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青春パレード④

 夏祭り本番まであと2日。午後三時を回った頃、多くの生徒達は出し物の準備を終え、本番前に自分たちの出し物を楽しんで帰ったため、学舎の中での人影は少なかった。そして、中等部3年C組の教室前では学級長がやや苛立ちを見せながらある人物を待っていた。


「…あっ!レミ君、クロム君!あなた達の指示通りに迷路を作って、レミ君に頼まれたモノまで用意してるのに、あなた達がいつまで経っても来ないから完成しないわ!」


 そこに現れた零弥とクロム、見つけるや否や詰め寄る学級長。クラスメイトに時間を割いてもらってまで作ったのである。2日前で未だに完成していないというのは焦るのも頷ける。


「ゴメンゴメン、でもまぁ、あとは俺たちでやっておくからさ、学級長はもうゆっくりしててよ。あとは本番での客の案内の練習でもしてさ。」


 クロムがそう言って宥めようとするも、委員長は首を横に振る。


「そうは行かないわ。だいたい、私達はあなた達が用意した『秘策』が何か、全くわからないのよ?」

「そりゃあ、秘策、だしな。」

「いいよクロム。今回の企画は元々学級長が立ち上げたんだ。学級長には知る権利がある。」

「でも、この秘策はバレたらおしまいなんだろ?」

「あぁ、だから学級長には、この秘策を知る権利とともに、口外しないことを絶対遵守してもらう義務がある。それさえ約束してくれれば、学級長ぐらいになら見せてあげられる。」

「?」


 怪訝な顔で零弥を見る学級長。そこにクロムが話題転換的に話しかけた。


「あ、そうそう、景品だけど、頼んだもの用意して貰えた?」

「え?うーん、まぁ、一応言われた通り用意したわ。でも、本当にこんなもの景品にして大丈夫なの?」


 学級長が紙袋から取り出した箱に入っていたのは、不思議な模様を象ったネックレス。


「障壁の魔法具。魔力を流すだけで障壁魔法を展開できる魔法具。これを最初に15分以内にスタンプラリーコンプリートできた人にプレゼントって、いくら迷路の中とはいえ、やろうと思えばクリアできるよ?他にも20分以内で先着1位から10位までに学食の食券10エルン(3000円相当)分。一回2エルンなんだからね?回数制限のある使い捨て式だとしてもこの魔法具だけでも1シンバル(3万円相当)もしたのよ?元々利益を見込んでやるわけでなくても早々にクリアされたら大損よ?」

「そこをなかなかクリアできないようにするのが俺たちの秘策なんだぜ。それに、誰もクリアできなかったら返品してお金も返してもらえるように頼んでくれたんだろ?」


 クロムは自信満々に応える。


「う、うん、クロム君の名前出したらすんなりと…。」

「あの魔法具売りな、実は闇ルートの商人でさー。俺がその証拠掴んじまったことがあるんだよ。」

「えぇっ!?この国の法の番人であるリグニア家の人にバレたらそんなのおしまいじゃない!」

「だから、俺の家の名前を使って弱みを握っておいたのさ。こんなところで役に立つとはね。」

「クロムがそうゆうことをするとは意外だな。」

「相手も相手だからな、お互い様ってことさ。まぁ、この件であいつとは手切りだな。今度親父にチクっとくよ。」

「えげつねぇ…。」

「…どうせあと少しで使えなくなるんだから、使えるときに使っとかなきゃ、な。」


 最後のセリフは小声であったため、学級長に届くことは無かった。零弥はクロムから勘当の件は聞いている。やはり余計な口は挟まなかった。


「さて、そんなことより、さっさと仕上げをしなくちゃ。…うん、よくできてる。ちゃんと設計図通りに作ったんだよね?」

「そりゃあそうよ。確かにスタートからゴールまで行くだけなら単純だけど、それ以外は結構複雑に出来てるものね。簡単に作り変えるなんて出来ないわ。」

「それなら安心。それじゃあまずは、スタンプを配置しよう。俺とクロム2人でやる予定だったから、学級長はここで待ってて。」

「え、それじゃあ私いる意味ないじゃない!」

「んじゃあ、学級長、レミについて行きなよ。ついでにレミに秘策について教えて貰えばいいじゃん。」

「わ、わかった…。」


 零弥はクロムに3つのスタンプと一枚の地図を渡す。


「じゃあ、任せたぞ。」

「おうよ。」


 クロムは一足先に迷路の中に入っていく。その後を追って零弥と学級長は迷路に足を踏み入れた。


「あの…そろそろ教えてくれない?レミ君たちが考えた秘策ってなんなの?」

「俺たちが考えた秘策は全部で3つ。1つは、情報統制だ。」

「情報統制?」

「情報の拡散を防ぐ一番手っ取り早い方法は『情報を知らせないこと』、つまり、知ってる人が少なければその人達が喋らない限り拡散することはない。皆に『零弥とクロムが何か知っている』という情報しか与えていなかったのはこのためだ。」

「うぅ…なんか、納得したけど…。」

「皆を信用していないわけじゃないけど、人間いつ口を滑らせるか、可能性が0じゃない以上、できるだけ知る人間が少ないに越したことはない。皆の不安を煽ったのは申し訳なかったけど、やるなら成功させたかったからね。」

「そっか。」


 零弥はまるで迷う様子もなく歩を進め、行き止まりに着くとスタンプを鎖と釘で壁に固定していく。


「迷路っていうのは、その構造がばれてしまえばあっという間にクリアできる。だから、スタンプを配置する場所は予め候補を幾つか立てて、そこからランダムに選び出したんだ。」

「さっきの情報統制の話に似てるね。」

「まぁ似たようなもんだ。さっきのは『知る人間を減らす』ってことだけど、こっちはさらに根本的な技だ。『火のないところに煙は立たぬ』、ない情報は知りようがないのさ。」

「なんだろう、学園祭の準備の筈なのに、レミ君の話を聞いているとまるで攻撃に備えてるような気分になるよ。」

「迷路がなんのためにあるのか。その原点は王の財宝を墓荒らしから守るためにある。俺の知る限り最古の迷路は、一度入れば財宝に辿り着くことはおろか、出ることすら出来ないと言われている。」

「レミ君はまさかそんなものを作ろうとしてるの?」

「まさか。クリアできないゲームを作るほど性格悪くはないよ。」


 話をしているうちに、手元のスタンプは全て配置が終わった。

 帰り道の中学級長は、零弥がどうして一切迷うことなく進めるのかと思ったが、何のことはなく、彼がクロムに渡していたものとおそらく同じ正解のルートの書かれた地図を持っていたためだとわかった。


「お、レミもおわったか。」


 外ではすでにクロムが待っていた。


「お疲れクロム。それじゃあ第二の秘策を設置しよう。」

「ガッテンだ!」

「何をするの?」

「学級長に頼んであった暗幕を使うよ。この迷路をそれで全部覆うんだ。」

「あぁ、そのためにあんなに沢山の暗幕を用意したのね。言われた通り、全部ひと繋ぎの一枚にしておいたよ。」

「ありがとう。それじゃあ、ここは俺に任せて。」

「え、これも手伝うことないの?」

「もともと学級長抜きで2人でやるつもりだったし、あれはレミ1人に任せた方がいいぞ。」

「でもレミ君1人であんな大きなもの…!?」

「…我が呼び声に答えよ。【精霊喚起】!」


 詠唱が終わると、零弥の周りに風の塊が幾つも現れる。それはやがて妖精のような姿になる。


《あれ?ご主人、今日は僕以外の風の精霊も呼んだの?》

「あぁ、今回はシルフィン1人じゃちょっと荷が重いと思ったからね。皆の協力が不可欠なんだ。」

《そっか。それで、今日は何をするの?》

「あそこにある黒い布で、ここにある迷路を全部覆って欲しいんだ。」

《オッケー!よーしみんな、いくぞー!》


 シルフィンを筆頭に、風の精霊たちが暗幕に集まり、巨大な暗幕がフワリと持ち上がり空中で開いていく。


「く、クロム君、アレは…?」

「零弥の魂属性魔法の記念すべき第1作【精霊喚起】だ。ああやって媒体にしたものに対応した精霊を呼び出して一時的に協力を得られるんだ。」

「え、風属性魔法じゃないの?」

「零弥は風属性は使えないぞ?」

「そ、そっか…。」


 そんな話をしているうちにも、零弥は精霊たちに指示を与え、あっという間に迷路を暗幕で覆ってしまった。


《ご主人、終わったよ!》

「あぁ、ありがとう。」

《ねーねーご主人様、あの迷路、とっても楽しそう!遊んでいい?》

「壊さない。ケンカしない。教室の外に出ない。それさえ守ってくれればいいよ。」

《やったぁ!》


 風の精霊たちは次々に迷路の中に入っていく。


「さぁ、あとは俺たちで、この暗幕を固定するよ。」


 釘とトンカチを持って、3人は作業に入った。迷路の中からは、精霊たちの楽しそうな声が木霊し続けていた。

 暗幕の固定が終わる頃には、魔力が切れたのか、精霊達はみんないなくなっていた。


「よし、そんじゃあいよいよ真打登場だな!」


 クロムが拳と掌を打ち鳴らし、ここに来る時に運んでいた毛布に包まれたものに近づいた。

 取り払われる毛布、その中から現れたのは、板であった。


「何これ、私たちの作ってた壁と変わらないんじゃ…。」

「ところがどっこい!」


 クロムは壁に手を当て力を込める。すると、その壁が180度回転したのである。


「回転扉!?」

「これが今回の秘策の真骨頂。これを三箇所、この迷路の途中に仕掛ける。この扉の存在に気づかない限り、その先にあるスタンプを手に入れることはできないって寸法さ。」


 それを聞いた学級長は、驚愕の目で零弥を見た。


「レミ君達が何をしているかを知らせなかったのも、スタンプがどこにあるか決まっていなかったのも、全体を暗幕で囲ったのも、全部この扉の存在を隠すためだったってことなのね!?」

「この仕掛けにいち早く気付いた上で全てのスタンプを探し出し、15分以内に脱出する。余程勘が鋭くて、運が良くなければクリアできるものではないと思うよ。」

「でもいいのかな?こんなの半分詐欺だよ?」

「バカ言うな、たった2エルンでシンバル相当の魔法具がそんな簡単に手に入ってたまるか。美味い話ってのはなにか裏があるようにできてんだよ。それに、迷路の形状は不明な以上、何があってもおかしくない。そこにキチンと頭を回せるやつだけが勝利できるわけだよ。」


 クロムはなぜかこうゆうギャンブルや金を賭けたゲームに関してやたらと含蓄のある言葉を時折口にする。おそらくそうゆう経験があるのだろう。


「まぁ、迷路は何も複雑だから難しいとは限らないってことだな。」

「…それで?これはどこに仕掛けるの?」

「こればっかりは…学級長にも見せるわけにはいかないから、悪いんだけど…。」

「まぁ、そうだろうと思ったわ。」


 学級長は半ば諦めた顔で呟いた。


「それじゃあ、仕掛けるか。」

「おう!」


 学級長の去った教室で、2人の生徒が暗躍する。


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