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夜は明けて・・・③

 時間は少し戻って、波に呑まれた伶和は、光の障壁を無詠唱展開して、水に押し流されながらも、直撃だけは免れていた。

 デニアは正直言って優秀だ。なにせ、中級魔法まで1、2節の略式詠唱で発動できる技量がある。

 彼は、伶和を魔法で弱らせたところをあの鞭でターゲットを破壊して終わらせる気なのだろう。もしくは、あの鞭で伶和を拘束し、魔法でターゲットを破壊する気か。

 一方で自分は、低級魔法なら無詠唱で出来るが、中級魔法以上は3節以上の詠唱を行わないとまだ安定しない。

 自分がこの場で出来ることはなんだろうか?それを考える伶和は、ここで、一か八かの勝負に出ようと決めた。



 尻餅をつき、肩で息をしている伶和に、少し、しかし鞭を振るうには充分な間合いをとり、デニアは、伶和のターゲットを破壊しようと鞭を振るった。


(きたっ、今だ!)


 ばっと飛び起きる伶和。彼女の体は次の瞬間魔力を纏い、左腕で鞭を受け、巻き付けるように掴まえた。


「んなっ、離せ!」


 引っ張るデニア、対して伶和もぐっと引っ張り堪える。

 そして、伶和を引き剥がそうと、手を向けて詠唱をしようとしたその瞬間、伶和は鞭をぐいと引っ張り、デニアに飛びかかり、その額当てに、思い切り頭突きを食らわした。

 突然の衝撃にデニアは吹っ飛び、伶和も頭突きの痛みで頭を押さえてひっくり返った。


「そこまで!」


 そして、少なくともデニアの額当てのターゲットは壊れていることを確認した教師は、試合終了を告げた。

 なお、額当て同士を叩きつけたのだから、当然ながら伶和のターゲットも壊れていた。なので、ルール的には引き分けとなった。


「お疲れ様、伶和。見事な逆転だな。」

「うん、引き分けだったけどね。」

「何言ってんだ。ルール上では引き分けだろうけど、状況からしてみればあれは立派な伶和の勝利だよ。」

「そうだよな。それに、相手は完全にのびてたけど、レナちゃんは痛みで転がってただけだし、あれはレナちゃんが勝ったってみんな思うよ。」

「なんにしてもお疲れ様。はい、これでたんこぶ冷やしたほうがいいよ。」


 クロムやネオンからも労いの言葉をかけられ、照れ隠しか、ネオンに渡された濡れタオルで顔全体を覆ってしまった。


「まぁ、初めての対人戦闘、しかも丸腰のハンデ付きであれだけできたんだ。伶和には才能あるよ。さ、休んでおいで。」


 伶和を木陰の方へ送った零弥。その先で伶和は、早くもクラスの女子に囲まれていた。一先ずは安心である。


「さてと、それにしても魔装器か…どんなものがあるんだろう?クロム、魔装器にはどんなものがあるんだ?」

「どんな物って言われてもなぁ、そもそも魔装器って言うのは、その魔法使いの才能を体現した物になるから、人によって形は様々だよ。剣になる奴もいれば、棒や弓になるのもいる。同じような形の魔装器でも、個人個人で魔力の性質も変わるんだ、その武器の性質も変化するさ。

 例えば俺なんかはこれだ。」


 クロムはベルトのバックルに手をかざすと、その両の手に黒いオートマチックタイプの2挺の拳銃が握られた。


「こいつは『夜葬』。魔力を込めて発射する武器だ。初めて見たときは何か分からなかったけど、使ってるうちに慣れたよ。」

「ん?銃(gun)はこの世界にまだないのか?」

「がん?」

「そうゆう武器のことだよ。本来は、鉛で出来た弾丸を火薬の爆発で射出する武器だ。それだと、弾丸や推進剤の火薬を魔力で埋めてるみたいだけど。」

「へぇ、俺以外には見たことないな。ただ、弓と違って弦を引き絞る必要がないから早くて楽だな。」


 引き金に指はかけずにクロムは虚空へ向けて照準を合わせる。


「まぁ、とにかく、人によってあらゆる武具になるから、よほど目立つものでもない限り、対策は立てようがないな。」

「そうか…。」


 零弥が何事か考え込んでいると、クロムがふと暗い顔を見せたのが目に入った。


「クロム、どうかしたか?悩み事?」

「ん、あ…まぁ、いいか。あぁ、そんなところ。

 俺も、悩んでないでどうにかしなきゃとは思うんだが…。」

「魔法の制御のことか?」

「あぁ。」


 首肯を返すクロム。確かに、魔法使いを目指す学校なのだから悩んで当然だ。


「クロムが魔法を使うところを見ないことには分からないけど…。何か原因はあるだろう。それが分かればすぐさ。」

「そんなのがわかるなら苦労しないぜ…。」

「なら試しにやってみよう。あの壁相手に。」


 零弥はクラスメイトの男子たちが寄りかかってる壁へクロムを連れて行った。


「すまん、ちょっとそこの壁貸してくれないか?」

「ん?ユキミネ?構わんけど…」

「ありがとう。あと、伶和もいるから俺の事はレミでいいよ。」

「ん、わかった。で、何やるんだ?」

「クロムと魔法の練習。」


 周りの生徒たちも、レミとクロムが何かをしてるのが気になってチラチラと窺い見ていた。


「まずは…、

 黒鉄の種よ、寄り集まりて刺し穿つ槍とならん_【地鋼棘】!」


 レミの足元から魔力が地面に染み渡り、地中から何本もの金属の棘が生えてきた。

 棘は二本で一つのアーチを5つ作るように生えると、動きを止める。


「さぁ、クロム、たしか、魔力制御練習は中級レベル以上の魔力の塊を作り、アーチをくぐらせながらターゲットを撃つ。これでいいんだよな?」

「あ、あぁ。」

「んじゃあ、やってみ。」


 一寸の間を空け、クロムはまず手のひらの上に、魔力の塊を作り出した。


(…ん?)


 レミは、その時点でその魔力の挙動に違和感を覚えたが、とりあえずは黙って見ていることにした。

 クロムは魔力塊をふわりと浮かせてアーチをくぐらせ始めた。

 1つ、2つ、3つ目まではくぐらせられたのだが、4つ目から5つ目のアーチへ向かわせようとした瞬間、魔力塊はまるで風船に穴が開いたかのように魔力を噴き出して明後日の方向に飛んでいった。

 その魔力塊はクラスメイトの方へ飛んでいったが、当たる直前に、レミの地鋼棘が魔力塊を貫いた。


「す、すまん!大丈夫か!?」

「あ、危なかった…。今の、レミだよな?ありがとう。」

「いや、もっと暴走を警戒すべきだったよ。すまない。」


 そして、今の一件で、クロムはさらに落ち込んでしまったようだ。

 しかし、レミはそんなクロムの様子を無視して、問いかけた。


「クロムはさ、今作った魔力塊は、どれくらいのつもりで作ったんだ?」

「え?普通に、中級魔法ぐらいの量でやったけど…、」

「俺の見立てだと、今の魔力塊、上級魔法レベルの魔力だったぞ。」

「え?」


 零弥の発言には、クロムだけでなく、周りも驚いた。

 魔力塊を作るだけでも、工程的には魔法と同じなので、クロムの作った闇属性の魔力塊は、黒い塊としてみんなにも見えていたが、その大きさは到底上級魔法に使うものではなかったように見えた。


「なぁ、えーと…」

「マイルだ。」

「ありがとう。マイルはさ、クロムの魔法適性判断の時のこと覚えてるか?

 俺は伝え聞いた話しか知らないけど。クロムは高純度、高密度の魔力を大量に作り出すポテンシャルを持ってるんだよな?」

「そういや、魔力制御が下手って話が先行してたせいで、半分忘れてたなそれ。」


 それを見て、誰もが期待したからこそ、その後の問題が発覚した時の掌返しも落差が大きかったのだ。


「クロムの魔力塊が暴走した時、風船が割れるような挙動に似てた。

 これは推測なんだけど、クロムは自分の魔力がどれほど強力なものなのかきちんと理解できてないんだろうな。

 風船てのはさ、たくさんの空気を入れればパンパンになって硬くもなる。けど、空気を入れ過ぎれば内側からの圧力に耐え切れず破裂してしまう。

 これに例えるなら、クロムの魔力は、凄まじく圧縮された空気を、容量いっぱいに風船に入れてるようなもんだ。

 風船に詰め込まれた後も、クロムの手の中にある間はクロムの魔力で押さえつけられているから、耐えられるけれど、クロムの手を離れて、クロムから離れるほどに、風船を押さえつける力は弱くなって、中の魔力の圧が下がって膨らむ。そして、膨らんだ魔力は魔法の形を保つ殻を破って噴き出す。そのせいで魔法が不安定になるんだ。

 つまり、クロムは魔力制御が下手なんじゃない。ただ、自分が思っている以上に精錬能力が高すぎるんだよ。」

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