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青春パレード⑧

 さて、時間は少し遡る。

 零弥と伶和の当番は午後からである。開始からしばらく、最初の客が出て来るところまでを確認し、システムが問題なく機能していることを確かめて、二人は学園街の方へと向かった。そして、学生寮を繋ぐ大アーチの下へ来ると、探していた人物を捉えた。


「アクトさん、イリスさん。」

「おぉ!レミ君にレナちゃん、元気だったかい?」

「はい、おかげさまで。いい体験をさせてもらっています。」


 挨拶とともに握手する零弥とアクトの横では、伶和とイリスのハグが交わされていた。


「二人とも元気そうで安心したわ~。ほら、レミ君も。」


 そう言って零弥はイリスに抱きしめられて、頬を紅潮させながらぎこちないハグを返していた。


「そ、それよりも、今回は僕らも出し物をしてるんですよ。ちょっと時間はかかりますけど、やって行きますか?」

「へぇ、面白そうだね。どんな事をしてるんだい?」

「迷路です。懸賞付きの。30分以内にスタンプを全部集めて出てこれれば景品が貰えるんです。」

「あら面白そうね。私達もやっていいの?」

「モチロンです!」

「僕らは午後から当番なので、それまで一緒にお祭りを回りましょう。」


 夫妻の手を取り案内をする二人。事情を知らない者から見れば、兄妹の生徒とその様子を見に来た両親の仲睦まじい家族である。ある者は「似てない親子だな」くらいには思うだろうが。

 だが事実その通り。たとえ血の繋がりがなくとも、兄妹にとって見れば、過去も明かさずなんの信用もない筈の自分達を預かってくれて、あまつさえ学校に通わせてくれたリン、およびセシル夫妻には、返しきれない恩を受けているし、夫妻から感じる安心感はかけがえのないものであった。

 ところでなぜセシル夫妻はここまで零弥達を擁護してくれるのだろうか。その答えは、夫妻の種族に関係があった。

 アクトは人間とエルフのハーフ、イリスは月狐族とよばれる獣人種である。ここで問題になるのは、どちらも人間の血が薄いということにある。

 亜人種同士の結婚はあまり祝福されるものではない。理由は単純で、子供ができにくいためである。人間と亜人種では人間同士、同族同士に比べれば低いものの、問題にならない程度に着床率は高い上、亜人種の血が濃くなりすぎることによって生まれる遺伝病の防止のためにも国によっては奨励されている。

 しかし、亜人種というものそのものが元を辿ると人間と他種族の混血である事が多く、多種族の遺伝子は競合しやすく子供が出来にくいのである。故に、異なる種の亜人同士の間に生まれた子は少なく、その先どのような種になるかの統計的研究が進んでいない状態にある。

 話を戻すと、そのような理由でアクトとイリスの間には子供が出来にくい。リンが生まれたのは非常に幸運だったと言えるだろう。

 そんな訳で、零弥と伶和がセシル家で世話になるという話を聞いた時、まるで自分達に子供が出来たかのような思いになったのだという。いまや、二人はセシル夫妻の息子娘であるも同然であった。

 零弥と伶和の二人は、親からの愛情と呼ばれるものを受けた事がない。そんな二人でも、セシル夫妻から本当の子供と同じように注がれる愛情を本能的に受け取って、夫妻に対する安心感を得ているのだろう。

 夢に見る事すら叶わなかった願い、抱く事すらしなかった望みは、異世界でその芽を出す。いつか大輪の花となるその日が来るとき、二人は運命の神に打ち勝ったと言えるだろう。

 しかしそのような事を今言っても詮無きこと。今はゆるりと流れるこの平和を存分に兄妹は噛みしめるのであった。



 零弥と伶和がセシル夫妻と共にいた頃、ネオン、レーネ、フランという珍しい組み合わせの三人は、主に学舎の外の表屋台を回っていた。


「ボクはレーネちゃんと一緒にお祭りを見て回れるから役得だけど、ネオンちゃんとクロっちが一緒にいないのは意外だなぁ。」

「私とクロムをワンセットで数えるのはやめて。クロムとは幼馴染の腐れ縁ってだけで、私だって一人で行動することはあるよ。」

「そう怒らないでよ。別に茶化してる訳じゃないんだし。あ、ほらレーネちゃんが何か見つけたよ?」


 思えば、フランはあくまで零弥の友人であり、レーネ目当てで一緒にいるような節があった。みんなでいる時もネオンとフランが直接会話した事はほとんどなかったと言える。

 現在クロムはクラス企画の当番である。クロムほどのイケメンを置いておけば、一先ず客寄せになるだろうとは零弥の言。クロムが美形なのは周知の常識、本人の意思は無視された。

 零弥と伶和は夫妻と会うために行ってしまったので結果的に余った二人でレーネの面倒をみることにしたのである。しかしこの状況になるのを提案したのはネオンであった。理由は純粋に良かれと思ってのことで、零弥と伶和がセシル夫妻と水入らずに過ごせるように、レーネは自分が面倒を見ると言いだしたのである。そうしたら余計なものも付いてきた次第である。


「ママ、いい匂い、これなぁに?」

「本当、いい匂いね。これはブロッフ(broff。アダムで言う所のポップコーン)。食べてみよっか。すみません、これ一袋下さい。」

「まいどー、味付けはどします?」

「何があるの?」

「スタンダードに塩かけたやつと、シロップかけた甘いのと、柑橘系の酸っぱいのがあるっす。」

「レーネはどれがいい?」

「うーん…甘いの。」

「じゃあ、シロップ味下さい。」

「あざーす。」


 店員は予め作ってあったであろうブロッフの入った袋を取り出す。値段は50ルック、日本円にして150円程度。

 手渡された袋をレーネは早速開けると、中からふわりと甘い匂いが漂ってきた。一粒取り出して口の中に放り込むと、優しい甘さが舌の上で溶けていく。シロップというのはハチミツの事であったようだ。


「ふわぁ…あま~い。」

「そう、私も食べたいな。」

「いいよ、はいあーん。」

「あーん…うん、甘くて美味しい。」


 レーネの手から直接口にブロッフを入れてもらい食べるネオンを見て、フランもそれにあやかろうとやって来た。


「レーネちゃん、ボクも食べたいな。」

「フワ兄も?いいよ。」

「やたっ、あーん…。」


 早速口を開けて待機するフランであったが、ネオンに比べてフランは背が高く、多少かがんだところでレーネの手から直接入れるには少し遠い。遠いので、レーネはフランの口にブロッフを投げ込んだのであるが、偶然か意図的か、絶妙にスナップが効いたその投擲は真っ直ぐにフランの口に飛び込み、そのまま喉の奥に直撃した。


「っ!?んぐっ!おふっ!」


 当然のごとくむせる。


「ちょっとフラン君?レーネがせっかくくれたもの、吐き出さないでよ?」

「お゛、お゛ぅ…」


 えづき、咳き込むフランであったがネオンの言葉で無理やり呑み込んだ。


「フワ兄、大丈夫?」

「ふふ…美味しかったよ、ついむせちった。」


 もちろん、味などわかるわけもなく。心配するレーネには適当を言って乗り切ることにしたようだ。


「はい、お疲れ様。」

「ヴー、飲み物が欲しくなったなぁ…。」

「そんなあなたに大チャンス。1エルンで30分以内にゲームクリアで豪華賞品プレゼント。中等部3-Bの暗闇迷路、行ってみる?」

「わー、ネオンさん宣伝上手~(棒)。」


 30分のクリア景品でもらえるドリンク券は5杯分。確かに1エルンで得られるものとしては得するが、そもそものクリアが難題であり一発勝負である以上、時間と金の無駄となる可能性が遥かにに高い。フランはおざなりに返事した。

 そんなやり取りのうちにも、レーネは次の食べ物の匂いをたどってフラフラと足を進めていた。



 それから暫く、焼きサミン、綿飴、スウェルスピー(アイスクリンのこと)と、次々と食べ歩く。


「レーネ、あんまりフラフラしないで。危ないわよ?」


 ネオンの制止も虚しく、レーネは匂いに任せて歩き、とうとう人にぶつかった。それだけでなく、その人物のズボンにはスウェルスピーが付いてしまった。


「なんだガキ、僕の服にこんなものを付けて。僕がザッピマイウ伯爵家の子息と知っての狼藉か?」


 何かにぶつかったその直後、このような台詞が飛んできたためか、レーネは言葉の意味が理解できずに立ち尽くしてしまった。


「おい、聞こえなかったのかガキ!」

「レーネ!ほら言わんこっちゃない!」

「ん?その声は…、」


 駆けつけたネオン、レーネはネオンに呼ばれて彼女の元に歩んで行く。ネオンはぶつかった相手に謝ろうと顔を上げ、相手の顔を見るとやや驚いた表情を見せた。

 やや遅れてきたフランはレーネに浴びせられた怒号の声に聞き覚えがあった。


「スカンジルマ…あなた、復学出来てたのね。」

「ネオンか。この躾のなってないガキはお前の連れか?とゆう事はアクィラが言っていたのはこいつのことか。」

「えぇ、ごめんなさいね。まだこの子、人の多いところに慣れてないの。それにお祭りって言うものも初めてで興奮しちゃったみたい。悪気があったわけじゃないのよ。」

「そんなことはわかっている。まともな知性があればこの僕に粗相をするなんて愚は犯すまい。

 それよりこのガキのせいで僕の服に汚れがついた。これをどう始末をつける?」

生存報告

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