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未来への一歩⑧


 零弥達とオシムの間に割って入ってきた生徒は、名をフラン=エレクという。学年は零弥達と同じく中等部3年。しかしAクラスの生徒であるというし、寮の居室も3階にあるという。零弥達とはまず接点を持つ機会がない。そんな彼がなぜ助けに入ったのだろう?


「可愛い子が泣いてるなら、それ以上の理由はいらないよね。」

「ごめん、よくわかんない。」


 ネオンによって一刀両断のツッコミを入れられた。

 フランは1つ咳払いをし、先ほどまでの眠いのか怠いのかという目つきが嘘のように真っ直ぐにこちらを向いてきた。


「人は歳をとる…。」

「?」

「歳をとれば成長する。成長すればするほどに、変わっていくものだよ。子供の頃の純粋な輝き、それを僕は見ていたい。

 僕がこの学校を選んだのだって、偶々魔法の素質があったということ以上に、街という同年代の人達だけでなく多くの人が集まる場所があるから。街があれば様々な人が集まる。それならば子供だっているはずだと思ったんだ。なのにこの街に来ているのは大人の商人ばかり。正直枯れたね…。そこに天使が現れたとなればもう是非ともお友達になりたいってこの気持ちわかるよね。

 だからレミ君。いやお義父さん!レーネちゃんとの清く正しいお付き合いを前提に是非とも友達に…」

「そこまで聞かされてイエスと答える親がいるかボケ!あとお義父さんてなんだおい!」


 机を叩き渾身のツッコミを放つ零弥であった。


「えー…」

「なんでそんなんで通ると思ったかねぇ…。」

「ハァ…なら仕方ないね。」


 椅子から立ち上がるフラン。これは諦めたかと思われたが、


「レーネちゃん僕と友達になろう!」


 次なる行動はあまりにもストレートすぎたので、一同総ズッコケをかます羽目になった。


「フラン…テメェなぁ…。いくらレーネちゃんが子供っつってもさっきの話聞かされて頷くとでも…」

「いいよ。」

「「えっ!?」」


 レーネの即答は、フランも含めた全員を驚かせた。しかしレーネは続きの言葉を持っていた。


「レーネは友達になってもいいけど、パパとも仲良くして。じゃないと一緒に遊ぶのはだめ。」


 その言葉を聞いて、フランは先程よりも覚悟のこもった目を零弥に向けた。


「な、なんだ?」

「レミ君、いやレミっち!僕と決闘だ!君が勝てば君に従おう。僕が勝ったら僕の要求を呑んでもらうよ!」


 ここに、下心に満ちた戦いの火蓋が切って落とされたのであった。


「いや俺そんなの受ける気ないんだが…。」



 そしてその日の午後の魔法の実践授業の後半、零弥はとっくに自分の番は消化していたが、突如としてリンに呼び出される。


「聞いたぞレミ、決闘をやるんだな?」

「え?」

「相手はAクラスのフランか…。風紀管理部の報告書によれば素行に問題ありの生徒だと聞くが、実技の成績は優秀な生徒だ。お前なら大丈夫かもしれんが、私も微力ながら立会人として参加することにした。」

「ちょ、待ってください。俺はそんな話受けた覚えは…、」

「む、しかし申請書は書かれているし、お前のサインも認められているぞ?」


 リンが懐から取り出した紙には「決闘申請」の文字。そしてそこにはフランと自分の名前が書いてあった。

 零弥はそんなもの書いた覚えはなかったが、大方クロムあたりが書いたのであろうと決めつけて、溜息を一つ飲み込んだ。


「いいか、決闘というのは名前の通りだ。前提として、魔法使い同士での戦いであること。自身の使い魔以外の他者による介入はあってはならない。それ以外は手段は問わない。

 ルールとして、原則は殺し以外は何があっても自己責任で行われる。そして、相手の命を奪う以外の方法で無力化するか、降参させた方の勝ちだ。

 そして、この戦いの勝者は敗者に対し、一回の絶対命令権を与えられる。敗者がこれを拒むことは最大の汚名となる。たとえ、一国の王とされるものであってもな。」

「なんか…、本当に決闘なんですね。」


 思ったより物々しいその内容に若干の悪寒を覚えていたが、思い返してみれば、今まで何度か命の危険すら覚えた経験をしてる彼にとってみれば、今回の「命を奪ってはいけない」ルールがある分気が楽ではあった。


「レナに聞く限り、お前たちの祖国は基本的に平和極まる場所と聞いていたのだが…、」

「じゃあ俺の周りだけが例外的だったんですかね。」

「やれやれ…。」


 呆れ気味にリンはついて来いと歩き出した。

 この学校では、決闘はなにも悪いことではない。

 互いの意見が食い違い、ままならぬ状態となった時の解決策としては非常に明快であるし、これを通して互いの力を研鑽し合えば、それだけ練度が上がるのだから、多少の怪我のリスクを考慮してもプラスは多いということだろう。

 というわけで、この学校では伝統的に、決闘は学舎の中央の競技場で行われる。また、これは公開の行事のようなもので、立会人や判定者も学校の人間が執行う。さらに決闘が行われる時は、生徒の要望があれば見学が許される。

 つまるところ、一部では比較的有名人なフランと噂の転入生の零弥の対決カードは多くの生徒の注目の的となり、裏では賭けも行われているようである。

 もちろんそれを当人達が知る由はない。フランは或いは知っているかもしれないが。


「それではこれより、中等部3年Aクラス、フラン=エレク対、中等部3年Cクラス、レミ=ユキミネによる決闘の儀を執り行う。双方、礼!」


 互いに小さく会釈をする。それを確認すると、リンは後ろに下がり、今回の判定者であるAクラスの担任が前に出てくる。


「今回は特別な条件はなく、通常の決闘の形式で行うであります。

 勝利条件は殺害以外の方法による無力化、若くは対決者の降参。魔法はあり、魔装器あり、その他武器の使用も基本的には認めるであります。使い魔は…両者ともいない筈でありますね。」


 半ば形式的にルール説明がなされていく。

 フランは相変わらずの半目でゆったりとした笑みを浮かべており、零弥はそんなフランの様子を眺めながら立ち回りを考えていた。


「それでは、三つ数えて始めるであります。3…2…1…始め!」


 瞬間、零弥の目の前がぶれたように見え、観客達が気付いた時には2人の間に灰色の爆風が複数現れていた。


「出た!フランの嵐星!いつの間に投げてやがったんだあいつ!?」


 早速の派手な演出に湧き上がる生徒達。

 爆風が収まると、その中心から何かが落ちる。それは、錆びてボロボロになったナイフ。零弥のものである。

 零弥は舌打ちをしてフランを睨めつける。


 (あの野郎、魔力の流れの変化はなかった。ってことは、この競技場に入ってくる前からあの爆薬を何時でも投げれるよう用意してやがったな?ゆったりしてるようで、かなり周到なやつだ!)



「今のは何?なんだか、基本7属性のどれとも違う気がするけど…、」

「あれはフランの魔装器にしてあいつだけが使える複合属性、「嵐属性」。あの爆風に触れたものは片っ端から粉微塵に破壊される。

 あれのお陰で「嵐のフラン」ってあだ名が付けられるようになったんだ。」


 疑問を呈する伶和にクロムから答えが返ってくる。


「あの魔法は物理的な破壊力が凄まじすぎて、普段の実践授業では使用が禁止されててな。あいつは特別にノルマが免除されてんだ。ほら、あれ見てみ?」


 クロムが指さしたのは地面にほど近いところで嵐星が爆発した跡。地面が綺麗に丸く抉れていた。


「地面だけじゃねえ。建物や植物でもなんでも、あれの爆発に巻き込まれて破壊されないものは無い。

 今まで直接的に人に向けられたことは無いけど、あの爆発の余波を受けるだけでも結構なダメージを受けちまう。」

「ちょ、ちょっと待ってよ!じゃあフラン君は最初からお兄ちゃんを狙ってそんなものを投げつけてたってこと?」

「本気でレミを倒しにかかってるってことだな。」


 クロムの額に、脂汗がにじむ。伶和は居ても立っても居られず、零弥に向かって叫んでいた。


「お兄ちゃん気をつけて!その魔法に触ったら粉々になっちゃう!」


 伶和の声が競技場に響く。


「伶和?(確かにすごい破壊力だが、爆薬の力じゃ無いのか?)…っ!!」


 伶和の声に気を取られ、一瞬の隙が出来た。そんな事には匙も向けず、フランは立て続けに嵐星を撒いていた。

 結果、零弥が気付いた時には、嵐星は目の前でまさに弾けようとしていた。

 轟音と共に、零弥の姿が爆風に飲まれる。それを見ていた全員の息が止まった。


「お兄ちゃん!!」

「れ、レナちゃん落ち着いて!危ないって!」

「離して!お兄ちゃんが!」


 ここが二階であることも忘れ、廊下内側の窓を乗り越え競技場へと飛び降りようとする伶和をクロムが必死で掴まえる。

 助けを乞おうとクロムはネオンとレーネに振り返るが、2人は至って落ち着いた表情で見ていた。

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