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未来への一歩②

 夜の学舎に残っているような人物は、あまりいない。遅くまでサークル活動でいるものたちであっても門限である夜9時以降は学舎から追い出される。現在8時半、もう用務員が帰宅を促すように生徒たちを追い回す時間だ。声を出してネオンを探すのは用務員を呼び寄せてしまう危険性が高い。

 伶和は図書館、購買方面、クロムは運動場、部室棟方面へ向かい、零弥は校舎周辺を探し回り始めた。

しかしすでに10数分が経過してもネオンが見つかる様子がない。零弥はふと思い立って校舎裏へ回って考えた。


(ネオンは校舎裏からどこへ行ったんだろうか?購買の方から歩いてきたようだし、部室棟?それならクロムでも見つけられるか。だが、もしそうじゃ無かったとしたら…、)


 零弥はふと横を見る。そこは始業式の日に言われた「進入禁止」の場所。生徒たちから「庭」と呼ばれている森であった。そこには山道のように、人によって踏まれてできた道があった。


 夜遅く、明かりもない暗がりの中、零弥は森の中を耳を澄ませ、目を凝らしながら歩き回る。なんの手がかりもないまま20分も過ぎた頃だろうか。彼の耳は小さく響く音を捉えた。


「!?これは…歌?」


 零弥はその歌を辿りながら歩く。やがてたどり着いた先には大きな谷、そして滝、歌声はその谷底から聞こえてきた。


「ネオンの声…、まさか。」


 零弥は谷底を覗き込む。そこにはネオンが座り込んでおり、彼女は何かに寄りかかるようにして歌っていた。


「なんであんなところに…とにかく降りなきゃ。来い、『AcciaioAnima』!」


 腕輪に左手を添えて魔装器の名を呼ぶ。すると腕輪は幻光を放ちながらその姿を変え、本来の姿を現す。

そして零弥は、そのまま崖を飛び降りた。

 揺らめくマントは、風に煽られることなく横に広がり、パラシュートのように落下の速度を緩めていた。そしてゆっくりとした速度で20m以上はあろうかという谷の底まで降りて行った。


「ネオン!大丈夫か!?」

「え、レミ…くん?」


 零弥の呼び声に歌声は止み、ネオンは驚き交じりに見上げた。

 着地の瞬間、零弥は翼のようにマントをはためかせ見事軟着陸した。


「レミくん、なんでここに?」

「それはこっちのセリフだよ。伶和から帰ってきてないって聞いて3人で探してたんだぞ。学校はあらかた探して、もしかしたらって森に入ったら歌声が聞こえてきたんだ。」

「あ…うん、ごめんね。心配かけちゃって。でも、どうしてもこの子を放っておけなくて。」


 ネオンは申し訳なさそうな顔をした後、先ほどまで寄りかかっていたものに目を向ける。

 それはドラゴン、正確にはワイバーンという骨格系統の竜である。その体は透明な青白い鱗で覆われているが、所々が血で滲んで鱗がはげていた。


「このドラゴン?」

「うん。私、前はよくここで歌の練習をしてたんだけど、庭が立ち入り禁止にされちゃって最近練習してなかったの。それで、本当は良くないんだけど今日こっそり庭に入って練習してたら、この子が滝の中から出てきて落ちちゃったのよ。」

「それで介抱しようと思ってここまで降りてたわけか。」

「うん。でも診てみたら翼の骨を折っちゃてるみたいで、ひとまず翼の向きを正してあげたんだけど…。」

「治りそうにない上放っておくわけにもいかず、傍にいてあげてたわけか。」

「うん…。」


 ネオンの意外な一面を零弥は見た気がした。

 優等生で、真面目な彼女が禁止事項を破るようなことも。怪我をしたとはいえ、ドラゴンにやすやす近づいたうえその世話のために身動きが取れなくなるような短絡的な行動に出たことも。まだそんなに長い付き合いではなくともおかしいと感じていた。

 そしてここで初めて知った、ネオンの「歌」。

 色々と考えることがあったが、零弥はまず、目の前のこのドラゴンをどうにかしなくてはと思い立った。


「ネオンは、このドラゴンのことを知っているのか?」

「ううん。ここにこんなのがいるなんて初めて知った。」

「そうか。」


 零弥は痛みにうずくまるドラゴンの身体を観察する。


「翼の骨折以外に、重要そうな問題はあった?」

「うーん、こうやって見える範囲で見ている分に、他には特にないよ。」

「それなら、まずはこの骨折をどうにかしなくちゃな。ネオンは治癒魔法は使えないのか。」

「うん、氷属性や風属性は治癒効果のある魔法がないの。水や光属性があれば治療できるんだけど。」

「そっか。なら、仕方ない…。」


 零弥は立ち上がり、川岸でまっすぐな木の枝を探し始めた。骨折の応急処置の定石、添え木をしようと思ったのだ。

 数分後、それほど綺麗ではないが、まあまあ長めでまっすぐな枝を見つけたので、折れていると思われる部分に当て、ネオンに抑えていてもらうよう頼んだ。


「レミくん、どうするつもりなの?」

「正直まだ実験すらしてないんだが、最近作った治癒系の魔法を使おうと思う。ぶっつけ本番だし、どれだけ効果があるかもわからないけど、他にないしやってみようと思う。」


 驚くネオンの横で、零弥は懐からメモ帳を取り出し、ページを1枚破ってそこに血で文字の羅列を書き始める。どうやらこれを触媒にして魔法を行使するようだ。


「ネオン、暴れるかもしれないから代わって。それで少し離れてるんだ。」

「う、うん。」


 零弥は血で書いたメモ紙を添え木の上に置くとネオンが離れたのを確認して詠唱を始めた。


「我、命ずる。我が庇護の下に、汝の傷みを癒したまえ_【超活性・治癒】!」


 詠唱と共にメモ紙が薄紫色の炎で燃え上がり、その火がドラゴンの翼の骨折部や鱗の剥げた傷に燃え移ると、多少痛むのだろう、ドラゴンは身をよじる。しかし数秒後、ドラゴンは大人しくなると、身体を揺らしながら立ち上がった。


「た、立った!すごい!本当に治ったよレミくん!」

「ふう、上手くいったか。」

「でも本当にレミくんはすごいね!治癒系の魔法でも、骨折みたいな重傷を治すには複合魔法や上級治癒魔法が必要なのに。」

「この魔法は、魔法の力で治してるわけじゃない。俺がやったのは生命活動の強制活性化。それで骨折の再生速度を速めたんだ。

 前々から、『支配』を司る魂属性魔法をうまく使う方法をずっと考えていたんだ。でも支配って言葉の響きがどうしても物騒な方にしかイメージが湧かなかったんだが、その高い強制力を身体強化や治療に使えば強力な魔法になるんじゃないかって思ったんだよ。」


 さて、無事にドラゴンは回復したが、なぜかこの場から動こうとしない。それどころか、ネオンの顔をじっと見つめてる。


「え…と、なんだろう?」

「さあな。気に入られたんじゃないか?」

「そんなこと言われてもなぁ。ねぇ君、ここは危ないよ?早くおうちにお帰り。」


 ネオンはドラゴンを帰そうと話しかけるがドラゴンは小さく鳴き声をあげるだけで離れようとしない。もう放置して帰れば向こうも帰るかと思い背を向け歩き出すもなんと後ろをついてくる。


「…参ったなぁ。」

「本当にな…ん?」


 零弥は何か不自然な音が聞こえた気がして辺りを見回す。ネオンにも伝えるが、音は大きくなっていく。

 それは羽ばたきの音であると理解し、上を見上げると、おそらく親なのだろう、怪我をしていたドラゴンと同じ見た目の、遥かに巨大な竜が真上に来ており、口から光る蒸気のようなものを出していた。


「ネオン!」

「きゃっ!」


 零弥はとっさにネオンを抱き寄せ庇う。竜はその口を開くと、咆哮と共にブレスを撃ってきた。


(頼む、守ってくれ。『AcciaioAnima』!)


 零弥の思いに反応した腕輪はマントとなり、ブレスを受け止めた。その時零弥は理解した。この魔装器の能力を。

 この幻光を発しながら揺らめくマントは、魔力を吸収する機能がある。そして吸収された魔力はガントレットに溜め込まれる。そのガントレットに蓄積した魔力は、レミの魔力として還元も可能であるし、そのまま魔装器の強化・修復に利用することもできる。

 まさに『支配』の魔法による対魔法絶対防御装備であった。

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