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未来への一歩④

 空の旅を楽しんだ一行は月晶竜の巣へと向かった。しかしそこは大きな滝の裏にあるという洞窟。この滝の中に飛び込まなければならない。

 現に、大元の原因は子竜が滝に打たれて墜落したことである。竜であろうとも、生半可な力ではあの滝を超えることはできないのだ。

 しかし、成長した子竜も交えた親子はそんなことは物ともせず、落下の勢いも載せて洞窟のある場所目指して滝に飛び込み、その裏にある洞の中へと入った。


「これが、月晶竜の巣…?」

「キレイ…。」


 零弥はその光景に目を見開き、ネオンは感嘆の声をもらす。そこは、床から壁、天井まで光り輝く青白い水晶が生えた空間であった。


「すごいよレミくん。これ、全部マナ水晶だよ!」

《ここは、マナの流れる霊脈の集合地点、龍脈の中にたまたま出来た空洞なのです。そのため、龍脈を流れるマナが壁から噴き出し、結晶化しているのです。》


「なるほど、マナ生命体にとってはここは絶好の場所だってことなのか。」

《はい。それに、この龍脈を求めて、あの学校は建てられたのですよ。》


 魔法使いの名家は、マナ濃度の高い土地を求める。マナ濃度の高い土地に住むと、魔法力が強まると言われているのだ。彼らにとってみれば、龍脈のある土地は、どれほどの財を投げ打ってでも欲しいものであるといえよう。


《あの学校のおかげで、この土地は荒らされることなく、我々の繁殖に使うことができたのです。》

「繁殖、ってことは、父親の竜もいるのか?」

《いえ、我々マナ生命体は、高い濃度のマナの中で、強大な魔力を持つ始祖の力を受けて生まれた種族です。

 そして、その繁殖法は、龍脈のような高い濃度のマナで満ちた土地で、己の力を注ぎ続けること。それにより、長い年月を経て、やっとあの様な小さな個が生まれるのですよ。》

「へぇ…単為生殖みたいなものか?いや、それよりは植物の栄養生殖に近いのか?」


 そのような考察を練る零弥の元に、子竜が近づいてきた。その口には、何かをくわえている。


「ん、どうしたドラ坊?くれるのか?」


 と、零弥が手を出すとその手の上には、人の頭ほどもある大きなマナ水晶の塊が渡された。それは、まるで生きているかの様に明滅している。


「えっと…、」

《治療と歌のお礼に、だそうですよ。》

「そうか、ありがとうな。」


 首の後ろを撫でてやると、ネコのようにとはいかないが、ゴロゴロと喉を鳴らし、目を細める様がなんとも可愛らしかった。

 夢の様な時間を過ごしたが、元の目的はネオンを連れ戻すこと。月の高さを見てもだいぶ夜も深いのだろうと思われた。


「さてと…、そろそろ帰らないと。明日の授業に遅れちまう。」

《お帰りですか。少し寂しくなりますね。》

「うん、次に来ることがあるかどうかも分からない。けど、この光景と思い出はずっと残っていると思いますよ。」

《えぇ、人に比して遥かに永きを生きる我々ですが、あなた方のことは忘れることはないでしょう。》


 零弥はネオンを呼ぶと、母竜の背中に乗り、再び滝を抜けた。そして谷の上、零弥がネオンを見つけた場所まで戻ると、別れの言葉でそこを離れた。


 しかし、それだけでこの事件は終わることはなかったのだ。



 翌朝、ネオンに続き零弥まで消息を絶ったと報を受け、リンをはじめとして数名の教員が2人の捜索のため庭の手前に集まっていた。

 しかし実際に捜しに行く必要は無かった。森の奥から、何かが走ってくる音がしたのだ。


「パパ!ママ!出口あったよー!」


 しかし聞こえてきた声は探していた少年少女よりも、さらに年若い子供の声であった。


「ちょ、レーネあんまり引っ張らないでくれ。俺もヘトヘトなんだ。」


 続いて今度こそ本命の1人の声が聞こえてくる。やがてその姿を認めることができた。

 零弥はネオンを背負っていた。その背中でネオンは寝息を立てている。リン達教員は胸をなでおろすとともに、2人のそばにいる少女の存在を疑問に思った。

 髪の色は薄紫色。その瞳もまた鮮やかな紫色。歳の頃は4、5歳ほどであろうか。彼女はおそらく零弥のものであろう上着を着ていた。不思議なのは彼女は裸足で、ボタンが閉じられており分からないが、おそらくその下は何も着ていないのだろうと見られた。


「おい、レミ。」

「あ、おはようございますリンさん。」

「あぁおはよう。さて、今の状況は、お前なら理解できるな?」

「えっと、やっぱり反省文ですかね?」


 疲れ切った顔の零弥を心配しつつも、リンは心を鬼にして頷いた。


「2人とも疲労困憊のようではあるが無事で何より。だが、これだけ心配をかけておいて説明の一つもないというのは見逃せない。

 とりあえずお前達は保健室で休め。昼休みに事情を聞かせてもらうぞ。そこの子供のことも共々な。」


 零弥の後ろにくっついているその少女を一瞥し、リンは集まっていた教員に話をし始めた。



 目を覚ました零弥が時計を見やると、時間は1時を過ぎていた。

 ボーッとした頭でベッドから這い出た零弥を、リンとネオン、そして件の少女が出迎えた。テーブルの上には食べかけのお弁当が広げられており、ネオンもつい先ほど起きたのだとわかる。


「おはようレミ君。」

「おはようパパ!」

「あぁ、おはようネオン、レーネ。リンさんも待っててくれたんですか?」

「あぁ、お陰で私の授業は自習だ。クロムなんかは大手を振って寝ているだろうな。」


 リンの皮肉にレミも乾いた笑いを返した。


「さてと、それじゃあ話してもらうぞ。お前達が消えたところから、あの子…レーネと言ったな?を連れて戻ってきたところまで。」


 零弥、ネオンが食事を終える_レーネは既に食事を済ませ、着替えを与えられており、今はネオンの寝ていたベッドで眠っている_。それを確認したリンは開口一番そう切り出した。


「はい。…放課後、伶和からネオンが帰ってこないと連絡を受け、俺とクロムはネオンを探しに出ました。…」


 そこからネオンを発見するまでは記憶のまま、話をした。


「なるほど、クロムとレナを捕まえた職員から聞いたのと一致しているな。」

「はい、崖の下で、ネオンが足を怪我をしているのを見つけたので、俺はネオンを介抱してました。」


 しかし、月晶竜の親子との出会いは、あくまで隠すつもりで零弥は話を綴った。もともとこの地の月晶竜の存在を秘匿する契約でこの学校は成り立っているのだ。零弥が勝手に話す訳にはいかない。

 ちなみにネオンが足を怪我しているのは本当だ。しかし、この怪我は零弥達が月晶竜の親子と別れてから出来たもの。彼らと別れたのは時計がなく確認できなかったが12時を過ぎていた。15歳の子供にとって、夜更かしに慣れていないと辛い時間だろう。ネオンは生活リズムが非常に一定していたため、眠気に襲われて木の根に躓いたのだ。


「そこで、俺がネオンをおぶって戻ることにしたんです。そこで、レーネと出会いました。」


 零弥は昨晩のさらなる事件に想いを馳せた。


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