夜は明けて・・・⑨
「おい、あの中等部3年に編入してきた兄妹、登校したってさ。」
「大丈夫なのか?入学初日から暴力事件起こしたって話じゃないか。」
「でも私そこのクラスメイトの子から聞いたけど、元はと言えばスカンジルマが妹の子の方に手を出したって話らしいよ?」
「スカンジルマ?あぁ、あの辺境貴族の…。C組はリグニア家の子息以外はほぼみんな平民だし、そのリグニアも魔法は魔法制御のできない落ちこぼれって聞いたし、そいつも調子乗ってたんだろう。いい薬だ。」
「そのリグニアだけど、この間の模擬戦でその魔法制御を克服したらしい。」
「あっ、うちも見た見た!あの例の兄妹のお兄さんのと話をしたあと、凄く器用に魔法制御ができるようになってたんだよ!」
「うんうん、それにあの2人、魔装器無しで模擬戦して、お兄さんに至ってはなんとあのネオンさんと引き分けたんだ!」
「でも、ネオンさんって魔装器使わないってよく聞くけど?」
「それがその時は魔装器を使ってたんだよ。」
「となると、実質その兄貴は中等部でトップの実力者ってことになるな。」
零弥と伶和の編入から1週間、学園は2人の話題が次々と飛び交った。
零弥は、スカンジルマの一件で気性の荒い人物という印象を与えるも、魔法の実力はクロムの落ちこぼれの汚名を拭わせ、ネオンを超える実力者であるという格付けがされた。
伶和に関しては零弥のインパクトが強すぎてやや霞むが、魔装器のハンデにもかかわらず健闘する様や、目立ちにくいがその容姿から密かな人気が生まれつつもあるようだ。
…
「うー…重い…」
両手にプリントや授業で使った備品を抱え、廊下を歩く少女が1人、目的地は職員室であった。
階段を降りれば職員室は直ぐと、階段に差し掛かった時、目の前に突然人影が現れた。
「きゃぁ!」
「うわっと!」
蹌踉めく少女、後ろに倒れ込みそうになる。このままでは尻餅だけでなく、プリントは散乱、備品は落としてしまうだろうと青ざめた。
しかし現実は、肩を力強く掴まれ支えられている。目の前には黒髪黒瞳の少年の顔、その切れ長の目に映る自分の姿を眺めると吸い込まれそうになる。
「えと…大丈夫か?」
少女は一瞬惚けたようにその人物を見つめたが、やがてそれが今話題の人物、零弥であることに気づく。
「わ、わわっ!ご、ごめんなさいすみません!ああのわたしこれでしつれいしますすみません!」
零弥は気性の荒い人物と聞いていた少女は慌ただしくその場を去ろうとする。
「あの…」
「ひゃいっ!?」
「1人で運ぶのは大変だろ?手伝うよ。」
ふっと身体が軽くなる。見ると、先ほどからガチャガチャと重かったりバランス取りづらかったりで邪魔に思っていた機材が零弥の腕に抱えられている。
「え…?」
「どこに運ぶの?職員室?」
「あ、はい。」
それだけ聞くと「じゃあ行こうか」と零弥は歩き出す。少女は驚き混じりに考えた。
(あれ?もしかしてこの人って普通にいい人?)
そして先ほどの一幕、零弥に支えられた肩、あの時の零弥の顔を思い出すと顔が熱くなった。
…
それからまた2週間ほどの間、ホットワードはやはり例の双子。しかし、その内容は時が過ぎるほどに変わっていった。
零弥はそれほど危ない人物ではない。むしろ普段はとても面倒見の良い良識のある人物であると。そして零弥の悪い噂はもう一つの意識、一部女子生徒たちが発端の隠れファンによって根絶されようとしていた。いまや3年の中ではクロムに並ぶ(物理)人物ではと言われている。
伶和はその容姿、大人しい性格とその裏に潜む子供っぽさから地味にファンを増やしているが、伶和のそばには常に零弥がいる。零弥だけでなく、イケメンと名高いクロムや人気ありすぎてむしろ近づけない系女子のネオンがいるせいで伶和のファンは遠くから眺めるのみであったというが、それは零弥達のあずかり知らぬところである。
…




