のため養殖も困難を極め、飼料コストもかかるため高級素材とされる。最高でクレッド(300万円相当)以上の値段が付けられた時期もあった。なお、医療利用の加工品を少量であれば医師免許の取得車であれば比較的安価で購入可能。

 余談が過ぎたがネオンにスカンジルマが投げたのはマンドレイクの花粉である。これを吸ってしまうと身体に力が入らなくなり、立ちくらみを起こしてしまう。


「この花粉は一級危険物で医療利用以外で所持も禁止のはず。なんであんたがこんなもの…」

「僕が何を持とうとお前に関わる権利はない。それよりこのガキは預かるぞ。」


 見ると、アクィラの腕の中にはレーネが抱かれている。


「スカンジルマ…あんた何を!」

「アクちん、レーネちゃんを返すんだ!いくら君でもこれは悪いことだってわかるだろ!」

「あ…、う…、」

「構うなアクィラ。今更後に引けると思わないことだな。」

「う…」

「スカンジルマ、お前…!」

「おっとそれ以上動いたら、このガキを眠らせるために使ったアルラウネの乳液を今度は直に飲ませるぞ。」

「ぐっ…」

「それに、この場でお前が暴れれば余計な巻き添えは免れないだろう。なぁ?『嵐のフラン』」


 気づいた頃には、辺りは野次馬による壁ができていた。ここで嵐星は使えない。


「ユキミネに伝えろ。ガキを返して欲しければ、どうすればいいかは分かるはずだ、とな。」

「その必要はないな。」


 後ろから声が聞こえる。言うまでもない、零弥である。


「スカンジルマ…お前、まだこんなこと続ける気なのか。今度はブタ箱希望かな?」

「黙れドブ上がり。貴様みたいな下等な存在に僕らの苦労はわかるまい。」

「わかる気知る気聞く気もないさ。お前みたいな下種の考えなんか聞くだけ損だ。いいからレーネを返すんだ。今ならまだ許してやる。」

「許す?貴様が僕をか?笑えないな。許しを乞うのは貴様の方だユキミネ。僕は貴様から全てを奪ってやる。」

「俺の全て?そんなもの数えるほどしか無いぞ?妹、家族、友人、命、ほらたったこれだけ。奪うだけ損だろ。」

「黙れ黙れ!貴様が現れたおかげで、僕の人生に大きな傷がついた!これは許しがたい蛮行だ!」

「クラスメイト巻き込んでクロムを苛めて築き上げたお山の大将の地位を失っただけだろう?」

「貴様が現れなければ!僕はあのままでいられた!貴様の所為で僕は父上にひどく叱られ、弟妹達に嘲笑される羽目になった!これを恨まずにいられるものか!」

「醜いな。顔だけでなく、身体だけでなく、心までもこうも醜い。何がお前をそうまでした?」

「僕はマウイザッピ家の嫡男だ、だが父上は僕よりも魔力に優れた弟ばかり贔屓する。僕は示してやらなければならなかったんだ。僕の方が当主にふさわしいと!それを!貴様が!」


 一言一言に地面を踏みならすスカンジルマ。怒りに任せて魔力が溢れ出し、地面にヒビが入っていく。


「…?アクトさん、どうゆうことです?」

「貴族というのはね、普通は嫡男、つまり本家の長男が当主になるんだよ。だが、魔法使いの一族の場合、最も優秀な血を残すために、優秀な者を当主に定める慣習がある。彼の場合、弟の方が魔法能力が高いのだろうね。」


 アクトの説明を聞いて納得の表情を浮かべる零弥。しかし、スカンジルマは今や冷静さの仮面が崩れてきていた。


「えぇい忌々しいヤツだ。貴様の言うことやることは一々僕の勘に触る。もういい、ここにいる貴様の娘だとか言うガキをここで薬漬けにして殺してやる!」


 スカンジルマは懐から白い液体の入った小瓶を取り出すとレーネを抱えたアクィラに向き直る。しかし、そこから一歩を踏み出そうとした瞬間に、腕を切り裂かれるような痛みに瓶を取り落とした。

 続けて足にも痛みが走り、スカンジルマは倒れ込んでしまう。


「ぐぁあ!なんだ、これは!くそっ、アクィラ、貴様でもいい、ガキにそれを飲ませろ!」

「え…で、でも…」

「いいからやれ!この僕の命令が聞こえないのか!」

「うぅ…っ」


 アクィラはスカンジルマの剣幕に押され、小瓶に手を伸ばそうとしたが、目の前でその小瓶は踏み潰され粉々になった。

 女子生徒の靴。目線を上げると、いつも柔らかで穏やかな雰囲気でいたはずのクラスメイト、伶和が底冷えするような冷え切った目で立っていた。その手には、冷たいほどに美しい白い輝きを放つ剣が握られていた。


「っ…!」


 その恐ろしさに息が止まるアクィラ。しかし伶和の目はアクィラでもレーネでもなく、スカンジルマをまっすぐに見据えた。


「っ!?」

「驚いた。お兄ちゃんを怒らせて、まだそんな事を考える人がいるなんて…。いや、何も考えないからこうなるのかな?

 でもね、あなたはもう少し慎重になるべきだった。一度目で懲りるべきだった。」


 伶和の眼からは、どんどん温度が下がっていく。周囲の人々皆が、悪寒を感じるほどに。

 零弥は爆発するように怒るが、伶和は逆に怒るほどに冷えていくようだ。


「もう、いい加減にしてよね。苦しみばかりの世界から、ようやく出られたんだよ?あなたみたいな人に振り回されるのは、もう嫌。本当、いなくなっちゃえばいいのに!」

「やめろ伶和。」


 逆手に構えた白鳳を振りかざした伶和の手を、零弥が止めた。


「離してお兄ちゃん!そいつ殺せない!」

「殺すな。お前の綺麗な剣をこんな汚い血で染めるつもりか?」

「でも!」

「これ以上やるなら、怒るぞ?」

「っ!…わかった。」


 零弥の言葉を聞いた伶和はようやく大人しくなった。


「ほら、起きろスカンジルマ。」


 【超活性・治癒】をかけてスカンジルマの傷を治すと、零弥は正面に立って声をかけた。


「こんなことで…僕に恩を売ったつもりか?」

「恩に感じたならそれでもいいが、俺もお前に恩を売る気は無いし、お前を許す気もさらさらない。だが、これ以上やってはやり返されてを繰り返すのも面倒だ。だからこれで最後の勝負にしよう。

 決闘だ、スカンジルマ。」

「なん…だと?」

「俺が負けたら、煮るなり焼くなり好きにしてくれて構わない。なんなら奴隷にだってなってやる。」

「そんな、お兄ちゃん!」


 伶和を無言で制し、零弥はスカンジルマを見やる。


「スカンジルマ、お前は俺から全てを奪うと言ったな。ならばそれに応じてやる。ただし、お前が負けた時は、それ相応の代償を払ってもらうぞ?」

「ふん、貴様の全てと僕の全てが等価だと思っているのか?」

「そう言うだろうとは思っていた。俺はお前から何かを奪っても嬉しくないからな。お前が支払う代償はものじゃあない。

 たった一つ約束してくれればいい。そう、たった一つ、だ。」

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